(3)
「田中もこっちか……」
僕は、佐藤達いじめっ子3人組と一緒の部屋で待たされていた。
でも……。
僕は手も足も2本づつ。体は前の世界のよりマッチョだけど、概ね手が2本、足が2本、頭も1つ(そう言えば、この「地獄」に転生してから一度も鏡を見てないんで、どんな顔か判らないけど、佐藤達と同じ「髭も髪の毛も無い角が生えた獣っぽいような人間っぽいような」顔なんだろう)だ。木村くんと渡辺も同じだ。でも、佐藤は、腕の数が増えている。
「ああ、これか? 適性検査の結果、十人に一人ぐらいのエリート要員だって言われて、この姿に改造されたんだ。何で、エリートだと腕を増やされるか判んないけどな」
「へ……へぇ……すごいね……」
「でも、十人に一人ぐらいって、そんなにすごいか?」
こいつは、いつもそうだ。
でも、多分、悪気は無い。
東大に余裕で受かった人が、Fランにやっと受かった奴に「東大に受かるなんて、そんなにすごい事じゃないよ」とか言ったら、ただの嫌味だ。
きっと、佐藤は、そこが判らないんだろう。
「シャワー室が空いたぞ。次の十匹来い」
その時、「人材派遣業」の「社員」の魔族が、僕達にそう言った。
「シャ……シャワー?」
「この世界にも、そんなモノが有るのか?」
「ここは、他の色んな世界の罪人の魂が行き着く果てだぞ。俺達が、他の世界で発明されたものぐらい、知ってて当然だろ。どんなド田舎だと思ってたんだ?」
魔族の「社員」が面白くも無さそうな表情(ちなみに、段々、表情を読めるようになっていた)でそう言った。
「じゃあ、Wi−Fiのパスワード教えてもらえる?」
両手の手のひらで円を描くような変な仕草をしながら木村くんがそう言うと、佐藤と渡辺が、プッと吹き出す。
どうも、何か元ネタが有るギャグみたいだけど……僕は、その「元ネタ」を知らない。
「この世界にも、お前達の世界で言う『スマホ』や『PC』や『タブレット』に相当するモノは有るが、今のお前らには手の届かない超高級品だ。お前らにWi−Fiの接続方法を教えても意味はない。知りたけりゃ、スマホなんかを買えるぐらい稼いでから出直して来い」
魔族の「社員」が白けた顔のまま、そう答えた。
「じゃあ、ラノベみたいに、元の世界の知識を使って無双なんて出来ない訳か……」
「ごめん、ラノベなんか、あんまり読まねぇんで」
「俺も、田中が何言いたいか判んねぇよ」
「俺も……」
「ホント、田中は、どこの世界に行っても田中だな」
「ところでさぁ……『シャワー室』って、元の世界じゃ、変な意味無かったか? 何かのTV番組で、そんな話を観た覚えが……」
「ぎゃああああ〜っ‼」
この世界の魔族は、本当に他の世界の知識を色々と知ってるらしい。
シャワー室は完全防音。壁や扉は非常に頑丈。ボクがのたうち回って壁や扉に体をぶつけてもビクともしない。
唯一の問題は……「派遣先」の注文に合わせて、僕達の肌の色を変える「薬品」を浴びると……僕達の全身に激痛が走ると云う事だった。
明らかにヤバそうな感じの何色もの派手な色が入り混った液体が、僕の体に注がれ続ける。それほどの温度は無いのに、僕の体からは、煙だか湯気だかが立ち上っていく。
「た……たすけて……死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。むしろ、死なせて。うぎゃァァァァァァっ‼」
『大丈夫だ。苦しいかも知れないけど、お前らの体は、そうそう簡単に死なないようになってる』
どうやら、僕達の世界の「スピーカー」に当たるモノまで存在するらしい。
ついでに「シャワー室」でも声が聞こえるって事は、防水仕様なんだろう。
その液体は文字通り僕の肌を溶かし……そして、赤っぽい色だった元の肌より暗めの色の新しい肌が再生する。
どうも、肌が溶ける時と再生する時のどっちでも痛みが走るらしい。
まぁ、とは言え、死なないってのは本当みたいだ。
この謎の液体を浴びても、皮膚が溶けるだけで、皮膚の下の筋肉は……無事だ。
皮膚が溶けてから再生が終るまでの間、一時的に剥き出しになった筋肉に、この謎液体がかかっても、筋肉には何の変化も影響も無いっぽい。
そして、目に入っても……痛くも何ともない……。あくまでも目は……。目を覆っていた
でも……おねがいです……せめて……気絶させて……ください。
冗談ぬきで……おねがいだから……。
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