第6話

 次の日、バスケ部の練習が終わって、慎ちゃんと一緒に下校する。電車の中で告白のことを報告したら、質問攻めになった。外で話すのも何なので、いつものように慎ちゃんが僕の家に寄り、僕は一部始終細かく説明した。

「なんていうか……重いな。告白がOKされて、すごくめでたい事なのに素直に喜べないな。俺が言うのもなんだけど」

 慎ちゃんが難しそうな顔をして言った。

「僕も、けっこう浮かれた気持ちになるかと思ってたんだけど、実際はそうでもなかった。でも、嬉しい気持ちはもちろんあるよ。しみじみと嬉しい感じがする」

 僕は言った。

「……高校生の恋愛って感じじゃないよな。俺だったら、嘘でも『お前を守ってやる!』とか、言っちゃいそうだけど。それを言わないスガは、さすがだと思うし、それでOKする木村京子も、計り知れないというか……」

 慎ちゃんがますますしぶい顔をしている。

「『お前を守ってやる!』っていいね。そうしたら、もっとハッピーな感じになってたのかも。でも、ちょっと僕には無理だな」

「スガはそれでいいよ。たぶん、そういうスガだから、木村京子もOKしたんだろう。俺には分かる。まあ、何はともあれめでたいよ。スガ、おめでとう。先を越されたな」

 慎ちゃんが握手の手を差し出し、僕はそれを握った。

「今度は慎ちゃんの番だね。聡美ちゃんに、告白しないと」

「えっ俺? いいよ俺は。当分いいよ。スガの恋愛を観察してからにするよ」

 慎ちゃんが慌てて言った。

「観察って……。慎ちゃんは聡美ちゃんのどこが好きなの」

「どこがって、そんな難しいこと言うなよ。そんなこと言えねえよ。お前は言えるのかよ」

「木村さんの好きなところでしょう? えーと、不思議な世界観と、体型かな」

「体型?」

「うん。線が細くて、パーツが小さいのに、しなやかで頑丈そうでしょう。かなりそそるよ。ずっと眺めていたい」

 僕は言った。

「スガ……。お前はいつも俺の予想をはるかに超えていくな。幼馴染として誇りに思うよ。まったくたいしたもんだ」

 なぜか僕をにらむようにして、慎ちゃんが言った。


「それで、聡美ちゃんのどこが好きなの?」

「そうだな……あれだ。あの、お高く留まっている感じがいいよな。偉そうだしな。ああいうのを彼女にして、罵倒されてみたいと言うか。ほら、ツンデレ? そういうやつ?」

「慎ちゃん……」

「いや、デレは別にいらないんだよ。ほら、武士が方頬で年に一回だけ笑う感じ? それぐらいがいいかな」

 武士……。

「ようするに慎ちゃんは、聡美ちゃんが武士っぽいから好きって事?」

「違うよ! スガは分かってねえなあ。あくまで例えだよ。まあ、武士っぽい女って、ちょっといいけどな……」

「聡美ちゃんは武士じゃなくて女の子だよ」

「そんなの分かってるよ!」

 怒ってるのか恥ずかしがってるのか、慎ちゃんの顔が真っ赤になっている。

「慎ちゃんも告白しちゃいなよ。僕はお似合いだと思うよ」

「馬鹿、無理だよ。お前、武士に告白できるわけがないだろ。ばっさり切られちゃうよ。絶対切られるね」

 手を大きく振って、慎ちゃんが無理だと言う。ものすごい恥ずかしがっているのは分かるが、ここまでカタクナにならなくてもいいと思う。これがプライドの弊害というやつか。

 慎ちゃんと聡美ちゃんは昔から成績優秀で、学級委員や生徒会を歴任してきた。小、中学校とそれぞれ、男性陣と女性陣の代表のような立場だった。ライバル関係と言ってもいい。激しく口論しているところも、僕は見たことがある。二人とも頭がいいので、かなりハイレベルな口論だったと記憶している。

「そういえば小学校の時、慎ちゃんと聡美ちゃん、プロレスやってたよね」

「……ああ」

「聡美ちゃんがプロレス技を仕掛けるのは、ほとんど慎ちゃんだけだったよね」

「何が言いたい」

「結構高学年になるまでやってて、僕はそれを見るたびドキドキしたよ。僕だけじゃなかったと思うけど」

「……」

「関節技とか、いろんな意味できわどかったよね」

「おお、もうやめてくれ。スガ、もうまいった。まいったから!」

 目をつむって両手で頭を抱え、慎ちゃんが苦しそうにしている。

「あの頃から好きだったわけですね?」

「……だよ」

「なんですか?」

「そうだよ! 昔から好きだったよ!」

 体の大きな慎ちゃんが、全身をバタバタさせて、僕の部屋で身悶えしている。行く当ての無い無駄なエネルギー。

「こんなことじゃ、本人に告白するのはまだキツイかもね。もうちょっと様子を見ておきましょうか」

 僕が言うと、暴れていた慎ちゃんの動きが止まった。

「それでお願いします……」

 床にのびたまま、か細い声で慎ちゃんが言った。 

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