第2話 僕のこと
僕はというと、
「なんでナオがレスリングなのかワケ分からん」
と友達が不思議がるほど華奢で色白。格闘技をやってるのにアグレッシブじゃないし。
「ひな人形の五人囃子にいそうだよね、ナオって」
なんて女子には笑われる。気分悪くてガッくんに愚痴ると、
「そうなんじゃね?」
なんて一言で片付ける。ムッとすると、
「ちげぇよ。たぶん女子もバカにしてるんじゃねぇってこと。お前がキレイな顔だっていいたいんだろ」
たしかに僕は小顔で眉も目も細いし、唇も薄くて小さい。
秋に鎮守さまのお祭りがあるんだけど、小学生の僕がやらされたのは決まって稚児さん。行列の先頭をきって町を練り歩き、神社で白龍の舞を踊らなきゃならなかった。白粉をベッタリ塗られるので大嫌いなのに、宮司さんはふくれっ面の僕に、
「ナオは稚児頭と決まってるんだから諦めな。ナオは白龍さまの生まれ変わりなのかも知らんって、爺さん婆さんは本気で思ってるしな。俺も何十年といろんな子の舞を見てきたが、お前の舞は上手いのを通り越して神々しくみえる。なぁに、小学生の間だけのお務めなんだからよろしく頼むわ」
って言うもんだから、去年までそのお務めを果たしてきたんだ。
ちょっとお祭りの伝説を説明するね。
白龍さまは、もともと人の子だった。庄屋の跡取り息子なのにぜんぜん偉ぶらず、村の同い年の子どもたちに交じって平等に遊ぶ気立ての優しい子だった。
大人とは違って子ども同士は正直にお互いのことを話すよね。だから村人がどんなことで大変な思いをしているとか、誰さんちが食うに困っているなんて話は、息子を通じて庄屋さんは正確に知ることができて、早く正しく解決することができたんだ。おかげで村は富み栄え、噂を聞きつけた身分の高いお役人さんが視察にくるほどだった。
だけどある年、ひどい干ばつが地域を襲った。穀物は枯れ、年貢に納める米はおろか日々の食料も尽き、村人は餓死を待つしかないところまで追い込まれちゃったんだ。
人身御供しかない。それが村人の結論だった。神さまは人の子が好きだ。だから人の子を捧げれば雨を降らせてくださるだろう。でも、どの家の子を捧げればいいのか。庄屋さんのもとに集まった大人たちは、当たり前だけど結論を出せずに黙り込むしかなかったんだ。
そのとき、外では村の子どもたちが集まり、行列を作って鎮守さまに向かって歩き出していた。先頭には白装束の庄屋の息子がいて、境内に着くと誰も見たことのない美しい舞を舞い始めた。誰もいないはずの社殿から流れる天上の調べとともに。そして突然、音を立てずにひと柱のまばゆい稲妻が天と少年を結び、他の子どもたちは驚いて地に伏した。恐る恐る顔を上げると、少年の姿はなく、白装束だけが落ちていた。そしてザァザァと激しい雨が降り始め、三日三晩降り続けたそうな。村人は少年に同行していた子どもたちから話を聞き、少年が龍神の生まれ変わりだったのだと信じた。そして、それまで行っていた収穫の祭りを白龍さまの祭りに改め、永遠に少年を讃え加護を願うことにしたんだって。そういや、
「ナオが舞い手でなくなって正直、ホッとした」
って最後の舞を終えた後でガッくんがボソっと呟いたんだよね。
「あ、どうして?」
って訊いたら、
「舞が終わると爺っちゃや婆っちゃがナオを拝んで泣いたりするだろ。俺さ、なんかナオがホントにいなくなっちゃうんじゃないかってスゲぇ心配になるんだよな。もう気を揉まなくてもいいって思うとホッとするんだ」
「もー、ガッくんってば僕がUFOとか幽霊の話をするとバカにするくせに。僕よか超常現象を信じてんじゃん!」
「だって神がかってるってゆーのか、うまく言えないけどホントに心配になるんだよ。スゲぇきれいだし。いつものナオじゃない感じがするから怖ぇんだよ」
真顔でこんなことを言われちゃうと、どう答えていいか分からなくなる。でも息がかかるぐらい間近のガッくんを見つめかえすと、なんか胸がチリチリして痺れるような感じがするんだよな。
神がかったお話ならいくらでもしたいんだけど、家族の間の話はあんまりしたくない。最悪なのは結婚して家を出て行った姉ちゃんだ。たまに実家に戻れば、
「あんた、ち○ち○に毛ぇ生えたの? つか、だんだんキレイになってきたじゃん。アタシ好みの子になってくれて姉としちゃ自慢だけどね、かかか」
なんてデリカシーのカケラもないことを言うからマジむかつ。男子って女子が思うほど鈍感じゃないんだよ。ちなみに姉ちゃんは世にいう腐女子。なので変なことで僕を自慢の弟にしている。洗脳されたんだと思うけど、近頃では旦那のヤスさんまで、
「ナオくん、やべぇよ。このまんま大人になったら、絶対男に襲われるぜ」
と、まだ少年の僕にセクハラ発言をして喜ぶようになってる。ついでに母さんも、
「もういいじゃない。男同士でも女同士でも結婚できるんでしょ、今は。ガッくんみたいなステキな男の子なら、旦那にしても構わないわよ」
と、勝手に盛り上がるし。
でも「ガッくんとお似合いだ」って言われると、もの凄く恥ずかしい。そんなふうにイジられることに腹も立つんだけど、実は心のどっかで喜んでもいる。もちろん、ガッくんには聞かせたくないけどね、こんなこと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます