少年レスラーは肌で恋をする

亜樹

第1話 ガッくんのこと

 僕はナオ。田舎町の公立中学に通う中学1年生だ。

 幼馴染みのガッくんとは、幼稚園の頃からのレスリング仲間だ。

 体格も性格もデコボコだったのがよかったのか仲はむちゃくちゃいい。

 僕は42キロで、ガッくんは身長が53キロ。階級が違うので試合でぶつかることはない。でもスパーリングはイヤというほどやってるから、お互いの長所や欠点はよく分かっている。

 ガッくんはガタイがいい。まるで一年中、海で泳いでいるみたいに肌が浅黒い。筋肉マンで、動くたびに皮膚の下の筋肉がクリクリと動くのがよく分かる。太腿と胸の筋肉なんか、ちょっと激しく動くだけでプルンプルンと弾力のあるゴムみたいに飛び跳ねるんだ。僕はガッくんの筋肉を見るたびに身体の芯にチリチリと電流が走る。なんでか分からないけど。

 ぱっと見た目には、少し野暮ったいかも。針金みたいに硬い五分刈りの髪(ホントは柔らかい)に太い眉。どっちかといえば柔道少年っぽい。かわいい団子っ鼻とぷっくりとして大きな唇。普段は眠そうにしているのに試合になると鋭い目つきになるのがカッコいい。少なくとも僕にとってはね。

 7才も年の離れたお兄さんがいて、そのお兄さんに凄く憧れているせいだからかな。親分肌なのに甘えん坊で、意外と面倒くさい性格だ。

 弟が欲しかったというガッくんは、同学年のくせして僕にはずっと兄貴みたいに振る舞う。シャツの裾がはみ出ていれば黙ってズボンに押し込んでくれるし、学生服の詰め襟のフックが外れていれば、やっぱり黙って直してくれる。わざと外してるのを知ってるくせに。

 世話焼きでウザいこともあるけど、僕がケンカに巻き込まれると相手が上級生だろうが飛びかかっていくほどボクのことを大切に思ってくれている。小3の時に僕が交通事故に遭って全治1ヶ月の怪我を負ったときにはベッドの傍らで僕の手を握り、大泣きしてくれたし。

 お父さんが職人さんだからかもしれないけど、いい加減なことが大嫌い。人の好き嫌いも激しい。内気で人見知りだから仲良くなるのも時間がかかるけど、友達と認めたらとことん付き合ってくれる男気のある奴だ。

 だからクラスメートからは絶大な信頼を寄せられている。目立つのはホントに苦手な奴なのに、中学生になった途端に学級委員に選ばれちゃったし。

「ざけんなよ、なんで俺なんだよ。ナオも俺に一票入れただろ。この裏切り者!」

 なんて叫んで僕にヘッドロックをかけてくる。ガッくんが悪いんだろ、いい奴で人気者なのがいけないんだ。

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