第6話 正体




 そうです。

屏風びょうぶのむこうにいるもの」が、大きな、得体のしれない、恐ろしい何か、だなんてことは全然なくって。

 かくれんぼの鬼になって、おっかなびっくり奥の部屋を探しにきた、べつの子供だったんですよ。


『屏風の部屋』に入って、あの屏風に出くわして……その子も同じだったみたいですね。

 屏風のむこうに、なにかブキミな、得体えたいのしれないものを感じて、その場に凍りついたままになって。

 いやまあ、なおさら気の毒ですよね。

 隠れてた子より、二つも小さかったわけですし、何より、そのおそろしい屏風が倒れかかって、まあ襲いかかってきたわけですし。

 そりゃもう、呼吸くらい止まったって仕方なかったのかも。




 ああ、納得いってなさそうですね。

 そりゃまあ、あのころは、私も納得いきませんでしたし。

『屏風の部屋』にまつわる、なんとも言えない気味わるいフインキは、つね日ごろ感じてはいてもね。

 いくらなんでも、屏風一枚はさんだだけで、ただの子供どうしがお互いを、そんな得体のしれないなにかだと思いこむなんて、ええ、ピンと来ませんよね。


 でもねえ、納得せざるを得ないというか、成りゆきはともかく、感じた恐怖は本物だったんだろうなあ、ってこともあったんですよね。

 10歳のほうの子、隠れてたほうの子は、それっきり、二度とうちには来ませんでした。ええ、家族ごと。

 年末年始だけじゃない、お盆にも、春と秋のお彼岸にまで、うちに顔だしてたような一家だったんですけどね。それっきりです。

 なんか、学校にもろくに行けなくなったとか、病院に通ってるとか、そんな話も耳に挟みましたし。

 それで、もう一人のほう、8歳の、あとから『屏風の部屋』に入ったほうの子ね。


 死んだんですよ。




 救急車で市立病院にかつぎ込まれて、それから入院ってことになって。

 2月になってから退院したんですけど。そのあとも何度か入院つづけて。

 それから、もうすぐ三年たつかな、って頃に死んだらしいんです。


 そういう訳だけに、その子のほうの話はあまり聞こえてきませんでしたけどね。聞こえてくる話だけでも、まあ痛々しい話でしたよ。

 毎晩のようにうなされる。うなされて、呼吸もみだれる、下手したら止まる。心臓もおかしくなったみたいで。

 何より、物陰を、見えない場所を、えらく怖がるようになったらしいんですね。

 病室のベッドのカーテンが怖い、窓のカーテンも怖い、ドアでさえ怖い。

 無理して病室も一人部屋に入ったり、治療もいちいち大変だったみたいですし。


 おびえるらしいんですね

 なにかがいる、って。


 なにかがいる。物陰にはなにかがいる。ひそんでる。潜んでこっちをねらってる。

 時にはのぞいてくる。

 物陰から、こちらをじいっと覗いてる。こわい目が覗いてくる。こわい顔が覗いてくる。


 恐怖症、っていうか、そんな感じの病気だったんでしょうけどね。『屏風の部屋』でのあの体験がわざわいして。

 聞いてるこっちも怖くなってきますよね。

 もうこれ、あれじゃないですか。完全に、あれ。

屏風びょうぶのぞき』ですよ。




 まあ、でもね、それ聞いてもね。

 納得いったわけでもなかったんですよ。完全にはね。

 なんて言うか、ね、なんかの間違いみたいなもんだろう、って。

 かわいそうな、痛々しい話ではあるけど、なんやかや運がわるかったとかで、そこまでひどい話には、そう滅多になるもんじゃない、ってね。


 ――それがひっくり返されたのが、その暮れの事件があってから、3年と……3カ月くらい後のことでした。



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