第5話 みいつけた




 これ、後から聞いた話です。

 意識のもどったその子たちから、大人たちがなんとか話を聞きだして、それを親からまた聞きした。



 10歳のほうの子は、かくれんぼが始まってすぐ『屏風びょうぶの部屋』に隠れたんです。

 話しましたっけね。奥まった、行き来のない部屋だから、厄介やっかいな屏風をおいとく部屋にしたって。


 それがわざわいしたんですねぇ。

 ひとがない奥の部屋なんて、かくれんぼで隠れるにはもってこいな訳ですから。

 しかも、屏風はその真ん中に、でん、と置いてある。隠れ場所にはぴったりだと、その子、考えたわけです。

 大きな屏風ですからね。小さな子供にとっちゃ、その後ろは、一つの部屋くらいの広さに思えたでしょうね。

 で、その隠れ家に身をひそめて、すこしばかり落ち着いた。

 その時だったらしいんです。

 


 がらっ、とふすまの開く音がして、

 屏風のむこうに、なにかが立ってた。

 大きな「何か」が、立ってたんだって。

 ええ、屏風の向こうに。


 ええ、その子ね、凍りついたとか、そんな感じだったらしいですよ。屏風のかげで。

 なにせ年の暮れでしたからね。午後も四時をまわれば、もう日の光はたよりなくなる。

 もちろん隠れてるんだから、部屋の電気なんてつけるわけがない。

 夕ぐれのさびしい光だけのうす暗い部屋で……まあ、言ったように、ふだんは誰も来ない、ただでさえさみしげな、人の香りのしない場所ですよ。


 そんな場所でですよ、うすい屏風へだてて、ほんの二メートルもしない場所に、なにかがいる。

 そんな所、だれか大人が通りがかってくれるわけもない。ほら、年の瀬ですし、見るからにいそがしくしてて。

 助けを呼ぶ、それ、無理ですよね。

 声なんか立てたら……屏風のむこうにいる「何か」は、どうするのか。

 その先を、いや、声を立てる想像をするだけで、のどはもうかちかちに固まっちゃって、息すら苦しいって有様で。


 声もだせない。動けもしない。

 それなのに、さびしい夕陽はさらに暗くなってくる、あたりはますます静まりかえって、あれだけ人がいるはずの家なのに、だれの気配もしない。

 そして、屏風のむこうにいる「何か」の気配だけが、それだけが、どんどん濃くなってゆく。

 いやまあ、どのぐらい長いこと、その子がそうしてたんだかは知りませんけど。

 まあほら、私だってずいぶん長いこと隠れてたわけですから。

 それにそんな状態ね、もう、耐えられないですよね。ほんの10分くらいだとしてもね。



 ええ、そうなんですよねぇ。

 耐えられなくなったんです、結局。



 本人も、まあ、錯乱さくらんというか、してたわけですし。詳しいことは全然わかんないんですけど。

 泣き叫びながら、屏風にとびかかったらしいんですね。

 正確には「屏風のむこうにいる何か」にとびかかった、って言うべきなんでしょうけど。

 いやまあ、恐怖のいわば大元おおもとにとびかかったわけですからね。人間の心理ってのはわかりませんよねぇ。


 で、泣き叫ぶ声と、なにか倒れる音がして。

 なんだなんだと、大人たちが駆けつけて。


 見たものは、倒れた屏風。

 その上で、狂ったように泣きながらのたうちまわってる子供。

 そしてその、屏風の下で――泡をふいて気を失って、もう息もおかしくなった、8歳の子だったそうです。



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