屏風のぞき

武江成緒

第1話 妖怪




 屏風びょうぶのぞき、っていうみたいですね、はい。


 部屋に布団しいて、それ隠すために屏風たてて

 その向こうで寝てると、真夜中に屏風の上からのぞきこむっていう、はい。


 ああ、そうですね。江戸時代の本にってるらしいですね。

 うん、それ、トリヤマセキエンとかいう人の絵。

 なんかで見ましたよ。いかにもおどろおどろしい、幽霊みたいのが、屏風のむこうを覗きこんでるっていう絵。


 ええ、ああいうの、珍しいですよね。

 ふつう、妖怪の絵って、前のほうから描くかたちになるじゃないですか。

 妖怪にあった人間、妖怪を見ておどかされてる人間の視点で描いてるわけですよね。

 横合いから描いてる構図もあるけど、その場合はバッチリ、妖怪と向かいあって驚いてる人間が描かれてる。

 それがあの絵は、妖怪の背後からのアングルで描いてるんですね。

 妖怪に脅かされてるはずの人間は、屏風の向こうにいる。だから見えない。


 なるほどなぁ、こういう描き方もあるんだなぁ、って、あの絵を見たとき感心したんですよね。

 妖怪じゃない、妖怪を見て怖がってる人間のほうをおぼろげに描く、逆ですよね。

 それなのに、人間の姿が隠れてることで、かえってブキミな感じが強まってる。


 ええ、そこなんですよね。

 妖怪ってのは、人を脅かすものじゃないですか。

 現代じゃ、子供むけアニメにもばんばん出てますけど、気味がわるいもの、怖いものっていう基本はどこかにありますよね。

 妖怪というモノがまずいて、人がそれを見ておびえるんじゃない。

 人の脅えのほうが、妖怪ってものの、まあ、本質なんですよ。


 それを、脅えてる人間のほうを隠して描いてることで、想像の余地を残す、ってやつですか、そうやって恐怖をより強く表現してる。

 つまり、妖怪を描きだしてるわけです。

 あの「屏風のぞき」の絵は、そこの所をどんぴしゃりに突いてると、まあ、思うんですよね。



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