第20話 その後の2人
「あ!久しぶりね凜。それに彰人君も。」
休日に地元のショッピングセンターで凜と買い物をしていると橘さんとバッタリ逢った。
「由美久しぶり!」
「あぁ俺らの結婚式以来か?」
「ええ、そうね。本当に久しぶり。」
社会人にもなると、お互い忙しくてなかなか予定が合わない。
久しぶりの親友との再会に凜もすごく嬉しそうだった。
「そういえば、結婚式のスピーチありがとな。本当に嬉しかった。」
「いいのよ。約束だったし。」
…
「もう行くわ。2人の邪魔したら悪いしね?」
気を遣ったのか、立ち去ろうとする橘さんを凜が呼び止める。
「えーもっと話そうよ!いいでしょ?彰人」
「あぁもちろんだ。買い物も終わったし。変に気遣わなくてもいいからな?」
「そ、そう?じゃあ、お邪魔します。」
「じゃああそこのカフェなんかどうだ?空いてるから3人でもすぐ入れると思う。」
「え?」
ジト目で睨んでくる凜。どうやらお呼びじゃないらしい。
親友同士積もる話もあるだろう。
「あーそうだ見忘れた店何軒かあるから、終わったら電話して。」
俺がいたら話せない話もあるだろう。
「うん。じゃあね!」
笑顔で手をブンブン振る凜とペコリと頭を下げる橘さんに見送られる。
さて、どこか時間の潰せるところに行くとしようか。
カフェ店内
「本当によかったの?」
勿論、彰人君をほったらかしにしていることだ。
「いいの!彰人がいるとできない話あるじゃん?彰人の愚痴とか恋バナとか。」
「それもそうね。けど嘘はダメよ?凜。」
「話したいのは愚痴じゃなくて惚気でしょ?」
親友の私にはわかる。
「え、そんな」
「別に私に気を遣わなくてもいいから。私も最近、彼氏できたから、昔みたいに妬いたりしないって。」
「え、彼氏できたの?誰?!やっぱり平君?」
「え、えぇ。」
凜と彰人君をくっつける作戦をきっかけに仲良くなったのだけれど、今は触れないでおく。先に、目の前の話したがりさんの話を聴いてあげないと。
小さく咳払いして仕切りなおす。
「そ、それに、彰人君との惚気を聞ける人なんてわたしくらいでしょ?」
「だから遠慮しないで?」
「由美//」
そして嬉しそうに惚気始めた。
「彰人に貰った結婚指輪をうっかりなくしちゃったの。」
「それは大変ね。」
「心当たりは全部探したんだけど、見つからなくて彰人に言ったんだ。ごめんなさいって。」
「そしたら彰人なんて言ったと思う?!」
テーブルに身を乗り出し少し興奮した様子の凜。よっぽど嬉しかったのだろう。
「わからないわ。」
ここで正解してしまったら、言いたがりの凜の発言機会を奪ってしまうことになるため自重する。
「彰人ね…
『指輪が無くなるときは、持ち主の身代わりに災いを引き受けてくれてるらしいし、指輪に感謝だな。もう一回探して、なかったら新しいのをお揃いで買おう。ちょうどボーナスも入ったし。あんまり気にしないでいいぞ?』
って言ってくれて頭なでなでしてくれたの!!」
ものすごく嬉しそうな凜。彰人君の良いところを共有したくて仕方なかったのだろう。本当に彰人君のことが好きなんだなと改めて思う。
それから40分ほど、結局指輪が見つかった話や惚気話、思いで話に花を咲かせたが、少し愚痴をこぼしはじめた。愚痴と言っても可愛いヤキモチのようなものだけど。
「今日由美と逢う前、彰人に会社の後輩らしい女の人が話しかけてきたの。しかも慣れなれしく!」
「ええ。それで?」
確かに、彰人君は、ほんの少しだけモテる。高校時代にも2人彰人君を好きな女の子がいた。でも、それだけならよくある話だと思う。
「彰人ったらね。その後輩の人を下の名前で呼んでいたの!『あおい』って!」
「いくら会社の人でも下の名前で呼ぶのは怪しいよね?よね?」
頬っぺを膨らませながら話していたが、話終えると少しだけ悲しそうに左手の薬指に視線を落とす凛。
「ごめんね。こんな話。」
「いいのよ」
…おそらく凜の勘違いだろう。女性には奥手で凜一筋の彰人君が凜の目の前で他の女性を名前呼びするはずがない。
「彰人君に訊いてみたら?あおいって女誰よ!って」
「そうだね!」
やはりうじうじ悩むのは性に合わないのか、早速、彰人君に聞くみたいだ。
2分ほど携帯とにらめっこしたあと凜は笑顔でサムズアップをしてきた。
「やっぱり凜の勘違いだったようね。」
「うん。葵っていう苗字だったみたい。珍しいよね?それに彼氏もいるらしいし」
高校時代からの凜の早とちり癖はなおっていないようだった。
「さて、そろそろいくわね。平君にご飯つくってあげないと。」
「え?もうそんな時間?!」
「由美、結婚するときはスピーチ任せてよね!」
「ええ。お願いするわ。また話しましょ。」
「うん!バイバイ!」
笑顔で見送ってくれる凜。本当にいい友達をもった。
…
「凜、このあと彰人君に思いっきり甘えるのかな?」
「わ、わたしも//」
そんな独り言をつぶやきながら、私は平君の家へと向かっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ごめんね。彰人デートの途中に。」
「気にすんな。それより楽しかった?」
「うん」
「そりゃよかった。それより変な話してないよな?惚気話とか。」
「あ、ダメだった?」
「あぁダメだ。恥ずかしい。」
橘さんに話すということは、その彼氏で俺の親友の豪太にまで筒抜けということだ。物凄く恥ずかしい。
「どこまで話した?」
今日キス事件意外なら許容範囲だ。
「えっとぉ。指輪なくしたとき彰人がカッコよかったこと。それに、彰人が意外と出世してるってこと。それから彰人が甘えん坊さんなこととかかな。」
「そうか。」
十分恥ずかしいが、想定内だ。今日キス事件以外は、、、
「あ!あと今日キス事件の話も!」
思い出すのも恥ずかしいが、今日キス事件は、つい先日発生した。
…
その日は残業で凄く疲れていて、帰宅後は直行でベッドに向かった。
凜が出迎えてくれたので、
「おやすみ凜。」
とだけ話し、ベッドに倒れこもうとする俺の服の袖を凜が掴んで
「待って」
「なに?明日早いんだけど。」
「今日おはようとおやすみしか話してない」
「それに//今日キスしかしてない////」
「凜…」
上目遣いでそんなこと言われると、疲れなどふっとぶ。
無論、翌朝会社に遅刻しそうになったことは秘密だ。
という話だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うぉぉぉ
内心叫んだ。物凄く恥ずかしい。絶対豪太にイジられる。どんどん顔が熱くなっていくのを感じた。
そんな俺の様子に日常のさりげない幸せを感じたのか。凜が俺の手を握り語りかけるように優しくつぶやいた。
「ずっとこんな風に笑いあって楽しく過ごしたいね。」
俺は凜の手を強く握り返して意思表示をする。
今まで、色んなことがあったし、これからも色んなことが起こるだろう。
けど、とりあえず今は本当に幸せだ。ありがとう藤原凜さん。
あ、また間違えた。やっぱりまだ慣れないな。
ありがとう源凜さん。
お読みいただきありがとうございました。マジで感謝!
【完結】俺と彼女のエンドロール 旧題:美少女の幼馴染が俺に構う理由 春風上東 @springwindupeast
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