第18話

「お邪魔します」


手紙でいわれた通り、凜の家に来ている。いよいよか。。


凜のお母さんに促され凜が待つ2階の部屋へと重い足取りで歩く。


「凜、俺だけど入っていいか?」


「いいよ!」


「あぁ」

小さかった時から変わっていない必要最低限の家具しかないシンプルな部屋。飾らない性格の凜らしい部屋だ。


「昨日は悪かった。随分待たせてしまったみたいで。俺なんかのために時間取らせてごめんな。」


「気にしないでね。私が好きで待ってただけだし。」


「助かるよ。」


「彰人、大丈夫?顔色悪いよ?」

凜はベッドに座っていて、俺は立っているので必然的に凜は上目づかいになる。  やっぱり可愛い。


「ちょっと考え事があって昨日は寝れなかっただけだよ。」


「そう…」


「それで話って?俺も大事な話があって凜に伝えないといけなかったから丁度良かったわ。」


「え?そうなの?彰人からどうぞ!もしかしたら同じ話かもしれないし。」

まぁ同じ話なのは確定だろう。俺達の今後の関係性についての話。


「あぁ」



「えっと…」

覚悟はとっくに決めたはずなのに、別れようの簡単な5文字がいえない。



「その…」

身体が震える。手汗が凄い。口は乾ききっていた。

言いたくない。終わらせたくない。


「彰人?」

俺の異変を察知したのか、凜が俺のことを心配そうに見つめてくる。


「!」

凜にこんな言い辛いこと言わせられないな。


最後に言う覚悟を決めさせたのは、他のなにでもなく「凜のため」だった。




「別れよう」




「え、…」

彼女は目を見開いて酷く驚いた顔をしていた。


「ドッキリだよね?嫌だな。そんな言葉嘘だとしても聞きたくない。傷つくんだよ?」


「俺は本気だ」


「!」

俺の眼を、表情を観て本気だと判ってくれたみたいだ。


「嫌!絶対に嫌!絶対に別れないから!」


「え、」

予想外の彼女の返答に俺は狼狽した。てっきり凜の言う話も別れ話だと思っていたし、2つ返事で了承すると思っていたからだ。なんで?


「俺なんかに振られたって思われることが嫌なら藤原さんが俺のこと振ったっていうことにしても大丈夫。そっちのほうが信ぴょう性あって皆信じてくれると思うし。」


「そんなことこれっぽちも思ってない!」

目に涙を浮かべながら俺を睨み叫ぶ。部屋に怒声が響いた。


「なら聞いてくれ。」


「別れたいと思ったのは、凜を幸せにする自信がなくなったからなんだ。最近の凜は俺に笑顔を見せてくれなくて。それにあんな…」


思わず言葉を飲み込む。凜の今後の幸せを考えたら浮気を目撃したことは絶対に言ってはいけない。知らぬが仏っていうやつだ。


「十分幸せだよ?最近、冷たかったのはごめんなさい… 彰人の優しさに甘えてた。謝って今日から素直になるよっていう話を今日しようとしてたの!」


「そうか。。」

凜が冷たかったのには理由があるらしい。天邪鬼な凜のことだ。理由は想像がつく。

だけど…


「だからね別れるなんて言わないで?またやりなおそ?」


「…」

結論は変わらない。凜に俺は似合わない。


「!…」

「小さい時、結婚するって!幸せにするって言ったじゃん!」


「嘘つき!!!」



その一言で俺のなかの何かがプツンと切れた。


その瞬間、絶対に言いたくなかった浮気を目撃したことや女々しい言葉、凜への罵詈雑言といった悪意が口から止めどなく溢れ出てきた。



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