第7話 バレンタイン2

家に帰り早速チョコを食べようと箱に手をかける。中にはハート形の拳1つ分はあろうかというチョコが入っていた。チョコは見るものではなく食べるものなので一口食べてみる。



「うまい!」



俺の好みを完全に把握しているといっても過言ではないくらい完璧だった。甘すぎない上品な味で、口の上でとろけるので噛む必要もなかった。



「うまかった」



ものの数秒で食べ終えた俺だがここであることに気づく。

チョコレートをくれた女の子の名前が書かれていないのだ。これではお返しができない。どうしたものかと悩んでいると凜からメッセージがきた。



『今から家来れる?』



『いいけど いいのか?』



『うん』



最近は、昔のように互いの家を行き来することはないので、久しぶりの凜の家。なんか緊張するな。



インターフォンを鳴らし勝手知った凜の家に入る。



「おう凜 どうした?」


「彰人 その…どうだった?」

 


家に入るやすぐ不安そうに尋ねてくる凜。凜の指すそのが何を指しているのかわからないが、大方チョコ何個貰ったのか聞いて俺をイジるんだろ。残念だったな凜! 今年の俺はひと味違う。



「チョコ貰ったぞ」


「美味しかった?」



俺がチョコを貰った事実に驚かず、誰から貰ったのかも聞かずに、味の感想を聞いてくる凜。凜が作ったわけでもないのに不思議だ。



「言っとくけど母さんからのじゃないぞ?」


「そんなのわかってるよ! で!どうだったの?」



「物凄く美味しかったな。 胃袋掴まれた。」



なぜか胸を張り、嬉しそうにしている凜。

なんで?



「正直凜と同じくらい料理できる人いたなんて驚きだな。」



「何言ってんの 彰人」みたいな目で俺を見てくる凜。 



「けど、あのチョコに名前書かれてなかったんだよな。誰か俺に渡しそうな人心当たりあるか?」



俺の問いかけに、みるみるうちに顔が青ざめていく凜。

その様子に凜からのチョコでは?と僅かな期待を膨らませ冗談を装いてさりげなく探ってみる。



「まさか凜からじゃないよな?笑」



1%の可能性に賭けるが結果は…


「そ、そんなわけないじゃん!第一今年はあげないって言ったし!勘違いしないで!」


「だ、だよな。。」



凜の言うことはもっともだ。何期待してんだろ。情けな。



「もう帰るわ。おやすみ。」


「あ…」



帰ろうとする俺の服の袖を凜が遠慮がちに掴む。 



「ん?」


「こ、これ義理だけど、よかったら食べて」


「え?まじか!?凄くうれしい!食べていいか?」


「うん」



豪太たちが貰っていたものと同じ義理チョコだったが、もの凄く嬉しい。そして美味しい。

誰かわからない子から貰う本命チョコも勿論嬉しいが、好きな子から貰う義理チョコには勝てない。



「まじで美味い!やっぱり凜は、料理上手いな」


「当然!」



昼に貰ったチョコと味が似ていような。。

まぁ気のせいだろう。



「来年も作ってくれるか?」


「気が向いたらね。」



どうやら来年もチョコゼロは回避できそうだ。



「ありがとう。そうだ 今朝の… いや、なんでもない。」


「そ?じゃあ、おやすみ彰人!」


「あぁ おやすみ」



今朝の登校中に手提げカバンに入っていた見るからに本命のチョコを誰にあげたかなんて聞けるわけないよな… 凜なら渡せただろうし、きっと…

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