第2話 6つの課が市役所には存在しました。
次の日、俺は時間厳守だと言われた朝8時前には、異世界転生審査課のフロアの前で皆さんを待っていた。
実は、部屋で一人で泣いているとき、坂本さんがやってきて、同じチームで働くことになる方々の名前等をを教えてくれたんだ。
チームリーダーの、坂本イサブロウ。
彼はなんと、大正生まれの享年102歳なのだという。
異世界転生審査課に入る前は別の部署にいたらしいけれど、異世界転生課が出来たことで、元々アニメや漫画が生前好きだったこともあり、率先してチームリーダーになったのだという。
続いて、副リーダーの谷崎メグミさん。
昭和生まれの昭和ヤンキーで享年22歳。
本人曰く、盗んだバイクで走ってて死んだらしいけれど、真実は不明らしい。
ヤンキーなのに副リーダーになれたのは、彼が面倒見が良いから坂本さんがお願いしたのだとか。
そして、俺の死を楽しそうに話していた、栗崎ゴロウ。
女の子かと思っていたら男の娘だった。
パリピ系女子を目指しているらしく、性別については必ず女性として扱うようにと厳しく言われた。
享年16歳。
最後に、俺をワンルームマンションに案内してくれた、田中アカリ。
柔軟な考えが得意では無いらしく、義務的な会話しかしてくれない女性で、彼女に口で勝とうと思うなと言われた。
毒舌な棘のある女性らしい。
享年33歳。
その他の注意事項としては、業務を見学することからスタートすることに決まった。
と言うのも、市役所で働ける人材については、特殊な人選が行われており、彼らから反感を持たれないようにと言うことと、新人研修すらしていない死者が関わることは、市役所では許可されていないかららしい。
その為、俺が無茶を言って頼んだ働くことについては、坂本さんが全責任を負うこと、そして見学しながら簡単な書類を見る程度に収まってしまった。
それが、この世の決まり事なら仕方ない。
これ以上、坂本さんに我が儘を言うことは出来なかった。
「ようガキ、早いじゃねーか」
「谷崎さん、おはようございます」
「お? 俺の名前知ってんの? なんで?」
「昨夜、部屋に坂本さんが来て教えてくれました」
「流石坂本さん。面倒見が良いというか人が良いというか」
「俺の我が儘に付き合ってくださる皆さんに感謝しています。でもどうしても、心残りだった夢は忘れられなくて」
そう言って頭を下げると、ガシッと頭を鷲づかみにされ軽くビビる。
予想していなかった事態、けれど谷崎さんは俺の頭を犬猫のようにガシガシ撫で回すと「誰にだって忘れられない夢くらいあるさ」とぶっきらぼうに答えてくれた。
「あれあれー? メグミちゃん早いじゃーん?」
「今日は新人が来るだろ。研修生」
「あーそういえば今日だったっけ。あと、そこの……中島くんだっけ? 坂本さんから連絡は受けてるから気楽にしてね~?」
「はい!」
「ほら硬い。もっとフレンドリーにしてよ~! 男友達って欲しかったんだよね~」
「なら敬語はやめて普通に話すよ。我が儘聞いてくれてありがとう」
「んふ――!! 私も我が儘言うから覚悟してね?」
「了解」
「それでは、皆さんには業務に入ってもらい、私が不本意ながら中島君へ最初から市役所の説明をしましょうか」
音も無く後ろに立っていたのは田中さんだった。
谷崎さんも驚いた様子だったけれど、頭を掻きながら「気配消すのやめてくんない?」と口にしていた。
田中さん、ハイヒールカツカツさせるイメージあったけど、気配も消せるんだ……凄いな。
「俺が説明するって」
「いいえ、メグミちゃんでは適当な説明しかしなさそうなので、私が担当します。新人研修でやってくる女性に関してはメグミちゃんに頼むので、そちらをよろしくお願いします」
「だから、メグミちゃん言うのやめぇや」
「中島君、行きましょう」
「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
深く一礼すると田中さんは眼鏡をクイッとあげて背を向け、カツカツとやはりハイヒールを鳴らして歩き始めた。
案内された部屋はそこまで大きくも無く、ホワイトボードに田中さんは6つの課を書き出した。
【異世界トラック課】
【異世界転生課】
【異世界転生審査課】
【異世界転移課】
【異世界転生警備課】
【異世界転生処理課】
「この6つの部署により、異世界転移がスムーズに行われるようになっています。まずは上から説明してきましょう」
「よろしくお願いします」
こうして、この市役所にある異世界転移に関係する課の説明を受けることになった。
――まずは、異世界トラック課。
異世界トラック課と言うのは、所謂、あの世とこの世を物理的に分断する為のものらしく、名前はトラック課とあるが、それらは乗用車だったり、バイクだったりと、乗り物全般を指すらしい。
まずはそこで【命の選別】を行うことになるそうだ。
続いて、異世界転生課。
こちらは異世界トラックによって、命の選別を行われた際、異世界転生にふさわしいか否か等がチェックされる場所だそうだ。
まれにクラスごと転生なんて事もあるらしく、急ぎ作られた課なのだそうで、それまでは全ての負担は次に出てくる異世界転生審査課がやっていたらしい。
で、異世界転生審査課。
異世界転生課で書類選考に残り、異世界へ行ける切符を手にした死者が訪れる場所。
ここで三つの願いを聞き入れる事が確約される。
ただし、少々複雑なため、まだ新人研修も受けていないような俺には詳しく教えてもらえなかった。
田中さん曰く、見て聞いて覚えなさいとのことだった。
そして、異世界転移課。
この部署は少々変わってるらしく、異世界転移、つまり、生きている人間を別の世界に転移させるらしい。
異質な課であるため、この異世界転移課に関しては別の棟で行われるらしく、俺が行くことはなさそうだ。
更に、異世界転生警備課。
やはり、死者が問題を起こすことも多々あるらしく、その際に出動するのがこの警備課で、警備課に連れて行かれると、異世界転生の切符および、異世界転移の切符は抹消される。
また、死者に手加減などしないため、腕の一本二本持って行かれるだけの覚悟は必要とのこと。
俺も気をつけようと心に決めた。
最後に、異世界転生処理課。
これについては、研修生でもない俺には関係ない話であり、最も機密が多いため、話すことは出来ないと言われた。ただ、そんな課があるのだと言うことだけは覚えておいて損は無いらしい。
**
「ここまでで質問は?」
「質問では無いですが、一つ確認したいことが」
「なんでしょう」
「よく、三つの願いを叶える代わりに代償を払う、なんて事が漫画やアニメなどの作品によくあります。異世界転生審査課でも、願いを三つ叶えるそうですが、何かしらの代償とはあるのでしょうか」
そう問いかけると、田中さんは「ほう……」と関心し、眼鏡をクイッとあげると、椅子に座り直した。
「よくそこに気がつきましたね。当然、ペナルティはあります」
「ペナルティ……ですか?」
「ええ。三つの願いの内容次第ではありますが、大なり小なり、ペナルティは発生することになっています。また、転生先にて問題を起こした場合にも、ペナルティは発生し、願い事が消される……と言うことも十分にあり得ます。
更に、最も漫画や小説に多い転生において、前世の記憶を持っての転生がありますが、基本的に前世の記憶を持って転生することは、あまり多くありません。何せ皆さん、転生するときは記憶を持って転生すると思っていらっしゃいますから」
「つまり、事前に記憶を持っての転生を望みたいと言わないと難しい、と言うことでしょうか」
「その通りです。希にですが、事前にいってなくとも、願い事次第で前世の記憶を持って転生する事はあります。元夫と関わりたくない、や、元上司には会いたくない等と言った願い事の場合は特に。ただ、悲しいことに、そういう願い事をされると、その強さの反動で、相手側が記憶を保持したまま転生することがあるんです。善し悪しですね」
「なるほど」
「また、一番叶えたい願いなど、順位を決めていただきます。その願いの大きさ次第で、ペナルティを計算し、ご提示することになっています」
「ご説明ありがとうございました」
「勉強熱心な事は良いことです。貴方が特殊な手順でこの市役所に来ていたのでしたら、喜んで後輩として育てたのですが、惜しいと思う私は愚かなのでしょうね」
意味ありげな言葉に何の反応も返せずにいると、田中さんは一枚の紙を俺に手渡してくれた。
どうやら、今日のために昨日の夜、先ほど話してくれた内容を書いて印刷してきてくれていたらしい。
「一度には覚えきれないでしょうから、私の方から貴方へプレゼントです」
「ありがとうございます! 助かります!」
「では、そろそろ帰りましょうか。また都度説明が欲しいときは聞きなさい。報告、連絡、相談は必ずするように。それと、こちらが仮の名札です。つけておきなさい」
「はい!」
なんとも頼りになる先輩だ。
谷崎さんだって面倒見が良かったけれど、田中さんだって面倒見が凄く良いじゃ無いか。
失礼な事を言う人だなって最初は思ったけれど、根はやっぱり優しい人なんだろうなと思った。
異世界転生審査課へと帰る途中、行き交う人々はやっぱり死者で、たまに小競り合いも起きているように見受けられる。
死を受け入れる人。
死を受けきれない人。
生前を諦めきっていた人。
生前叶えたい夢があった人。
一人一人が違うように、一人一人が思い描く三つの願いは違うんだろう。
それを、一つずつ精査していくのが審査課なのだと思うと、田中さんも含め、あのチームは凄いんじゃ無いだろうかと思ってしまった。――けれど、その時だった。
「マジで? 中島も来てんの? めっちゃウケるんだけど」
聞き覚えのある、むしろあまり聞いていて良いものでは無い声の主に目をやると、そこには同じ時に自動車に撥ねられた、相園ミサキが壁により掛かって笑っていた。
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夜~夜中、子供が寝た後に執筆していた小説です。
現代ファンタジーなのか。
現代ドラマなのか。
微妙なラインに立っている気がします。
結構ダークな内容になりますので、読者様はご注意くださいませ。
結構、異世界に行く人って、すんなり自分の死を受け入れて、ワクテカ言いながら旅したりしてるけど、現実って違うような気がするな~。
と言う個人的な謎から生まれました。
また、妻シリーズの二弾にて、異世界転生審査課は出てきてます。
ちらっと気になったら読んでみてくださいませ。
不定期更新ですので、気長に更新をお待ちください。
♡や星があれば、頑張って更新するかもしれません。
(何せマイナーな匂いがプンプンするぜぇ)
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