第9話 護国の剣、ついに初夜を…

転移魔法を軽々発動させたシルバに連れられて、俺は無事城に帰還した。


「なぁ、いつの間に転移魔法完成させたんだ」


シルバの式典服を脱がし、寝間着に着替えさせる。

しわにならないように丁寧に、慎重に、衣裳棚へしまう。


「うむ、まだ特定の場所にしか飛べないのでな。運用は難しいのだわたしのラック」


ゆったりとシルバがベッドに腰を下ろした。

なるほど、精度がまだまだってことか。

それじゃあ戦場ではまだ使えないな。

使用してなかった理由に納得し、式典服を脱ごうと、俺は自室へ向かおうとした。


「え、ちょ…いいって…シルバ…」


ところが横からシルバに手を出され、するする脱がされてしまう。

あっと言う間に脱がされて、下着だけになってしまった俺は寝間着を求め、やっぱり自室に向かおうとした。


「あ、え、ちょ、シルバ」


ところがシルバに腕を掴まれ、そのまま腕の中に抱き寄せられてしまう。

顔が、近い。

薄着で密着は初なので、全身熱くなってきた。


「何処へ、ゆくのだラック」


「ど、こって、寝間着…にっ…っ」


着替えたいって言おうとした俺を、シルバがベッドへ押し倒す。


「あ、え、あの…」


シルバの足が足の間に入り込んでくる。

顎をぐっと掴まれて、無理矢理視線を絡めさせられる。


「し、しるば…?」


真剣な眼差しに、俺は両手を彷徨わせた。

どうしたらいい、どうしてたらいいんだ。

シルバの顔が近づいてくる。

拒絶する理由が、何処にも無い。


ふわって、唇に柔らかな物が当たる。

シルバの唇だ。

こんなに、こんなに暖かいのか。

すごく、弱い部分に感じられた。

それから、異常なまでに敏感なんだって、初めて知った。

優しい快美感が、唇から直接脳みそを支配する。

とろけてく。

形を保っていられなくなる。

でも、目は、瞑りたくない。

だって、シルバの両目とこんな近いの初めてだ。

銀の虹彩が美しい。

吸い込まれる。

はなれたくないはなれなくていい。

ずっと、唇を重ねていたい。

好きな気持ちが溢れて伝わって、教え込まれる。

俺はシルバの背中に両手を添えて、甘やかな快感に身を委ねた。


「…ぁ…シルバ…」


ところが、音もなく離れてしまって、俺は悲しかった。

こんなに哀しいことはない。

も一度触れたいと、いつかのシルバみたいに唇を突き出した。

そんな俺の頬をシルバが優しく優しく撫でる。


とびきり甘い。

柔かで暖かい。

優しいばかり。


俺はそんな存在に、口付けをしようと。


「初夜だ」


「…え?」


「初夜だっ!」


シルバの眼がカっと開く。

シルバがさっきまでも雰囲気ぶち壊し、俺の下着を脱がそうとしてくる。

性急だ。

早急だ。

慌ただしく、やぶっ、破くなっ。


「おっおい!こらっ待てっセックスしたい殿下っ!」


俺は必死と抵抗した。

止めろ止めろと本気で、ガチで、シルバの両手を両手で掴むことに成功した。

ぜばぜは、睨み合いながら肩で息をする。


「どう、してっ、抵抗っするのだっ」


「いや、待て、ちょ、雰囲気っ」


「結婚したらすることはひとつっっセックスだっ」


「せ、セックスしたい殿下…お、おち、つけよ…」


ふうふう、獣の吐息。

シルバのこんな獣性、知らなかった。

竦んでしまうほど、野生めいている。

いつもは優しい銀の瞳を、俺ははじめてこわいと感じた。


「…ラック、きみ…まさか…」


シルバが最期の理性をかき集め、俺に問う。


「きみ、まさか、嫌なのか…?」


是非は問わない。

そういう感じだった。

だから俺は素直に応えた。


「ちがっ、嫌じゃ、ねぇよっ…ただ…」


「ただ?」


シルバが俺の真意を探る様に顔を寄せて来る。

キスは、してくれない。

俺は唇を一度舌で湿らせてから、そっぽを向いて言った。


「…なんか戸惑ってて…心の整理をだな…しないと…出来ないっつーか…」


「…わたしを抱けない、ということか?」


え、抱こうとしてない?

俺のこと、シルバ抱こうとしてなかった?

俺は戸惑いつつシルバを見る。

もうこの獣性は、セックスしないと収まら無さそうだ。


「そりゃ、抱きたいけど…頭がおっついてねぇんだよ」


「…わたしが嫌では、ないのだな?」


囁くようにそう言われ、俺は速攻否定した。


「嫌じゃねぇよっ」


「では、わたしが抱こう」


思わず黙ってしまった。

そういう、あー、そういう展開。


「嫌か?」


俺が嫌だって、言うとでも思ってんだろうか。


「…全然、俺、どっちでもいいし」


そうホント、どっちでもいい。


「わたしの尻を舐めたいと言っていたから、抱きたいのだとばかり思っていた…そうか…どちらでもよい、か」


俺を愛おしむように、シルバが優しくキスしてくれた。

口からとろけそう。

少しだけ粘膜絡め、離れてくっつける。

軽く吸われ吸い返す。

手の平をこれでもかとくっつけ、握り締め合う両手。


わずかに開いた隙間に呟く。


「…お前と愛し合えるなら、どっちでも…好きにして…」


深く唇を重ねられた。

裏唇を互い舐り合う。


「んっぅ…ぁ…ぅ…」


歯茎を舌で磨かれて、俺は不覚にも唇から逃げてしまった。

知らぬ間に涙目になってたらしく、眦から涙が一粒零れる。


「………ふーっふーっっ!!」


「…セックスしたい殿下っっ落ち着けっ!きゅっ急にっ!ゆっ指ぃっっ!」

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