第7話 護国の剣、添い寝を求める……ぐじゅ

「…ラック…少し、良いか?」


「んっ…ぐじゅ…なん、だ、しるば…」


ぐずぐず泣く情けない俺を、シルバがふいに真剣な口調で呼んだ。

甘さが無い。

本音本心を語るって、理解出来た。

この状況で一体何を言われるのかと震えると、シルバが俺を強く見つめる。


「わたしはラックと結婚したい。ラックもわたしと結婚したい。それに相違はない。…ただ、わたしは、わたしは…ラックとの間に子供を授かりたくない。…わたしは…」


シルバが一度言葉を止めた。

そして、告げる。

心の底からの、言葉を。

真実を。


「わたしは、わたしとラックとの間に授かった子供だとしても、愛せない。わたしは、わたしのラックしか愛せない。わたしは、壊れているのだろう…もし、もしラックが…子を欲しいと望むなら…すまないが、わたしはそれには同意しない。どんなに懇願されようとも、授かりのコウノドリ神様に、わたしは首を垂れ祈らない……」


かなしそうに。

切なそうに。

シルバが、言う。


「こんなわたしでも、結婚してくれるだろうか…」


辛そうだった。

苦しそうだった。


こんなに。

こんなに。

俺は、こんなに。


俺はぐっと、堪えた。

喉も胸も頭も体も痛い。

けど、堪えた。


「じるばぁ…」


うわ、なんだよ、これ。


全然、言葉、出ない。


ぐじゃぐじゃだ。


だけど言わないと。

大事なことだから。

聞かないと。


「ば、っぐじ…おでと、の子が、悩んで苦しむがら、ほじぐないんだおな…?」


酷い。

これは酷い。

だけど、肺に骨でも刺さったような痛みで吐きそうだけど、聞かないと。


「…わたしのラック…ああ…そうだとも…わたしとラックの間に産まれたならば、過度な期待、その重圧が、子を殺してしまうかもしれない。生を、わたしを、ラックを、恨んでしまうかもしれない。そんな未来が…わたしはおそろしい…ラックを恨むかもしれない、存在を、愛せない、わたしが、おそろしい…」


俺への愛情がとめどない大切な人。

ちゃんと、将来、考えている人。

未来を、見てくれる、俺のシルバ。


嬉しくて。

幸せで。

俺はまた、目頭が熱くなって、涙が出た。


だって結局、生まれない我が子のことを思って愛してる。


「っぐっ…シルバ…ありがとう、俺と、結婚、してくれ」


シルバが少しだけ目を見張り、ふわっと微笑んでくれた。


「…良いのか?授かりのコウノドリ神様に、わたしは」


「俺も、シルバ以外愛せないから、いいんだ」


自然と笑えて、ぼろぼろ涙が頬を伝った。


同性婚でも子供が成せる。

それは授かりのコウノドリ神様がおられるからだ。

子供を色んな理由で得られず、それでも求める番の為に、授かりのコウノドリ神様はおられる。

審査は厳しいが、正直俺とシルバだったら、望めば子供を授けて頂けるだろう。

それくらい、護国に俺たちは貢献している。

だからこそ、結婚したら周囲は求めるだろう。

護国の後釜を、その直系を。

ハイブリットを求めるだろう。

そのことで、子は悩むだろう苦しむだろう。

シルバの懸念通りなるだろう。

避けようにも、避けられない。

健やかに、育てられる自信が俺には無い。

そして、シルバと同じだ。


シルバを恨む子を、俺は、愛せない。


だから、同じだ。

同じだ。

シルバ。

俺もぶっ壊れてる。


「ラック…」


シルバが一瞬苦しそうなシワ寄せて、長い溜息を吐いた。

それからぎゅうっと、俺を抱き寄せる。


「…ならば、共に、兵を育てよう」


「孤児とか、育てよーぜ」


「うむ、それは妙案だ。たくさんたくさん、良い戦士を」


「盤石な、護国の槍と剣と盾と杖と」


「…欲張りだな、わたしのラックは」


「たくさん、俺とシルバの『子供』育てよ」


シルバの銀色の瞳が、輝きを取り戻した。

麗しき銀の魔導王が、神威じみたもの発してくる。

ま、眩しい…。


柔らかな笑みがそのまま浮かんで、なんて顔するんだって、俺は焦った。

シルバのイケメン具合が、天界まで飛びぬけてしまった。

直視、出来ない。


「ああ、ああ…わたしのラック…たくさん、わたしとラックの『子供』を、育てよう…」


目に脳に優しくない。

それくらいシルバが輝かしい。

おぞましい程、かっこいい…。


「…」


「…?ラック?」


「げっごん、じだい…ぃ」


だから。

こそ。

結婚、したいっ。


「しるばと、けっこん、じだぃよぉ…」


結婚して『子供』いっぱい育てたい。

ずっと一緒に居たい。

俺のシルバにしたい。

シルバを、幸せにしたいっ。


そう、思い始めたら、また泣けてきた。

俺、干乾びるかもしれない。


そんな俺をシルバがよしよし、慰めるように撫でてくれた。


「出来るとも、案ずるな」


「どんな、じぎでも、いいんだ、ぢがぇればっ、みどめられればっ、そででおでばっっ」


「ああ、わたしもどんな、式でも…そう、どんな、式でも…」


耳障りの良い声でシルバが俺を慰めるから。

俺は大泣きした。

目玉溶けるくらい泣いた。

鼻水べっちゃーって。

涎もでろでろ。

シルバの寝間着と寝具が吸ってくれてる。

申し訳ない。

けど、止まんねぇんだよぉ…。


「ぐずっ…ずっ…」


「わたしのラック…わたしの剣…よしよし…」


シルバに優しく背中をトントンされ、慰みの言葉掛けられ続け、俺の瞼が重くなっていく。

泣くのも疲れた。

あと、ようやく涙が止まってきた。


「しるばぁ…」


「ラック…?」


今出せる力でなんとかシルバにしがみつき、俺はおやすみなさいした。


「おやすみ…なさい…おれの…しるば…」

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