第6話 護国の剣、添い寝を求める……ぎゅう

季節は巡り、寒さ増す今日この頃。

年の瀬も迫り、魔物の不活性化が進み、春の大爆発活性への対策の時間がやってくる。

食料を備蓄し、備え、鍛えるのが、グラファム帝国の冬の定番なのだ。


だから、それが来る前に動いていた。

なのに。

なのに。


結婚式の日取りが決まらない。

この日もあの日も良くない日。

色んな占い師がとにかくよくない日、と進言しまくってくるので、教会が鵜呑みにして決まらない。


式に着る礼服が完成しない。

デザイナーが納得してないから作業が進んでない。

素材が足りない入荷待ちだ未定だ。

とにかくまだ、完成していない。


招待客が。


会場が。


会議が。


試験が。


政が。


とにもかくにも結婚受理出来てない。

書類がどこかで止まってる。

キチンとした正式な書面なので、発見されるまで待って欲しい。


隣国の姫君が急遽留学。

新しい光の巫女発見。

それより聖女。

希代の魔女。

姫騎士誕生。


…。


…。


…。



障害と妨害と上手くゆかない害で、俺は凹んだ。

結婚が遠のいてく。

俺の夢が。

希望が。

幸せが…。


凹んでいるとこに、今日、結婚反対派閥が勢いを強めているぞ、って耳にした。


…。


…。


…うぇぇ…。




**




「シルバ…」


寝間着に着替え、隣室のシルバの枕元に立つ。

隣室と言ってもカーテンで隔てているだけで、部屋自体は繋がっている。

プライベートは守られているが、着替えているともれなく堂々と覗かれる。

覗くというか見られる。

どうしてそうなった、婚約者。


でも、寝室にこうやって無断で入るのは、初めてだ。


「ラック…どうしたのだ…」


お揃いの寝間着を着たシルバが起き上がる。

この健やかな眠りを守護する為に近くで寝ている訳で、こうやって夜這いじみたことをするのはものすごく後ろめたかった。

けど、耐えられなかったのだ。

俺は持参した枕を抱き締める。


「ひとりで、寝ていると…余計なことを考えて苦しいんだ…一緒に、寝てくれないか…?」


俺は参っていた。

凹んで、落ち込んで、かなり精神的に追い込まれていた。

だから、ついに、婚約者に、縋ってしまった。


シルバはふんわり微笑み、掛け布団を捲ってくれた。

それから両腕を広げ「おいで、わたしのラック」お迎えしてくれたのだ。


「しるばぁぁ…」


俺は枕を投げ捨てシルバの腕の中に飛び込んだ。

暖かい。

頼れる。

つおい。

しゅき。


「よしよしわたしの可愛いラック…一緒に寝よう…これからずっと、共に、寝よう」


「ねるぅ!おれっしるばとねうぅうっ」


「う、うむ…」


シルバが俺をぎゅうってしてくれた。

そんなこと、されたら、俺っ。


「しるばっおれったちっけっこんっひぐっ…いちゅになったらっぐすっできぅっぐっ」


シルバの腕の中が、優しい抱擁が身に沁みて、俺は涙が止まらなかった。

胸に顔を押し付け、ぐずぐず、愚痴を溢してしまう。


「ラック…わたしのラック…」


シルバは決してすまないとかごめんとか口にしなかった。

だってシルバは悪くない。

そんな謝罪は必要ない。

俺が怒ることを理解して、言わないシルバの優しさが俺をどんどん泣かす。


シルバのベッドに潜り込み、俺は延々、泣き続けた。


「じるばぁぁあ、じるばぁああ…」

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