第5話 護国の剣、急に糾弾される

最近何故か、俺を糾弾するブームメントが到来している。

どうやら光の巫女候補の女子が糸引いているようだ。

あ、石化してる女子は石化したままだ。

妾希望女子は、ものすごく無口になって大人しくなって、静かに光の巫女候補として修業しているそうだ。

是非に戦力強化して頂きた。


ということで、三人目の光の巫女候補がやっちゃってるようだ。

黒幕女子、とでも呼んでおこう。

彼女のお考えで糾弾ブームメント激熱なので。


黒幕女子は肉食らしく、学園の戦場知らぬ童貞を食い散らかしてるそうだ。

いやいや、そっちの童貞卒業してどーすんだよ。

武器を持てる歳になったら、魔物斃せや箱入り息子共。


と、言う事で。

将来は有望な戦士になるだろう学生が、ここ最近同じ内容で糾弾してくる。

そして今日は、ななな、なんと…。

宰相の御子息が騎士団長の御子息とタッグを組んでやって来た。


『護国の剣の顕現なんて真っ赤な嘘だ』


『権力を笠に着て、国を裏から支配している』


と、糾弾中だ。


魔術の成績が良いブル君…。

猪突猛進レド君…。

幼馴染なコンビよ、そこまで仲良く堕ちなくとも、と俺は思いながらもふたりの糾弾を胸に受け止め続けた。


ここは会議室。

シルバ殿下を中心に、宰相殿、騎士団長殿、宮廷魔術師殿、冒険者ギルドのマスター殿等々が集まって、帝国防衛ラインとその運用を報告確認相談する大事な会議の最中だった。

そこへふたりが、ちょっと待ったぁ!と乗り込んできた。

すごい勇気…!

俺なら出来ないね。

そもそも俺にはちょっと難しい内容の会議なので、参加したいなら本気で変わって欲しい。

息詰まる真面目な空気もしんどいし。

魔物なんて対峙したら行動される前に動いて叩いて斃せばいいだけなのに…。

一回それ言ったら全員に「それが出来るのは君だけなんだ」って怒られた。

シルバ殿下にも怒られた。

しょんぼり。


そんな訳で、砦の強化、戦力の割り振り、なんかを真面目に会議していたとこに幼馴染コンビ登場。

シルバ殿下の横に控える俺に、ぎゃわぎゃわきゃんきゃん、護国の剣の顕現になんて不相応の存在だ!と言っている。


シルバ殿下と同じ学院の生徒で、割とふたりして仲も良かったんだが。

今はもう、シルバ殿下は冷たい瞳でふたりを見ている。

その横顔から感じ取れたのは、息をしているのも赦し難い、だった。


宰相殿は遠い目をしていた。

騎士団長は顔を真っ青にしていた。


宮廷魔術師殿と冒険者ギルドのマスターは、頭を抱えている。

この間自分の息子が同じことしたのを思い出しているようだ。

その他面々も、俯き辛そうな表情を浮かべている。

うん、貴方たちの息子さんも、来ましたもんね。


「なんとか言ったらどうだラック!」


「君が強いのは知っている。けれど、それは所詮学院内でのことだったのさ」


友よ。

同級生よ。

ああ、同学年よ。

思春期に魔物討伐なんてまだ早い、なんて教育やっぱ間違ってんだよ。

見ろよこの様を。

相手の強さを見極める真贋が、腐って曇ってやがる。

俺は、俺の言葉を鼻息荒く待つふたりへ、告げた。


「私は」


ただ鋭い。

剣となって言葉を吐き出す。

こんな俺を見たことなかったふたりが息を飲む。


「私は、ただシルバ殿下の御前で魔物斃す剣。護国の剣の冠…いつでもお譲りする所存にございます」


ふたりが、してやったりと口角を上げた。

実際、ホント、欲しかったらやるよ、護国の剣の顕現なんて称号。

名前なんて魔物斃すのになんの役にも立たない。


「私より、強ければ、のお話でございます」


俺はシルバ殿下に向き直る。

そして跪きお願い申し上げる。


「殿下っ、シルバ殿下っ。我がマイマスター」


「如何したわたしの剣」


「そちらの方々は、喜ばしいことに、私より強者で在らせられるようでございます!」


「その、ようだな」


「はっ」


「わたしの剣より…戦場にて魔物首をより多く、刈り取り燃し潰す、戦士のようだな」


「はっ!これは慶事にてございます!」


「…護国の剣の顕現とは」


シルバ殿下が子供に分かるように優しく語る。


「わたしがわたしの剣に冠した称号…それに相応しいと申し出るのなら…わたしの剣より、戦果挙げてもらわねばなるまい…」


俺は勢いよく立ち上がった。

やる気満々。

目をギラギラさせる。


「ならば殿下!」


「ああ、わたしの剣」


シルバ殿下が俺を愛おしむように見つめてくれた。

その想いに、応えたい。


「戦場にて、この私の戦働きと彼らの働きを、御比べ下さいませ!」


「ああ、それはよい案だ」


「私は!必ずやっ!全ての魔物を滅ぼします!」


「ああ…期待、しているよ…」


と、言う事で、俺はふたりを見た。

ふたりが、手を繋いで怯えていた。

大丈夫、恐くないから。

平気平気、死ななきゃいいだけだから。


「さぁ、参りましょう!」


逃げようとしたふたりの首根っこ引っ捕まえて、俺は嗤った。

鼓舞の笑顔なのに、どうして半泣きになるんだみんな。

あと、光の巫女とヤって強くなったって、ガチで思ってるのも痛いんだよなぁ。

もう俺は光の巫女の力を信じない。

信じられない。

ちっとも強くなってないから。

だから、ふんす、鍛え直しですぞ!


宰相殿と騎士団長殿の「お手柔らかにお願い申し上げまする…」というとても弱弱しいお願いが聞こえた。

命在ればお手柔らか、だよな?

俺は「畏まりました!」元気よく返答。

ふたりを引きずり、いざ魔物の森へ。


シルバ殿下がそんな俺の後に続き、肉食女子に食べられてしまった被害者の性根を叩きなおす会を開催した。

何度目なのか、覚えてない。

これで終わりだといいけど。

シルバに台詞覚えろって言われた時は大変だったけど、あのやり取りもすっかり慣れてしまった。

それにしても黒幕女子は凄い。

何度も送り込んでくるのが凄い。

黒幕が自分だってバレてないと思ってるのが凄い。

もうシルバ殿下にバレてて、処分も決まっているのに…。

明日、黒幕女子は捕まる。

帝国の安全を脅かす者、として処罰罪人となる。

でも光の巫女候補なので処刑はされず、敵国最前線の砦送りになる。

多くの罪人が送られる、未帰還砦の刑だ。

しょうがないよね。

罪人なんだもん。

今も時々小競り合いが起きる緊迫の場所だ。

本格的な戦争が始まったらシルバ殿下と頑張って駆け付けるので、砦防衛、頑張って欲しいものだ。




*




「あははははは!さぁさあ楽しいぃ魔物ぉ狩ぁりぃぃ」


「ラックぅ!俺が悪かった!俺が悪かったからぁああ!」


「たすけったすっ!!!ひぃいい!」


「あああああ!いやだああああ!死にたくないいいい!」


「動け動け!やれエ!やらないとっ死ぬぞおおお!」


「あはははは!それ真理な!さぁさあ楽しぃぞおう!」


「うむうむ、ラックが楽しそうでなによりである」


「ああ!楽しいぜっシルバ、殿下っ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る