第4話 護国の剣、モテ期が到来する

モテ期って、人生で三回くらいあんだっけ?

そしたら年中モテてるシルバのモテ期とは。


俺はくだらないことを考え、現実逃避していた。

なにせ俺の眼の前に光の巫女候補の女子が居て、俺に愛の告白をしているのだ。

褒められてるのか貶されてるのか謎な俺語りをしている。

おもに真黒な俺が好きなんだそうだ。

ちゅうにびょうかよ、とか何度も言うが、びょうって病気のびょう?

つまり真黒な俺は真黒病ってこと?なんだそりゃ。


「あの、ですね…私はマイマスターと先日婚約させて頂いた身でございまして…貴女様の好意にお応えすることはできません…」


そう、そうなのだ。

こ・ん・や・くっ!

俺達はついに婚約したのだっ。

結婚を約束した仲。

指輪は未だないが、婚約の書面がようやく受理されたのだ。

幸せ。


その嬉しい報せをしてくれマイマスターことシルバ殿下。

星より煌めく笑顔の君が「婚約、受理されたぞ」とにこにこしながら俺にそう言ってくれた。

めっちゃ嬉しかった。

嬉しくてつい、自分から抱き付いてしまった。

なんてはしたないことをしてしまったのか。

その後のベッド行こうぜ攻防に繋げてしまった軽率な行動、反省だ。


とにもかくにも、俺はシルバと婚約中。

帝国、公認の、婚約、中っ!

ふぅー!!

こんやくちゅう、という字面思うだけでテンション上がる。

力漲ってきた。

魔物討伐したい。

あ、愛の告白中だった。

忘れてた。


「こんやく…それってホントなんですか」


嘘だったら泣くわ。

想像しただけで泣けてきたわ。


「勿論で、ございます…些事ながら、ニュースになったと聞き及んでおります」


シルバによって情報規制され、ちょろっとしか扱われなかったけどな。

婚約書面俺ちゃんと見たし。

魔力で契約ちゃんと結ばれてるの確認したし。

嘘だったら、生きてけない。


だから光の巫女候補女子さん、諦めてくれ。

好きだっていう気持ちは嬉しいけど、受け止めることは出来ない。

俺、シルバが大好きだから。

シルバ以外なにも必要じゃないんだ。


「じゃっじゃあ」


え、じゃあ?

じゃあって何。

なんで君が妥協案出す側なんだ?


「妾でも良いのでっ!」


「おふぉぇ…」


じゃあが妾て。

要らんて。

俺、シルバ以外愛せないし。

俺はシルバ一筋なので、まじで、やめてください。


「私が貴方を絶対に幸せにしてみせますっ!私は貴方のこと、分かります!お願いします!お願いします!」


も一度おふぉぇと、俺は漏らしてしまった。

可愛いのに。

美人さんなのに。

なんて。

残念、なんだ。

もう少し知的で大人しいと思っていたのにこの豹変っぷり。

良い女子だなと思った俺に伝えたい。

この女子もヤバ女子だぞー!


どう対応すべきか悩む俺に、妾希望女子がぐいぐい自分を推してくる。


家庭的です!

回復得意です!

何処でも寝れます!

なんでもします!

亡国したって構いません!


と、つらつらと。

べらべら、と。

まくしたて早口止まらない。

よくまぁしゃべることしゃべることしゃべること。

口から生まれたのか?と思う程おしゃべりだ。

でも、そんな強い想いの言葉並べられても、軽やか過ぎて信用出来ない。


あー困った困った。

学院に、普通に登校したのに困った困った。

先生に呼ばれ別行動してるシルバ殿下、助けて。


「わたしの剣、探したぞ」


「我が主!お手数をお掛けし申し訳ございませんっ」


俺は助けを求めた瞬間本当に助けてもらって、めっちゃ嬉しくて急いで振り返りマイマスターの後ろに控えた。

ご満悦に頷いたマイマスターが、ふんわりを被って妾希望女子に向き直る。


「わたしの、剣になにか用か?」


「あっあのっ!私、妾になりたんですっ!」


「すまないが、わたしもわたしの剣にも、妾は不要だ」


「でっでもっ居た方がいいと思います!私はラックが」


「わたしの、剣は」


妾希望女子が、息を詰まらせ黙った。


「わたしの、剣は、わたしだけのもの。そしてわたしも、わたしのラックだけのもの。わたしたちはそう誓い合い、近々結婚するのだ。……さがれ」


シルバ殿下の氷点下以下の冷たい声を浴びせられ、妾希望女子が青ざめる。

すげぇ。

黙らせた。

さすシルだ。


「ゆこう、わたしの剣」


シルバ殿下が優雅にマントを翻したので、俺は「はっ」短く返答、追従した。




*




シルバは自室に戻るなり俺をベッドへ押し倒した。

突然の展開であれだが、シルバの銀色の瞳独占状態に、俺はついついヘラっと笑ってしまった。

あと、しるばのべっどいいにおいやわこいいごこちが、いい…。


「ラック、なにをわらっているのだ」


憮然とした表情を浮かべ、俺を逃がすまいと両手を押え付けるシルバ。

身体を俺に全乗せしてるから、めっちゃ密着してる恥。

でも、暖かいとか重みとかが、すごい幸せだ。


「だって、こんな、近いの、いーなぁって」


「何かされるとは思わないのか。光の巫女候補を魅了せし剣」


「…」


「抵抗、せぬと、申すのか」


シルバの顔がどんどん近くなってくる。

睫毛長い。

鼻高い。

唇が意外と厚い。

息が、掛かる。


「…シルバが言い寄られたら、俺だってめちゃくちゃ嫉妬するよ」


片想いしていた頃の俺は、嫉妬の日々だった。

嫉妬しすぎて吐いたこともある。

だけど、両想いになった今。

俺は超余裕だ。

シルバは俺のものです残念ですね、と心の中で優越感。

今は婚約してるので、もっと優越感だ。


対してシルバも、嫉妬深い。

めちゃくちゃ嫉妬深い。

両想いになる前から、護国の剣である俺をシルバは自分の物だと言って憚らなかった。

だから、俺の強さに惹かれた者が欲しいと言う度に『これはわたしの剣』宣言を氷点下以下の声で吐き出し続けてくれた。

めちゃくちゃ嬉しかった。

それが武器としての扱いでも、嬉しかった。

今は、婚約者扱いでの嫉妬が追加されている。

激しい独占欲丸見えで、俺は、嬉しい。

嬉しい以上に嬉しい。

シルバの嫉妬すげぇ好き。

嫉妬って愛情度だって、俺は思ってるから。

嫉妬しまくってたから。

だから、分かるから、押し倒した気持ちをシルバごと抱き締めた。

そんな強く拘束されてなかったから、抜け出すのなんて簡単だった。


「でも…俺のシルバは足元掬われるような軽率なこと、しないだろ?…だから抵抗なんてしない。嫉妬、嬉しい…幸せ…」


ぎゅうって、してしまう。

おおおおお、シルバの立派な身体を抱き締めている夢幻か、現実だ。

吸っとこ。

良い匂い。

しゅき。


「ラックっ…うぅううっ…」


婚約中の姦淫なんて駄目絶対駄目だ。

でも、シルバがどうしても、俺をもっとものにしたと言うのなら、俺は抵抗する気は無い。

でも、シルバが、俺のマイマスターが、護国の魔導王が、そんな軽率なことするはずがないのだ。

もうすぐ結婚出来るのだから。

結婚したら、もう、俺は完全に貴方のものなのだから。

そして貴方も、俺のものだ。


「シルバ、好きだよ」


その事実が嬉しすぎて想いを口にしてしまう。

駄目だ。

俺の気持ち盛り上がりすぎてて、まじで変なこと言ってしまいそう。

イケメンしるばだいしゅきって、言いたいぞ。

ぎゅうして、押しとどめる。


「ラック…愛している…」


「あっ…しるばぁ…」


シルバも俺をぎゅうって、ぎゅうって抱き締めてくれた。

気持ちが高ぶってしまう。

分かる。

すっげえ分かる。

だけど、抱擁だけで。

抱擁だけでなんとか堪え…。


「うん、どこ高ぶらせて盛り上げてんだよ嫉妬深い殿下」

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