第3話 護国の剣、護国の剣の顕現を示す
本日は御日柄も良く、魔物狩り日和だ。
快晴だし風も少ない。
気分よく狩れそうだ。
俺は鼻歌を、ふんふん。
剣を抜いた。
シルバが俺に与えてくれた剣だ。
柄から切っ先まで深紅の剣。
俺の魔力をとことん吸収し、限界に到達すると真黒になる機能付きだ。
そのおかげで加減が出来るようになって、武器長持ち。
その他装備も、赤くてそういう仕様になっている。
結構金掛かってる。
正直、武器にこだわりはない。
装備にも、だ。
動きやすけりゃなんでもいい。
だって魔力でカバーするし。
余裕余裕。
なんなら武器無しでもイケる。
魔力を刃の形にして使えばいい。
つーか叩き潰すのも良き。
狩れればいいのだ、魔物の湧きは人の欲望が如しってな。
そしたら魔力で殴るが最適解だ。
性能が良い装備は高いので、買えなかったから工夫し続けた結果だ。
装備品のメンテも金掛かるしな。
まぁ今はシルバの騎士、護国の剣の顕現なんて呼ばれているから、恰好もちゃんとしてないといけない。
なので俺はついこの間までシルバが用意してくれた、真黒な装備に身を包んでいた。
けどそれを心機一転、総入れ替えした。
紅玉みたいな色の、履き心地が良いブーツ。
血で染めたような色の、動きやすいズボンにシャツ。
ひたすら真っ赤なジャケットに、ベルトにグローブ。
デザインは、黒と金の魔導王らしいローブ姿のシルバにだいぶ似ている。
つーかお揃いだ。
この間一緒に考えて作ったものなので。
お揃いの、装備品なんて、恥ずかしかったけど、恥ずかしいけど、お揃を堂々と着てるって優越感がすごい。
これはもう一心同体だ。
うへへ。
おっとにやけてる場合じゃない。
深紅の剣が真黒に染まり切った。
赤揃いの装備も真黒だ。
準備万端。
後方の砦に居るシルバが真黒になった俺を確認、誘発の魔法を空に打ち上げた。
ぱぁんって何かが炸裂したような音が、青空に響く。
さぁ楽しい狩りのお時間だ。
いやあ悪いな。
このお役目、誰にも譲れないんだよ。
黒の刀身を水平に、いちおう構えのつもりだ。
魔物の波が押し寄せる。
姿形は様々だ。
枯れ木のような肌に、異形の二息歩行。
耳は長く目が大きいハゲ頭。
種類なんかを研究してる連中も居ると聞く。
俺は興味がないのでよく知らないけど、シルバは熱心に研究している。
そういう研究結果が、誘発の魔法を創り上げた。
これ便利、一塊に呼べるから。
魔物は定期的にグラファム帝国を脅かす。
未だ破壊不可能な迷宮の森奥に立っている魔物の塔から生まれいずるのだ。
迷宮の森からどどどどどどど、魔物が走ってやってくる。
俺は自然と笑み浮かべ、剣を振った。
まずは一撃、ちょっと削るがこれからこれから。
意気揚々と駆け出す。
急がないと新しい杖を新調したシルバの魔法で魔物の数が減ってしまう。
ああ、でっかい火柱!
やめろ雷!
俺の獲物が、減る。
****
「マイマスター、滞りなく討伐完了致しました…新たな武器を与えて下さり、誠にありがとうございます」
「それはなによりだ、わたしの剣…気に入ったか?」
豪華な王笏のような杖を持った嬉しそうなシルバ殿下が、俺に手を差し出す。
俺は当然とその手を取った。
グローブ、外しておけばよかった。
「はっ…これさえあれば迷宮の森の一部を削ることも可能かと」
ぎゅっと握って離さない。
シルバ殿下もにっこり微笑み、握り返してくれた。
「それは僥倖…わたしの剣…さて、ひとつ聞こう…さきほどの、私の剣の如き働きを…そなたらは出来るのか?」
シルバ殿下が、振り返り問いかける。
優しい問いかけ、嘘は許さない眼差し。
俺も共に目を向けた。
当然と言えば当然だが、俺を畏怖の眼で見つめていた。
戦闘を開始する前の見下した感じ思い出すと、ふふーんって思う。
俺は護国の剣の顕現。
こんなこと出来て当然なのだ。
今日は少なかったし、シルバに横取りされたし。
ちょっと不完全燃焼気味なので、後で迷宮の森に行って魔物狩りしてこよ。
もちろんシルバも誘って。
「…沈黙の返答とはなかなか…」
おかしくないのに、可笑しいってシルバ殿下が肩を揺らした。
笑われたもの達はそれでも沈痛な面持ちで、早くこの場から去りたいって様子だ。
先日、シルバは光の巫女候補をひとり石化させた。
とんでもないヤバ女子だったので適切な処置だ。
だって不敬発言連発の、脳内お花畑女子だったんだもん。
学院の生徒であった彼女は、私は光の巫女候補だから貴族の男に粉かけても大丈夫っていう謎自論を展開。
シルバ殿下や上級生の第一王子第二王子、貴族のご子息とか色々な男子に色目を使い、何故か篭絡される馬鹿続出。
光の巫女とデキると英雄になれるってのを信じてるっぽい。
英雄になれるような奴が、俺に指一本で負けないで欲しい。
と、言う事で今回の集まりは、あのヤバ女子を愚かにも石化させているシルバ殿下こき下ろしの会、だ。
それで立場を悪くさせてあの女子救出、みたいな作戦らしい。
えーと…えと。
どうしたおまえら頭大丈夫か?
頭の悪い俺でも馬鹿じゃね?って思ったよ。
でも彼らは真剣にあのヤバ女子を救うにはこれっきゃねぇって思って、シルバと俺に魔物狩り定期駆逐を提案してきた…。
いえ、あの、これ、10年前から俺たちやってる…。
まさか知らなかったなんて絶句だ。
世間知らずだなぁと思った俺に、シルバは「愚兄共が迷惑を掛ける…その詫びに新しい装備を拵えよう…そうだ!揃いのデザインはどうだ?共に考えよう、うん、実に良い案だとは思わないか?」と言葉巧みに新装備品へ話を持ってった。
なんということでしょう、お兄さん方は俺たちのお揃いを創る切っ掛け、踏み台に利用されてしまったのだ。
今やシルバの圧倒的な魔法力と、俺の強さを目の当たりにして、ぺっちゃんこになってるお兄さん方。
もう帰してやれ。
「それでは皆様ごきげんよう」
シルバも言葉を待ってもロクなもん出てこないって判断したようだ。
お帰りは後ろだと、にこにこ笑っている。
ぐうの音すら出せず、お兄さん方はすごすご砦を後にしてゆく。
ちょっと可哀想だ。
まだまだやってやらあっていう気概も折ってしまった気がするので。
強くてごめん。
「だけどさ」
去ってく背中を見送って、俺はぽろっと本音を零した。
「光の巫女が実在したら、俺より強いんだろうなぁ…」
昔々の御伽噺。
光の巫女が現れて、魔物の塔は打ち壊された。
世界に安寧がもたらされた。
実在したかどうか。
実在するのかどうか。
いつだって、光の教会は巫女の候補を見出す。
けど、至らない。
大したことない乙女たちばかりが現れる。
今回も三人ほど現れたらしいが、一人はすでにやらかしまくって石化中。
残り二人も、どうなんだろか。
もし本物だったら。
魔物の塔を打ち壊せるってんなら。
俺より、強い。
そうなったら。
やっぱ帝国一強い魔導王と一緒になんて話になる。
そしたら。
そしたら。
目の前が暗くなる。
「わたしの剣、わたしのラック」
シルバに抱き締められて、我に返る。
外でのハグは初体験だ。
パニックとすごい熱の上がり方に、くらくらしてくる。
「…ラック」
慈しむように頭を、側頭部を撫でられる。
きゅうって、抱き締めてくれる。
俺のほうが背は高いが、なんでだろうか。
胸の中に閉じ込められてく感覚がすごい。
「それは、本気で言っているのか?」
けど、甘い抱擁に反して、声色は冷たかった。
俺は、下唇をぐっと噛んだ。
「…ごめん…でも…不安で…そんなイレギュラーなことでお前との結婚駄目とかになったらって…」
もし本物だったら、俺は諦めないといけない。
シルバを。
最愛を。
くそ、泣けてきた。
「…ラック…そんなこと、わたしがさせない…わたしの剣は、最強だ」
「あ…」
シルバが俺の瞼に口付けた。
柔らかい。
暖かい。
気持ち良い。
俺、今、頭ちゃんと丸い?
形があるのか不明な俺を、シルバが優しく抱き締めてくれた。
シルバは涙を吸うように、何度も口付けを繰り返す。
「…しるばぁ…」
吸収されると分かったら、俺は情けなくも泣き続けてしまった。
こんなに泣くのは生まれて始めてだ。
ぐすぐす泣きまくってしまう。
シルバはそんな俺を慰め涙を吸い続けてくれた。
優しくて、また、泣けた。
「…ぐすっ…シルバ…ありがとな…」
「わたしのラックが泣き虫という新たな一面の発見に、こちらこそありがとう」
俺の頬に手を添え、シルバが微笑む。
俺も笑うが、また涙が流れた。
拭おうとしたら、擦ると赤くなると言ってシルバがまた口で吸ってくれた。
何度も何度も、俺が泣き止むまで繰り返してくれた。
一度も、唇にキスする素振り見せないで。
ああ、やっぱ、シルバは優しい。
好きだ。
もし光の巫女が現れても、俺、絶対譲らない。
劣っても、弱くても、シルバは誰にも渡さない。
そう決意して、俺はシルバを強く抱き締め返した。
んって苦しそうな声漏れたけど、シルバは大人しく俺の胸の中に、ついでにお返しとばかりに俺を強く抱く。
これ絶対身体に痕つくやつだ。
湯浴みの時恥ずかしいやつだ。
でもいい。
離したくない。
「ところで」
「うん」
「わたしの剣を貶める言葉は、誰であろうとも許さない」
「…うん」
「これは、仕置きが必要ではないか?」
それはまったくその通りなので、覚悟しないといけない。
シルバは俺のことを好きだが。
シルバ殿下は護国の剣の俺を、寵愛して下さっているのだから。
…。
…。
「うん、離せ変態殿下」
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