第2話 護国の剣、痛い系ヒロインちゃんを無自覚にざまぁする
この間、俺は愛しのシルバ殿下と両想いになった。
奇跡だ。
奇跡としか言いようがない。
夢かと思って頬を何度もつねったら、痕がついてシルバにめっちゃ怒られた。
とにかく、だ。
すっげぇ幸せだ。
毎日操の危機を感じているが幸せだ。
隙あらば唇を奪おうとしてくるけど、幸せだ。
結婚まで待てって、なんで出来ないんだ?
謎だ。
後、俺が知らなかっただけで、シルバって性欲すごく強いようだ。
一緒に水浴びとか湯浴みとかしてると、ものすごいいやらしい熱視線を俺に向けてくるのだ。
で、アソコを元気にさせる。
キリっとした顔で俺を見る。
……あれ、変態か?
いや、シルバは冷徹な美麗と称されるイケメンだ。
大丈夫だ。
添い寝を強く求められているが、最近は護国の魔導王と呼ばれている存在。
賢だ、賢の化身だ。
俺成分が足りないと言っては抱き締め嗅いで吸うけど、大丈夫だ。
俺も、その、吸わせて頂いているので。
おれだってしるばせいぶんたりねぇときいつもんがあんだよっ。
嗚呼、あの甘くて優しいのに清涼感がある匂い、嗅ぎたい。
隣に居るからもっと身を寄せれば嗅げる。
けど目の前にあのヤバイ女子が居るので自重した。
学院内にある食堂の中庭でお茶してたらこの女子割って入って来たわけで。
隠れてケーキを食べさせ合っていたのに水刺され、俺はちょっと怒っていた。
はじめてのイチャイチャだったのにっ。
でもシルバはというと…。
「それでぇ、今度ぉ…一緒に行きませんかぁ?」
勇気を振り絞って誘ってます!というのが分かった。
シルバに声を掛けるだけでも相当な勇気だが、彼女の場合無神経なんだろう。
彼女の全てが演技だし。
ストロベリーブロンドの髪をツインテールで纏め、アメジストのような色の大きな瞳でシルバを見つめるクラスメイト。
俺の片想いを何故か知ってた女子。
そんな女子にシルバは『学校でのシルバ』として応えた。
「別に構わないよ」
「きゃぁ、嬉しいぃですぅ」
わざとらしく喜ぶ女子。
まるで私は特別なんだって言うように喜んでいる。
残念ながら『学校でのシルバ』は、誰が誘って来てもそう応える。
学院の規則と社会常識に則って行動する、平凡学生を演じる。
この常識を俺とのいちゃいちゃする時間に発揮して欲しい。
婚前ってのを考えてだな、婚約もまだなんだしっ。
「ああでも、ラックが行かないと行けないけどね」
「え?」
「ラックはどうかな。その日は空いているかな?」
「え、ちょ、ま」
女子は慌てている。
そうだろうなぁ。
だって、今度の休日に帝都へ遊びに行きませんか?って誘いだったもんな。
新しく出来た商業施設行きませんかぁ?だもんな。
そりゃあ、デートの誘いだよな。
なんでアンタを誘うのよっ!って感じで睨まれましても困ります。
「俺はその日は魔物狩りするから…」
「じゃあわたしも付き合おう。ということなので今回はすまないが断らせてもらうよごめんね」
「はぁ?」
女子、その態度、アウト。
目付きが悪くなり、気配が悪くなるので、俺は帯刀している剣に手を掛ける。
いつでも両断可能だ。
「…この気持ち悪い位真黒なひとはぁ、シルバ様に懸想してるんですよぉ?」
「ああ、先日はそれを伝えてくれて感謝するよ」
「……気持ち悪い妄想してるぅ、変態なんですよぉ?シルバ様のことを、汚そうとしたり、あまつさえ結婚しようなんて思ってるんですよぉ」
この女子は、なんで俺の秘密をこんなに知ってんだ?
確かに俺はシルバに対して、変態的な行為をしたいし、汚したいし、結婚したい。
でもこれは、誰にも、シルバ以外は知らない秘めた思いなのに。
…千里眼でも持ってるのか?
それなら生け捕り洗脳…。
「ああ、知っている。男なら当然の欲望だとも。わたしも同じだったから嬉しかったよ」
「あ、おい、シルバっ」
何を言い出すんだと、俺は止めようとした。
けど、ぎゅむっと抱き締められる。
胸に、抱き込まれる。
おお、よくつくられたしるばきんにくはいだい。
そして、この匂い。
…しゅき。
「な、え、ちょ…ヤだ…」
女子の非難めいた悲鳴聞こえたけど気になんない。
シルバが俺の耳を撫でてるからだ。
ぞわってする。
もっとしてくれ。
「ラックと愛し合えるなんて思っていなかった。君の言葉がなかったら、わたしはこんなに幸せになれなかっただろう…ありがとう」
幸せ。
俺も幸せだぜ。
だから離してくれ。
すっげぇ恥ずかしいっ。
婚約してから人前で…いや、結婚しても人前ボディタッチは俺には恥。
「…だめよっ!そいつはシルバを手に入れるために帝国裏切るんだからっ!」
「ほう…このわたしの剣が、か?」
女子のその一言で、シルバが『学校のシルバ』から『護国の王子』へ切り替わる。
「その証拠は何処にある」
「そ、それは、」
「ないのだな」
「だって!そんなのっどこの攻略サイトにも、公式にも乗ってないし、だからっ考察で一番多かったシルバを得たい欲望に打ち勝てないが正解なのっ!みんながそう言ってるのっ!そう書かれてるのっ!思ってるのっ!だから!裏切るのよっ!」
俺が裏切る。
そんなことするものか。
俺はシルバを抱き締めた。
怒りで体温が下がってきたからだ。
シルバは怒ると熱くなるのではなくて、冷えるのだ。
冷えて震えるから、俺がいつも温めてきた。
俺の役目だった。
これからも俺の役目だ。
誰にも譲りたくない。
やっぱり護りたい。
そう思うと、理由が無ければ俺はシルバを裏切るなんて絶対しない。
「このわたしの剣が、護国の剣の顕現であるラックが、わたしを裏切るだと?己の欲望に打ち勝てず?痴れ者めがっ!」
「ひっ」
冷たい怒号に女子が椅子から転げ落ちるのか聞こえた。
「これはわたしを裏切るくらいなら、己の欲望に打ち勝てぬと分かったら、自害する。そういう男だ」
シルバが俺をきゅうっと抱きしめる。
まったくその通りなので、俺も抱きしめ返す。
あまり冷えなかったのでホっとした。
「た、たしかに自殺するけどぉ…でもホントに裏切るんだもんっ!理由無しに裏切るんだもんっ!」
どうしても俺を将来的に裏切らせたい女子に、俺は俺の考えを伝えてあげることにした。
泣いてるっぽいし。
これ以上、シルバのことが大好きな女子が責められているのは、聞いてられない。
片想い、辛いよな。
「俺がシルバを裏切るなら」
「…ラック?」
「…それはシルバの間違いを命を持って正すとか、かなって思う…お前は間違ってる目を覚ませ、護国の剣である俺を殺してちゃんと護国の魔導王に成れ、って…シルバは頭良いから、絶対目を覚ましてくれるって信じて…俺、シルバがすっげぇ好き、だから…」
人前で告白してしまって恥ずかしくて溶けそうだ。
照れ隠しにシルバの胸に顔を埋める。
そんな俺の顎をシルバがクイってする。
息がかかる距離だった。
さっき飲んだ紅茶の香りがした。
はう、しゅき…。
「ラック…わたしは…わたしは…決してきみを裏切らせない…きみが好きだから…死なせない…」
「し、シルバ…そーゆーのは、ふたりの時に言ってくれよ…恥ずかしいって…」
「場所なんて関係ない…きみを好きなのは…愛しているのは紛れもない事実なのだから…」
「シルバ…恥ずかしぃってぇ…」
「照れるラックはかわゆい…」
見つめ合ってへへへふふふ笑い合う。
学院で告白大会とか恥ずかしいあっちぃ。
けど、やべぇな。
しゅき。
顔が近づいてくるので「それはなし」「くっ殺せっ」「お前まじ誰に教わった」すいっと避けてついついイチャイチャ…。
「ふっざけんんなななああ!!!ヒロインは私なのよっ!!!そんなのありえねぇだろぉがあああああ!!!」
女子が野太い雄叫びを上げるので、急いで一刀両断しようとした。
けど、遅かった。
「ふざけているのはそなたである」
冷たい台詞だった。
振り返ると、女子は石になっていた。
真っ黒な5匹の蛇が絡みついている。
石化の魔法は呪いなので、蛇は呪いの本体かつ解呪を拒む守護者。
それが5匹とか、いくら彼女が光の巫女候補でも、これは抜け出せないだろう。
そして光の巫女でも無理だろう。
つーか俺じゃないと、絶対解除無理だ。
「まったく、実に不愉快な存在であったな…だが悪行の証拠も揃っての今日の暴言。これでようやく処分できるというものだ」
上機嫌なシルバに向き直る。
計画通り、とニッコりされた。
なるほど、計算済みでしたか、さすシルだ。
「それに、この世のヒロインはラックなのだから…勘違いも甚だしい。なぁわたしの剣?」
「後で眼医者手配しておきますね、マイマスター」
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