護国の剣の顕現、護国の魔導王に片想いをする
狐照
第1話 護国の剣、片想いがバレる
「わたしの従者、ひとつ問おう」
「なんでしょうか、マイマスター」
「きみは」
「はい」
「わたしを」
「はい」
「わたしに」
「はい」
「懸想しているというのは、本当か?」
銀髪銀目の美しきマイマスターことシルバ殿下にそう問われた俺は、この間会ったやっべぇ女子の言葉を思い出した。
『根暗真黒脳筋!あんたの気持ち悪い片思い暴露してやるから覚悟しなっ!』
可愛い見た目なのにそんな言葉使い萎えるわー。
って俺はその時思った。
そして、なんで俺の片想いを知ってんだ?って、思って焦った。
言葉が出なかった。
勝ち誇ったように、ざまぁ!と言い捨ててく女子を、ぶっ殺してやろうかと。
思い、とどまり、諦めた。
彼女は一応同じ学院に通うクラスメイトだ。
そして、俺の片想いは、たしかに気持ち悪い。
さらに言えば、彼女の言葉を信じる者がいるのかどうか。
俺はその時、居ないだろ、って鼻で笑った。
笑ったのに。
まさか。
片想い相手、信じたみたいなんですけど。
跪き玉座を仰ぐ俺を、銀色の瞳が力強く見つめてくる。
嘘は、吐けない。
俺は、諦めた。
「はい嘘偽りなく、私はシルバ殿下に懸想しております」
懸想ってゆーか、好き。
愛してる。
くっそ好き。
殿下が望むなら魔物を三日三晩不眠不休で殺戮出来る。
それくらい、俺は、目の前の主を愛していた。
大事な主が俺をしかと見つめ、問う。
「…それは、どの程度なのだ」
「……」
「答えよ、わたしの剣」
命令だ。
従わなければならない。
「お前のケツの穴べろべろ舐めまわしたいくらい好きだよ」
「……そ、うか…」
めちゃくちゃ下品な言い方をした。
本音を、命じられるがまま、口にした。
だって言っても言わなくても、斬首決定。
傍に居られるだけで。
こんなに傍に寄り添えただけで。
もう、十分だ。
不安なのは俺亡き後、誰がシルバを護るのか。
俺より強くないと認められないが、こうなっては諦めるほかない。
俺は再び首を垂れた。
なぜ俺のような身分不確かな孤児だった男が、グラファム帝国第三王子シルバ殿下の騎士になれたのか。
それはひとえに俺は、幼い頃から強かったからだ。
そう言ってしまうとあれだが。
俺は、強い。
その自負はある。
グラファム帝国学院高等部第一学年首席であるシルバとガチで戦っても勝つ自信がある。
俺は魔法が使えない。
俺が保有する魔力量は魔導王と呼ばれてるシルバを遥かに超えている。
魔法が使えないのに魔力ばっかあってもって思うだろ?
確かに魔法は使えない、適性ってもんがない。
魔法を覚える前に、魔力を使った戦い方を覚えてしまったから、使えなくなってしまったんだそうだ。
魔法は世界の理に則った呪文に魔力を込めて発動させるもの。
俺は、俺の魔力を俺が思うように固く鋭く伸ばし広げ、剣に身体に纏わせる。
そういうことは俺以外出来ないって、シルバと研究して出た結果だ。
そして、俺位魔力量がないと使えない戦術だって言われた。
さらに、魔法を覚えてたら間違いなく魔力を暴走させ続けるから、使えなくてむしろ良し。
『幼いながらに独自に編み出し最適解を選んだラックは、本当にすごいな』
ずっと変なことしてんのかな。
魔法使えないのって駄目なのかな。
そう思ってた。
けど、シルバにそう言われて俺は救われた。
俺はもう何度も何度もシルバに救われていたから。
惚れて好きになってしまった。
同性とかは関係ない。
好きになっちまったもんは、しょうがない。
同い年の魔物狩りがどの程度の実力なのか確かめに来たと言われた時、んだコイツって俺は思った。
あの頃の俺はとにかく金を稼いで孤児院から抜け出したかった。
孤児院は、魔法が使えない俺をいつもバカにし虐める、根性がひねくれ曲がったガキと大人ばかりだったのだ。
人間不信だったので、王子様とか関係ねぇって思った。
愛想無しの俺にシルバは気を害することはなく、むしろどんどん傍に寄って来た。
俺も、全然偉ぶらないシルバに好感を持つようになった。
魔法が使えないのをバカにしなってのが、一番嬉しかった。
俺が自分より強いことを一緒に魔物狩りをして理解したシルバは、俺に従者にならないか?と誘ってくれた。
嬉しかった。
その頃の俺はシルバを友達と思っていたからだ。
シルバの語る夢を、一緒に叶えたいと思ったからだ。
俺は二つ返事で承諾した。
そこからは色々、色々と問題も起こったが、全部俺の強さとシルバの賢さで乗り越えた。
もう10年以上一緒に居る。
俺はシルバの、親友兄弟従者騎士、剣。
魔物に襲われ続けるグラファム帝国を、護国の王子シルバ殿下と共に護るモノだ。
それがこんな所で終わりとは。
しかも学院のクラスメイトの女子から、片思いを暴露されしまったのが原因とか。
「はぁ…」
思わず溜息を吐いてしまう。
こうなる一刻も早く始末してもらいたい。
一思いに首を切り落としてくれ。
抵抗なんてしない。
お前に拒絶された時点で、俺の人生は死んだ。
「…こちらへ…まいれ」
えーまじでー。
行きたくない。
こんなに傍に行きたくないなんて初めてだ。
でも行かなければならない。
なんつったって俺はシルバの騎士だから。
「はっ」
短い返答を吐き出し、俺は俯いたままシルバの元へ向かった。
肘掛に置かれた手の甲を見つめる。
ご尊顔は、とてもじゃないけど見れなかった。
「ラック」
「はっ」
「こちらを、見よ」
えーまじでー。
シルバはあれだな。
意外とドエスだな。
いや知ってたし。
俺はしぶしぶ顔を上げた。
…。
…。
ん?
「…殿下…?…なに、してんでやがりますか?」
素が出かかったので修正するが無理だった。
だってシルバが。
顔を少し上に向けて、唇を突き出し、両目を閉じていたのだ。
どう、考えても、キス待ち顔だ。
銀色に染まった清涼なる美貌って言われてるシルバが、そっと薄目を開けタコ唇で俺に命ずる。
「く、口付けを」
「なんでですか」
「わたしが好きではないのかっ」
「好きですけど…」
「ならば、んっ」
「…シルバ」
「なんだ」
「…シルバは、俺を…好き、なのか?」
俺の外装は剥がれ、素の言葉は震えた。
だって、こんなの、ありえねぇだろ。
呆然とする俺をシルバはきつく睨む。
「好きに決まっているだろう」
「決まってんのかよっ…って、俺の好きは」
「わたしの愛がきみに捧げられなくとも、きみはわたしの剣、わたしのモノに変わりない。けれど、両想いとあらば話は別だ」
「…両…想い…?」
「両想いだとも。わたしはきみの黒子の数から直腸の色、」
「うん、分かった俺たち両想いだな。うん、好きだぜシルバ」
言わせたくなかったので遮る。
両想い嬉し恥ずかしで、俺を好き語り本当は聞きたいけど聞いてられないやつとか、さすがシルバ、さすシル。
「ラック…わたしの剣…わたしのラック…」
俺の素直な告白に、気を良くしてくれたシルバが俺の手を握る。
熱い甘い蜜みたいな声で俺の名を呼ぶな好き。
両想いだと思うと、慣れてる触れ合いも恥ずかし嬉し幸せだ。
「では、口付けを」
きゅっと唇がすぼまる。
両目ぎんぎん。
鼻息荒っ。
「いや、出来ねぇよ」
唇を尖らせながらシルバが荒ぶる。
俺を強引に引き寄せてくるので、つんのめって覆い被さりかけた。
玉座の背もたれに手をつき耐えると、好機とばかりに顔を両手で挟まれる。
引き寄せようと必死殿下。
踏ん張り続ける俺。
これが両想いがすることか、そうか、夢見過ぎてたな俺。
「何故だ!?わたしを愛していないのか!?」
「そりゃ、愛してるけどっ」
「けど、なんだ!?」
「…け、結婚…してない内に、そんな…はしたないだろ…」
「……!き、きみぃ…!」
シルバはたいそう驚きながら俺から手を離した。
俺は離れながら、顔が赤くなるのを感じた。
シルバは硬直している。
何を驚いてるのか知らないが、これは事実だ。
グラファム帝国では結婚していない者同士の姦淫は罪と考えられている。
第三王子のシルバを好きになって、妄想結婚は何回もしている。
夢見続けていた、好きだから。
シルバは王位継承権が限りなく低いので、誰と結婚しても良い。
グラファム帝国は同性婚が認められているので、相手が俺でも問題無し。
苦手な奴は苦手らしいが、俺はシルバに惚れちまったので、同性婚万歳派だ。
だけど、まぁ、両想いになるなんて思ってなかった。
考えてなかった。
夢、は見てた。
あくまで夢だった。
それが両想い。
両想いかぁ、へへへ。
思わずにやける俺に、シルバもにやけはじめた。
キスしたい殿下、どうした。
「…思っていたより純情か…」
「純情ってお前な…シルバ殿下、常識ですよ」
「…真向からその教え信じてるとか…愛い…わたしの剣は…なんと愛らしいことか…」
その言い方で俺は知る。
馬鹿正直に守ってる奴、少ないのか?
でも、ほら、お前殿下だから守らないと、な?な?えー?あれー?
俺の内心を全部読み取ってしまう賢い殿下が、優しく微笑んだ。
俺を慰めるように、労わるように、今度は優しく俺の両手をつかまえる。
シルバの優しいそれは伝わって、俺は癒されすぐに立ち直る。
「よい、妥協点を提案する」
「なんだよ」
「ここに座れ」
「いいのかよ」
「よいのだ」
「そーかよ」
「そうなのだ」
俺はここに、と言われた場所へ座った。
膝の上だ。
玉座に座るシルバの、膝の上に腰を下ろしたのだ。
本人殿下がよいってんならこのひとの剣である俺は拒否権がないわけで嫌じゃないし。
最高の妥協点です、はい。
それにしたって、すっげ顔っ近っ。
腹に手を回すな。
ぐって、抱き締めるなよ。
くっそう。
すっげぇ恥ずかしい。
ああ、すっげぇ、好き幸せ。
「ラック…」
「うぅ…シルバ…」
耳元で囁かれ、俺は身震いした。
大地見えないくらい大量の魔物を目の前にしても震えなかった俺が、甘い吐息ひとつで。
ゆっくり振り返ると、銀色の瞳が俺を見つめてくれていた。
優しい眼差し。
熱っぽい。
うぉおお…色っぽい。
かっこいぃ…。
しゅき…。
見惚れていると、顔を寄せられる。
息が鼻にかかる。
熱い甘い。
「っておい、なにキス、しよーとしてんだよっ」
「今はその流れであっただろうに!」
「駄目に決まってんだろっ!…お前は…ご、護国の王子で、ちゃんと、結婚してとかしとかねぇと後で駄目とか言われたら嫌だからっ結婚してからだっ!」
ただの第三王子であったなら、シルバと結婚してなくても俺はキスしていた。
でも、今やシルバは護国の王子。
最近は護国の魔導王って呼ばれはじめてて、グラファム帝国になくてはならない存在だ。
跡継ぎとか作れって絶対言われるようになるし、今も薄ら言われてるの知っている。
だからこそ。
両想いなんだからこそ。
ちゃんと結婚してから、色々、先に進みたい。
そういう俺の思いを悟ってしまう殿下。
ぷるぷる震えている。
「か、」
「か?」
「か、か、可愛いか!?可愛いは正義か!?わたしのラックが可愛いが強すぎてつらたんっ」
「うん、お前最近変な友達出来たな?」
シルバはとうとみがつよいーと妙なことを言いながら、俺を強く抱き締める。
ハグは、親友のハグとかあるししたことあるし、いいよな?
俺は恐る恐る、俺を抱き締める両腕を抱き締めた。
あー…幸せ。
「ラック」
「なんだ、シルバ」
「…勃ってきた」
「うん、離してくれ変態殿下」
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