第2話 誰も覚えていない真実

「あれ?いつもの魔女じゃない・・・」

「世代交代しました。前の魔女が作った薬は左手の棚。私が作った薬は右手の棚になります。まだ作れる薬に制限がある為、調薬はお断りします」


 淡々と応える見目麗しい少女に来店した少年は顔を真っ赤にしながらも、魔女って相変わらずワケわかんないと心の中で思うが、彼と一緒に来た少女は怒りで顔を真っ赤に染めながら新しい魔女の少女を怒鳴りつけた。


「何よそれ!次の魔女は私がなるのよ!!退きなさいよ!」


 そう言えばそんな事を言って前の魔女に弟子入りを頼んでいたなぁと少年が考えていると、一緒に来た少女はカウンターの中にいる魔女に手を伸ばした。

 力づくでカウンターから追い出すつもりのようだが、体格の変わらない者同士ではどう考えても無理だろう。


「魔女の世代交代に本人の意思は関係ありません。それと魔女は生まれながらの魔女です。業務妨害をする貴女を客と認めるワケにはいきません。今、この時より店への出入りを禁じます」


 ゴオッと店内に風が吹き抜けたかと思えば少女の体を持ち上げ、外へと押し出した。


「キャー!!」


 ほんの一瞬の出来事に少年は目を瞬き、マジ?っと小さく呟いた。


「前の魔女が何を考えていたのか知りませんが、私は無駄が嫌いです。客以外は店が見えなくまた入れないように魔法を施しました。それで貴方はどちらですか?」

「客です!」


 慌てて大声で宣言すると魔女の少女はいらっしゃいませと声をかけてくる。


(こわ!今度の魔女。こわ!)


 見た目は前の魔女の方が怖かったが、新しい魔女は見た目が人形のように極上だけに怖さが半端じゃなかった。


「体力回復薬と魔力回復薬が5本ですね。性能は変わりませんが前の魔女の作った薬は在庫処分中なので半値となります」

「本当!?それなら毒消しと麻痺消し。後、あったらでいいんだけど矢に塗る毒も欲しいんだけど。手持ちは銀貨7枚と銅貨5枚で買えるだけ」

「一番重要なのは?」

「えっ!?・・・・矢に塗る毒かな」

「ではそちらを10本。毒消し、麻痺消しは7本。体力、魔力回復薬を15本がおすすめです」

「うん。じゃあそれで」

「毎度ありがとうございます」


 前の魔女に言われた事もない言葉に少年は何だか嬉しくなっていた。

 カウンターに次々と乗せられていく魔法の小瓶。

 割れない魔法と使い終わると魔女の元に回収される魔法が施されている小瓶は、いつ見ても不思議で中の薬剤も色とりどりでキレイだと少年は思う。


「代金はこちらのトレーに」

「あ、はい」


 前の魔女とはシステムを変えたとかで小さな皿のような物を差し出された少年は、これがトレーという名称だと初めて知った。


「全額確かに受け取りました。こちらは次回から必要になりますので、必ず携帯して来店してください」


 そう言って差し出されたのは小さな魔石。


「これは?」

「鍵のような物です。それがないと店には入れません。私は前の魔女の尻拭いで忙しいので店を毎日開けていられないのです。だからこそ入店制限をする事にしたのです」

「はあ」

「前の魔女の顧客に関しては新規来店の際にはそれが無くても入れますが、2度目はそれが無いと入れませんので、必ず携帯するように」

「いやでもこんな小さな魔石。無くすなって言われても」

「身分証に吸い込ませると良いでしょう」

「はい?!」

「貴方の身分証。冒険者ギルド発行のカードに押し付ければ入りますよ。ギルドの方に連絡はしてあるので、森の魔女の顧客と言う称号が入るだけで問題はありません」

「何それ?」


 魔女の少女は淡々と店のシステムと言うかもはや誰も覚えていない森の魔女の真実について少年に語る。


 森の魔女とは世界を支える大樹である世界樹の依り代で、本来は人と関わる事など無い事。

 何代前の魔女かはわからないが、気まぐれで店を作ったところ面白いように魔法薬が売れた事で暇潰しとして活用され歴代魔女が継承してきた事。


 それによって前の魔女が世界樹の依り代としての契約を破棄しようと画策していた為に処分された事などなど。


「そんな話、俺にしてどうするんだよ?」

「必要だから話したのですが?森の魔女と言われていますが、実際は世界樹の魔女ですので店の場所も固定では無いのです」

「へ?」

「何処にでもあって何処にもない店。それがこの店です。今後は称号を持っている者だけに扉を開きます。それが例えダンジョンの奥底だろうと」

「マジ!?」

「あまり頻繁に呼ばれても困りますが、今後は顧客のニーズに応えて魔道具類の販売も視野にいれています。まぁ直ぐには無理ですが」

「魔道具類!スゲー!!知り合いに伝えても?」

「前の魔女の顧客には魔法で連絡する予定ですが、伝えても問題はありません。それが1回限定にならないと良いのですが」

「あー・・・そうか。うん。止めとく」

「その方がよろしいかと」


 下手に紹介してこの魔女の気分を害して自分まで巻き添えで店に入れなくなったらたまらないと考えた少年は、同じように称号を貰った人物とだけ店の話しをしようと心に誓った。


「またのご来店。お待ちしております」


 最後まで淡々と応えた魔女の少女。

 追い出された少女に自分だけは入店許可されたと伝えるが面倒だなと思いながら少年は店を後にした。


 



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