第10話 私がいること。それが、彼がどこかにいることの証明だから

「彼女なら死んだままですよ」


 未来が変わらなかったと、私は彼に告げた。

 けれど、


「君はっ――」


 あなたは『私』を救ってくれたのだと伝えたくて、


「吸血鬼です、私は……魔法使いさん?」


 そう、冗談めかして答えた。


 すると、彼は「まさか」と呟いて義手に触れ、映像パネルに文字を打ち込む。

 遊び心のない機能的な装置が、彼に『彼の生きた世界』の情報を伝えてしまう。


「君は……あの時のマキちゃんなのか?」


「そう。私は、あなたが『自分と恋人にならないことで救った』……あなたが魔法使いだと嘘を吐いたマキです」


 ブツンッという電子音が鳴り、彼が閲覧していたウィンドウが閉じられる。

 私が――いや、彼の生きた世界にいたマキが交通事故で死んだ記事が閉じられた。


 でも――、


「ああ、どうして……でも、それでも……君が、生きていてくれてよかった」


 冷たすぎる現実を前に『それでも』と微笑んでくれる、あなたの笑顔が痛い。


「バカ、こんな時くらい…………本当、子どもの時と、なんにも変わらないんだから……」


 何も知らない筈の彼を、どうしようもなく知っていて割り切れない。




 私は、自分が死ななかった世界で大人になったリクを見て『彼』とは違うと思った。

 なら、私を助けた彼はきっとどこかに存在する筈だと……。

 そうでなければ未来に彼がいなければ、私が助かる未来は存在し得ない。


 だから、これは未来が変わったんじゃないと。

 世界がどこかで分かれてしまったのだと思った。


 だったら、私が探すのは『マキを失って、私を救ってくれた』そんなリクのいる世界だ。




「ずいぶん探しましたよ。あなたが私にしてくれたみたいに」


 だって、耐えられなかった。

 自分の世界のマキを失って、私を救ったことを知覚できないあなたに。


 私は、あなたの救いたかった私じゃないけど……それでも、


「本当にばか……でも、ありがとう。ずっと、ごめんね」


 今、私が救いたいリクは……あなただから。

 だから、せめてその手には救ったものがあったのだと、気付いてほしかった。

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