【帰還シークエンス完了】意識覚醒70%……80%……90%……意識、覚醒

 廃墟となった中学校の屋上に体が戻り、意識が覚醒する。

 頭を打ったような鈍痛がして反射的に額へ手をやると、指が触れた場所から髪が抜け落ちていった。


「……ハゲた時に、なんて名乗ればいいか訊けばよかったかな」


 思わず冗談が口を衝いたのは、僅かな達成感に安堵したからだ。

 だが、そんなものは本当に一瞬でしかない。


 僕は左腕の義手に触れ、映像パネルを起動すると体に埋め込んだ装置の操作を始めた。


 まず、拡張現実の操作ウィンドウを閉じる。

 その後、高い金を払って付けた食品再現のオプションに果たして意味があったのかと虚空を見つめながら、古い新聞のアーカイブを呼びだした。


 今から数十年前の新聞。

 とある商店街で起きた交通事故が載った新聞だ。


 もしも、ここにまだあの事故の記事が残っているのなら……僕の目的はまた達せられなかったということになる。


 だが『今回こそは』なんていう上擦った気持ちはもう失われていた。

 けれど、それでもやめる訳にはいかない。

 だから『もう一度やれ』と自分を責めるために、心に鞭を打つ。


 だが――、


なら死んだままですよ」


 ——そう声をかけられた。


「…………」


 過去へ戻る前、この廃校は無人だったはずだ。

 なのに……何故、背後から声をかけられている?


 振り向くと、そこには銀髪に赤い瞳をした妙齢の女性が、幽霊のように立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る