第5話 失恋と失命

 魔法使いの手が離れ、視界が戻って来る。

 しかし、私は背中につららでも突き刺さったような寒気を感じていた。


「二人で君の母親の誕生日プレゼントを買いに行ったんだ。実際は、それを口実にした恋人としての初デートだったんだけどね」


 優しげな微笑みは、私を責めるようなものではない。

 ただ、淡々と事実を並べる唇に目を奪われた。

 だが、そんな彼の言葉だけは、大切な人の死の責任は私にあると言うようだった。


「なら、母さんへのプレゼント、買いに行かなかったら……二人でデートなんてしなければ――」


 リクの死を回避できるんじゃ……と、無知な子どものように思い付きを口にする。

 しかし、定まらない視線で魔法使いを見つめた時、冷淡な瞳に見据えられ、


「試してみるかい? それで、君が彼の死を回避できるかどうか」


 それ以上、言葉を紡げなかった。 


「……本当に、死ぬの?」


 震える声で訊ねる。


「ああ。死ぬ」


 返答は飾り気のない肯定だった。


「私がリクと、恋人になるから……?」

「そうだ」


 信じたくない。

 けど、魔法使いの言葉を否定できる心はもう、欠片も残っていなかった。


「私が……代わりに死ねばよかったのに」


 懺悔するような声が出た。


 でも、


「大丈夫。君が死ぬ必要なんてないよ」


 彼はやわらかな声で否定する。


「君はただ、彼と結ばれないだけでいい」


 すり潰れた肉片と光を失った瞳。

 脳裏に焼き付いた冷たいリクの姿を拒みたくて、


「明日、彼の告白を断ることができるね?」


 魔法使いの言葉に力なく頷いた。

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