第5話 失恋と失命
魔法使いの手が離れ、視界が戻って来る。
しかし、私は背中につららでも突き刺さったような寒気を感じていた。
「二人で君の母親の誕生日プレゼントを買いに行ったんだ。実際は、それを口実にした恋人としての初デートだったんだけどね」
優しげな微笑みは、私を責めるようなものではない。
ただ、淡々と事実を並べる唇に目を奪われた。
だが、そんな彼の言葉だけは、大切な人の死の責任は私にあると言うようだった。
「なら、母さんへのプレゼント、買いに行かなかったら……二人でデートなんてしなければ――」
リクの死を回避できるんじゃ……と、無知な子どものように思い付きを口にする。
しかし、定まらない視線で魔法使いを見つめた時、冷淡な瞳に見据えられ、
「試してみるかい? それで、君が彼の死を回避できるかどうか」
それ以上、言葉を紡げなかった。
「……本当に、死ぬの?」
震える声で訊ねる。
「ああ。死ぬ」
返答は飾り気のない肯定だった。
「私がリクと、恋人になるから……?」
「そうだ」
信じたくない。
けど、魔法使いの言葉を否定できる心はもう、欠片も残っていなかった。
「私が……代わりに死ねばよかったのに」
懺悔するような声が出た。
でも、
「大丈夫。君が死ぬ必要なんてないよ」
彼はやわらかな声で否定する。
「君はただ、彼と結ばれないだけでいい」
すり潰れた肉片と光を失った瞳。
脳裏に焼き付いた冷たいリクの姿を拒みたくて、
「明日、彼の告白を断ることができるね?」
魔法使いの言葉に力なく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます