第13話 授与式⑤ ~帝国騎士団長ディオメデス~
「えらく長引いているみたいだがなにか問題でもあったか?」
ディオメデスと呼ばれる大男はリオラ達を一瞥した後、モニアに尋ねる。
「ディ、ディオメデス様!?ど、ど、どうしてこんなところに?」
「いや、騎士団のスカウトとは別にどんな若者がいるか儀式を見に来たんだがなかなか始まらなくてな。様子を見に来たんだが、なにか問題があったようだな。」
「は、はい。彼が招待状を…」
「おっさん、ちょっと悪いんだけど今お姉さんと大事な話してるから邪魔すんなよ!」
リオラはひるまずおっさんを睨み付ける。
「ば、ばかっ!早く謝れ!」
そんなリオラの耳をルークは思いっきり引っ張る。
「いってぇ、なにすんだよルーク!」
「ディオメデス様、僕の友人が失礼なことを…申し訳ありません。」
ルークはリオラの頭を下げさせながら、自分も頭を下げる。
「俺は悪くねぇ!てかこのおっさん誰?」
「はぁーこの人は現帝国騎士団長のディオメデス様だよ!」
「帝国騎士団長!?ってことはこの国で一番強いやつなのか!?」
目を輝かせるリオラに「はぁー」とため息をつくルーク。
「ガハハハッ!威勢がいいな、若いの!最近の若い者にしては珍しいな。それにそこの小僧、ルークというとスタール家の者か?」
「はい!お久しぶりです、騎士団長。姉がいつもお世話になっております。」
「ふむぅ。姉とは比べものにならないくらい礼儀正しく育ったな。あのお転婆娘の弟とは到底思えないな。あいつにお前の爪の垢を煎じて飲ませたいわい!」
ガハハッと豪快に笑うディオメデスに対してルークは「姉がご迷惑をおかけしているようですみません」と苦笑いを浮かべる。
「あの~」
会話に入れず困惑していたモニアがすまなそうに声をかける。
「あぁすまんすまん。それでなにがあったんだ?」
モニアはこれまでにあったことをディオメデスに説明した。
…
……
………
「がっはっはっは、招待状を忘れるだけでなく神鳥を食べてしまうとは無茶苦茶なガキだな!」
ディオメデスは堂々と笑いながらリオラの背中をバシバシと叩く。
「ディオメデス様、笑い事ではありませんよ?このことをギルド長が知ったら…」
モニアはその様子を想像しただけで震えが止まらない。
「うーむ、確かに笑っている場合ではなさそうだ。頭の固いソロのやつが知ったら大騒ぎになるかもなぁ。あいつなら『神の鉄槌を!』なんて言いだしそうだ。―しかたがない、この件は俺が預かろう!」
「ほんとか!?いいのかおっさん!?」
「い、いいのですか!?こんな得体のしれないバカの肩を持つなんて…」
「おいおい、素が出ているぞ、モニア。まぁ神鳥を食ったのもわざとじゃないようだし、威勢の良いバカは嫌いじゃないからな。――それにお前を見ているとなぜか昔の戦友の顔が頭に浮かんでくる。」
リオラをどこか暖かい目で見つめるディオメデス。
「あんた良いおっさんだったんだな!――今思うとその髭もイカしてますなぁ。」
「ガッハハ、この髭の良さをわかるとは見どころがあるぞ、小僧!」
(うわー、現金なやつー)
二人の会話をルークとモニアが冷めた目で見ていた。
「そうだ!せっかくここまで来たんだからどうせなら儀式も受けて行けばいいさ!紹介状が必要なら俺が書いてやる!ガッハハ」
「マジで!?」
「し、しかしそれでは…」
ディオメデスの提案に困惑するモニア。
「俺の招待とでも言っておけば神官たちも文句はねぇだろ。」
「受付のねぇさん、頼む!」
「なんだかよくわからないけど、モニアさん僕からもお願いします。リオラが式の前半に間に合わなかったのは僕にも責任があるから。」
男三人の頼みにモニアは悩む。
「はぁー仕方ないですね。もし何かあっても私は何も知りませんからね。」
(はぁ…こんな問題に関わりたくないのにー)
モニアはパソコンを少しいじり、座席番号の書かれた用紙をリオラに渡す。
「やったぜ、あんがとな!お姉さん!」
リオラはモニアの手を握りしめ上下に揺さぶる。
「べ、べつにあなたのためにしたのではなく、ディオメデス様とルーク様に頼まれたから仕方なく、―って聞きなさい!」
「へ?なんか言った?」
興奮するリオラには何も聞こえていなかったようだ。
(ま、まあルーク様は本当に貴族だし、ここでディオメデス様とルーク様と面識ができたと考えたら悪くはないわね。うん、悪くない悪くない。こんなガキは別に関係ないわ!)
うんうんとうなずく顔がなぜか赤いモニアはさておき、ようやく儀式に向けた長い受付が終わりリオラとルークはディオメデスとモニアに別れを告げ聖堂内へと足を運ぶ。
「それにしても変わったやつだったな。」
離れていく二人の背中を見ながらディオメデスはモニアに話しかける。
「ほんとですよ。まったく…。ディオメデス様も【帝国騎士選抜会】の募集や最近活発になっている魔物の対応などでお忙しいはずなのにこんなところまで来て…」
「どんな小僧がいるのかを見るのも騎士団長としての仕事なんだがな。それはそうと、さっきのリオラって小僧はスタールの小僧とどんな関係なんだ?スタールの小僧は友達だと言っていたが、貴族繋がりには見えなかったのだが。」
「そうなんですよね!なぜかルーク様はマレラ出身の彼ととても仲良さそうでしたし、どこでルーク様と知り合えたのか。あーうらやましい限りです。あっ…」
つい本音を口に出してしまい「しまった」と手を口に当てるモニア。
「…いまなんて言った?」
ディオメデスの表情が真剣になり、場の空気が引き締まる。
「う、うらやましいと言ったのは言葉の綾でして…」
「その前だ。あの小僧はどこ出身だと?」
「へっ?あ、彼はマレラから来たと言ってましたが…」
「マレラだと!?あいつの家名を教えろ!」
すごい剣幕でディオメデスはモニアに詰め寄る。
「え、えっと…。確かイグリードと。」
バンッ!!
「ひっ!?」
彼の家名を聞いた瞬間、ディオメデスは受付の机を叩いた。
「ガッハハッハ!あいつが、そうか…。どおりで似ているわけだ!」
(もうっ!なんなのいったい!?…でもディオメデス様もあの少年に注目していらっしゃるのだとしたら、もしかしたらただの田舎者じゃないのかも…。彼はマイリストに入れておきましょう。)
二人は遠のくリオラの背中を見つめている。
――そこに秘める想いは全く違うのだが。
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