第14話 授与式⑥ 水神の恩恵グレア
受付を済ませた二人は聖堂の中へ入る。
ガヤガヤガヤ
「うわっ!めっちゃ人いる!」
一階には同い年くらいの貴族が座り、上の階ではスカウト陣らしき大人たちがその様子を観察している。
「えーと、俺たちの席は…あそこか」
リオラ達が入ったとき既にほとんどの席が埋まっていた。
「隣の席座りたいんだけど足をちょっといいかな?」
会場の後ろの方に自分の席をみつけたルークはその横の席で足を投げ出し座っている金髪の美少年に声をかける。
「あん?僕に何か文句でもあるのか?いい度胸しているな!いったいどこの下級貴族だ?」
少年はルークの方を振り返り小バカにした目で二人の顔を見る。
「うん?お前はどこかで…」
「僕はルーク=スタールだよ。君は確か以前パーティーで見かけたことがあった気が…」
「ルーク=スタール?…ってル、ルーク様!?し、失礼いたしました!僕はバーデン家次男のナルキソスと申します。まさか顔を覚えていただけていたなんて…。」
生意気な態度が一変し、ナルキソスはぺこぺこと頭を下げる。
そして足をどかしてもらいルークとリオラは席につく。。
「なーんかヤなやつー」
リオラは嫌そうに眼を細めながらつ小声でつぶやく。
「まぁまぁ。リオラは見慣れないかもしれないけど貴族世界だとこんなのばっかりだよ。」
「うへー貴族ってめんどくせー。でもあいつルークの名前聞いて態度変えたけどルークって―」
『只今より天賦(ゲイン)授与式を始めさせていただきます。成人された皆様は順番に神父様の前へお進みください。』
リオラはルークに質問しようとしたが、司会が話しはじめたので喋るのをやめた。
最前列に座っていた青年が白い髭を伸ばした神父の前へと進んでいく。
『それではクレモンテ様、よろしくお願いいたします。』
司会がそう告げると神父は両手を天に伸ばしそして祈りをささげ始める。
『オー我らが神、メーラよ!この者に祝福をあたえたまえ!【神託】』
クレモンテが両手を青年にかざすと青年の頭の上に文字が浮かび上がる。
【
クスクス クスクス
会場には小ばかにしたような笑い声が広がり、鑑定を終えた青年は肩を落として席へと戻った。
「おぉ!!!スゲー!あんな風にゲインがわかるのか!」
シーン…
いきなり大声を出したリオラに注目が集まる。
「リオラ、恥ずかしいから座って黙ってて。」
ルークが恥ずかしそうに顔に手を当てながらリオラを座らせる。
『オホンッ、えーそれでは次のかたは…』
司会が場を仕切り直し、次々に鑑定が進んでいく。
「なぁなぁ、なんでさっきみんな笑ってたんだ?」
「それはリオラがいきなりでかい声をだすから…」
「そっちじゃなくて、最初のやつの鑑定がでたとき!」
「あぁ、それなら簡単なことだよ。最初の子のゲインは【炎の料理人】だったでしょ?このゲインはよく見かけるゲインだし、周りが笑ってたのは貴族にとってあまり価値がないゲインだったからだね。」
「そうなのか?【炎の料理人】なんてなんかかっこいいと思うんだけどなぁ」
「リオラは時々、すごく良いこと言うね。…普段はただのバカだけど。」
「時々は余計だ!」
「バカって言ったのは別にいいのか…」
リオラのちょっとずれたツッコミにルークは苦笑いを浮かべる。
「まぁ普通の授与式なら笑いが起こるようなことじゃないと思うけど、貴族の世界ではゲインで一族の地位が決まると言っても過言ではないくらい重要視されているんだ。特に戦闘系と統率系のゲインはそれを持っているだけで周りより上にたてると思われている。だからそれ以外のゲインが鑑定されたら見下し始めるんだよ。」
ルークはつまらなそうにそう語る。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉ』
突如会場が湧く。
「な、なんだ?」
リオラは注目されている方へ眼を向けた。
そこには一人の美少女が歓声にも動じず長く綺麗な青髪をなびかせ堂々と立っている。
そして頭上には【
「げっ、やっぱりグレアは上級ゲインだったのか…」
普段の貴族らしさからは想像がつかないような声をだしたルークは苦虫を嚙み潰したような表情でグレアという美少女を見ている。
「あいつ、ルークの知り合いなのか?」
「うーん…。まぁ幼馴染みたいな感じかな…。親同士で交流があってよくうちに来てたんだけどわがままお嬢様だから正直苦手で…」
カツッ カツッ カツッ
「―誰がわがままですって?」
「へっ?」
神父の前にいたグレアはいつのまにかリオラ達の前に来ており、仁王立ちでこちらを睨んでいた。
「や、やぁ、グレア!久しぶりだね!」
ルークは必死に冷静を装うが、明らかに動揺を隠しきれていない。
「ごきげんよう。今朝はわたくしとの約束をすっぽかしていったいどこに行っていたのかしら?」
グレアの圧倒的な迫力にルークだけでなく周りの空気も冷え切る。
「あ、あはは、ごめんごめん。今朝はちょっといろいろ大事な用事があって…」
笑顔を作ろうとするがぎこちない。
「それはそれは。わたくしとの約束以上に大事な用事とはいったいどのような用事だったのかしら?詳しく教えてもらいましょうか。」
「え、えっと…それは…」
「今朝なら俺と一緒にいたぞ?」
口ごもるルークを見てリオラが答える。
シーン…
リオラの発言に周りの空気はますます冷え込む。
「…あなたは?」
「あっ!グレア、彼は友人のリオラ。」
何とか空気を換えようとルークはリオラを紹介する。
「ふーん…友人ねぇ。あなた貴族じゃないわね?」
「そうだよ?よくわかったな!前半に間に合わなそうだからルークに―」
「だって見るからに品がなくておバカオーラが出ているじゃない!ルーク、あなたは一体なんでこんなのと付き合っているのかしら?リスお姉さまが知ったらどれだけ悲しむか。あぁリスお姉さまに会いたいわ!」
「っんな!?」
食い気味にむちゃくちゃ失礼なことを言うだけ言って、グレアは「あぁ…リスお姉さま…」と恍惚な表情で自分の世界に浸る。
(なんだよ、こいつ!品がないのはどっちだよ!はぁー、でもルークのためにここは我慢しなきゃな)
「リオラだ!よろしく!」
リオラはこめかみをピクピクさせながらも必死に笑顔を作り、手を差し出した。
パシッ!
しかし握手をしようとしたリオラの手をグレアが払いのける。
「いってぇ!何すんだいきなり!」
「平民の分際でわたくしに気安く触れないでくれる?」
グレアはリオラに触れた手をハンカチで拭きながらリオラを見下ろす。
「なんだと!!ルークの幼馴染だから我慢してたけどもうキレたぞ!」
「落ち着いて、リオラ。ちょ、ちょっとグレアもそんな言い方はないんじゃ―」
ルークは今にも殴り掛かりそうなリオラを制しながらグレアに苦言を呈す。
「ふんっ!バカがうつる前に席へ帰らせてもらうわ!ルーク、あなたはスタール家の人間としてそれ相応の付き合いをしなさい。わたくしの婚約者でありたいのであればなおさらね。」
そういうとグレアは背中を向け席へと戻った。
「あームカついた!なんであんな上から目線で偉そうなんだよ!てか、いま婚約者とか言ってなかったか?」
リオラは荒いだ呼吸を整えながらルークに聞く。
「一応グレアは僕の婚約者ってことになってるんだよねー」
「はぁ!?お前あんなやつが好きなのか!?」
「いやいや!お互いの親が勝手に決めただけだから。それにグレアももともとあんなに周りを見下すような子じゃなかったんだけど…。まぁそれはさておきようやく僕らの番が来たみたいだよ!」
二人は話を切り上げ神父の前へと向かった。
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