自由な女神

みんなで手分けして、

迷子になった金髪の幼女を探す。


ジルの涙にまみれた

悲壮な顔を見てしまったら、

こちらまで不安に、心配になってしまう。



昨日、何の抵抗も無く

私の後をついて来たことを考えても、


見ず知らずの人でも

ほいほいついて行ってしまう

そんな子なのかもしれない。


もし変な人に声を掛けられて

ついて行ってしまったら……

不審者に攫われてしまったら……



もう二度と君に

会えなくなってしまうじゃあないか……



私は必死になって

デパートの中を駆け回る、

階段を上に、下へと。



さすがにね、

ここで君とお別れするのは

私もしんどいよ


昨日会ったばかりで

昨日親子になったばかりだけど


それでも今君がいなくなってしまったら

きっと立ち直れそうもない


これがどういう気持ちなのか

私にはよく分からないのだけれど……



次々と嫌なことが

頭の中を駆け巡って、

体がソワソワして来る。



もしジルが言っていた人身売買の連中が

彼女の妄想などではなくて、

本当にいたとしたら……


そんな連中に

あの子が連れ去られてしまったら


一体、私はどうすればいいんだ?


一体、何が出来るのだ? 私に?


……そう、


……その時は、


その時は……


六億円を、全財産をはたいて

君を買い取ってやるっ


私はそう心に誓う。



しかし、そんな心配をよそに、

消息は向こうの方からやって来た。


やはり、あの子は

良くも悪くも目立ち過ぎるのだ。


「あの子、

可愛い過ぎじゃなかった!?」


「マジ天使って、

ああいう子のことでしょ!?」


すれ違う人達がざわついている。


話の内容からして

ファニーのことに間違いない。


行き違う人に

彼女をどこで見掛けたかを尋ね、

私はその足跡を辿って行く。



何やら人が群がっている。


「いやぁっ〜」

「可愛いぃ〜」


何やら声が上がっている。


「ちょっと、すいません」


人をかき分けて最前まで進むと

そこはデパート内の遊具スペース。


ファニーは他の子供達と

一緒になって遊んでいた。


「……はぁっ」


彼女の姿を確認した私は

安堵のため息を漏らす。


お団子ヘアにしてあった頭は

どうやら自力でほどいたらしく、

長い髪が揺れている。


どうやら余程、嫌だったらしい。


試着室から

着たまま逃げ出したドレス姿は

まさしくお姫様で、


その後ろ髪を

自らの手でかき上げる仕草は

まるで女神か何かを見ているようだ。


周りに居る母親達からは

再び黄色い声が上がる。



そこにやって来たジルが、

いきなり床に座り込んで


ファニーを抱きしめて

大声で泣き叫びはじめた。


「お嬢様っ! お嬢様っ!!」


人目も憚らず

大の大人が大声で泣いている。


事情がよく分からない筈の

周りに居る母親達も

何故かもらい泣きしている。


それが母親というもの、

母性というものなのかもしれない。



それでも、私の体は反応しない。


こういう時、

どうしたらいいのか分からなくて、

体が固まって動かなくなってしまう。


抱きしめるとか、頭を撫でるとか、

そんなことを出来ることが

羨ましくすらある。


こんな状況でも

触れることへの抵抗が先に来てしまう。


頑張らないと人には触れられない。



何故だろう?


やはり私が冷たい人間だからなのか?


人とのスキンシップに

抵抗があるからなのか?


そこにはやはり

愛情の差があるような気がする。


やはり、私は

どこか偽善者なのかもしれない……。


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