お転婆な着せ替え人形
「んっ!」
金髪の娘、ファニーは
また頭に載せられていた帽子を捨てた。
「お嬢様、
ちゃんと帽子を被ってください、
よくお似合いですよ」
ジルはおそらく
そんなようなことを言っているのだろう、
日本語ではない言語で。
さっきから
何度もこれが繰り返されている。
外出して買い物をするにあたり、
出来るだけ目立たないように
ジルは、ファニーの髪を
後ろで一つにまとめた
お団子ヘアにした。
ここまででも、まぁまぁ
不服そうな様子だったのだが、
帽子を被せたところ
どうにも気に入らないらしく、
癇癪を起こして
すぐに帽子を捨ててしまうのだ。
そして、一つだけ
はっきり分かったことがある。
ファニーは普段から
怒っているような顔に見えるが、
それはただ顔立ちが整っており
表情が凛々しいから
そう見えるだけのことであって
怒るともっと
激しい顔つきになるということだ。
そして、私の娘は、実は
相当気性が激しいのではないかと思われ、
私は震える……。
-
「まぁっ! 可愛い~っ!!」
デパートの子供服売り場、
店員の女性は声を上げて褒め称えた。
「こんな可愛らしいお嬢ちゃん
見たことないわっ!」
多少それなりに
リップサービスが入っているのだろうが、
それでも、
この子を見た人達の反応はみんなそうなる。
昨日、突然父親になったばかりではあるが、
それが我が子のことだと思うと鼻が高い。
決して親バカではないと思うのだが、
さてどうだろう……。
「お嬢様、よくお似合いですっ!!」
「本当に何を着ても
よくお似合いですね」
ジルと店員さんは、
ファニーに次から次へと
いろんな服を着せて盛り上がる。
確かに何を着ても
美しいし可愛いと思うのだが、
さすがに少々騒ぎ過ぎではないか。
「こちらのドレスなんかも
きっとお似合いになりますよ」
「まさにお嬢様の為にあるような
ドレスじゃあないですかっ!!」
いやいや、君達ちょっと待て。
さすがに日常生活で
そんな服は着ないだろ?
舞踏会にでも行く気なのかい?
社交界デビューとか?
これではまるで
リアルな着せ替え人形のようではないか。
むしろ着せ替え人形遊びで喜ぶ年頃は
ファニーの方だというのに……。
そのファニーの方は、
いつもの調子で
凛々しい顔をしているので、
もはやどっちが大人かよく分からない。
もちろん可愛いのだが、相変わらず
怒った顔をしているようにも見える。
もうちょっと
笑った方がいいんじゃないかな?
笑った顔の方が
きっともっと可愛いぞ?
スマイル、スマイル
感情がまったく顔に出ない私が
言えた義理ではないのだが。
例えるならば、
引きこもりの息子に、
仕事を舐めてると説教される
働くお父さんみたいなものか。
――しかし、子供の服というのは
いくらぐらいするものなのだろうか?
子供に縁が無かった私には
まったくその辺の感覚が分からない。
気になったので、そばにあった
それなりの服の値札をめくってみる。
高っ!!
なんで子供の服がこんなに高いんだ?
きっとここは
いいブランドなのだろうが
それでも、生地だって
大人の半分も使ってないだろうに
子供なんてすぐ成長するだろうから
一年も着られないんじゃあないのか?
…………
……君達、いくらお金があるからって
あまり贅沢をしちゃいけないよ
これから三人で
暮らして行くお金なんだから……
こういう小市民の貧乏性なところは
いつまでも変わりそうもない……。
「お嬢様っ!?」
そんなことを気にしていたら、
ジルの悲鳴にも似た叫びが聞こえた。
「だ、旦那様っ!!」
「も、申し訳ありませんっ!
お嬢様がっ! お嬢様がっ!!」
どうやらファニーが、
ドレスを着たまま
試着室から脱走したらしい。
ジルの顔は青ざめて、
今にも泣き出しそうな顔をしている。
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