献身とスポンサー

お風呂上がりのドライヤー音。


五月蝿いものではあるが、

それもまた私にとっては懐かしい。


私自身はドライヤーを使わないからだ。


キラキラと輝きを放ち

美しい髪が温風に舞う。


ジルはファニーと

一緒にお風呂に入って、

今は金色の髪を乾かしている。


ジルの膝の上に乗せられ

まるで後ろから

密着されるような姿勢で、


ドライヤーの風に

髪をなびかせているファニー。


風呂上がりで

顔の筋肉が緩んでいるせいなのか、


いつもと違い、目尻を下げて

ふにゃっとしている。


さっぱりしてご満悦、

そんな顔をしている。



ここでもやはり私は

母性というものを見い出していた。


幼い子を抱きしめるジルは

母性に溢れているように見える。


実際の年齢差は、母娘というより

ちょっと年の離れた姉妹ぐらいなのだが。


死んだ妻にも、こんな経験を

させてあげたかったものだと

今更ながらに思ったりもしている……。



昨晩と同じように

寝室に二組の布団を敷いていると


ジルが自分の部屋から

布団を抱えて入って来た。


「私もお嬢様の隣で寝ても

よろしいでしょうか?」


――えっ!?


許可をするも何も無く、

返事をする前からすでに

布団を敷きはじめているジル。


「ちょっと、待って……

さすがに同じ寝室で

一緒に寝るのはどうかと……」


「いえいえ、私は大丈夫です、

全然、気にしておりませんので」


だからぁ、私が気にするのだが……


結局、私は寝室を追い出されて

リビングに布団を敷いて寝ることになる。



それからも毎日、

ジルはファニーのそばを

片時も離れること無く、

甲斐甲斐しく世話を焼き続けた。


朝は六時前には起床して、

夜はファニーが就寝する

九時もしくは十時まで。


それどころか、寝ている時でさえ

何度も目を覚まし

ファニーの様子を確認しては、

布団を掛け直したりしている。



彼女はプロの家政婦ではなく、

ドラマのように、家政婦協会から

派遣されて来ている訳でも無い。


だから出来ない事も、失敗も多い。


しかしだからこそ、

こんなにも必死になって

ファニーの世話をしてくれるのだ。


これに賃金を出すのだとしたら

一体いくら払えばよいのだろう?


彼女の雇用主は

私ということになっているが、


普通の会社であれば、

こんな勤務形態は

ブラック企業もびっくりというもの。


労働基準局が

慌てて飛んで来るレベルだ。



まさにこれこそが

献身というものではないのか?


愛情というものではないのか?


彼女に比べれば

やはり私は偽善者ということなのだ。


六億円が当たったので、

この二人が生活に困らないように

金銭的な支援をしています……。


まるでスポンサーとか

パトロンのようなものだ。



そして、いつしか私は

ファニーのことは

すべてジルに任せるようになっていた。


ファニーが日本語を

まだよく分かっていないこともあって、


ファニーに伝えたいことは

ジルに伝えて話すようになり、


ファニーもまたジルを通して

私に言いたいことを言うようになった。


まるで伝言ゲームのようなものだ。


それが、二人の間に溝をつくる

そもそものきっかけになったのだろうと、

後になって考えてみれば、思い当たる……。


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