人生初のお姫様抱っこ
こっくりこっくり船を漕ぐ、
金髪の美しい髪が
その度に揺れている。
晩ご飯はデリバリーのピザで済ませた。
これなら箸の心配もいらない。
疲れていたところに
お腹いっぱいになったからか、
ファニーはすでに眠いようだ。
次はなんだ?
一応トイレの場所は教えたから、
大丈夫だと思うのだが……
いきなりオネショなどの洗礼を受けたら
今日はもう立ち直れないかもしれない。
お風呂?
ちょっと待て……
七歳というのは自分一人で
お風呂に入れる年齢なのか?
そうでなければ……
この眠そうな娘の服を脱がせて
風呂場で体を洗ってあげて、
パジャマに着替えさせることになるのか……
そ、それはちょっと、
レベル高過ぎやあしないか?
いろいろ無理な要素が
つまりまくっているのだが……
ま、まぁ、
今日は風呂はいいんじゃないかな
一日ぐらいお風呂に入らなくても
たいしたことじゃあないから、
死んだりしないから……
明日からは絶対
全部ジルにやってもらうしかない……
そう言えば、
そもそも着替えってどうするんだ?
こんな小さい子の服なんか
うちにある訳がないだろう……
死んだ妻の服ぐらいしかないが……
着られる訳もないし
そうだ、
孤児院で使ってたお洋服を
バックに入れてもらって
渡されたような気がするんだが、
あれどうした?
『荷物を持つのは
使用人の役目ですよ、旦那様』
……ジルが持ってた
元軍人と言うから
頼もしいと思っていたのだが、
もしかしたらあの子は
残念な子なのか?
ま、まぁ、
今日は着替えはいいんじゃないかな
よくはないんだろうが、
とりあえずは
明日まで我慢してもらうしかない
明日、早速買いに行かなくてはな
−
寝室で、死んだ妻の布団を敷いて
リビングに戻って来ると、
ファニーは横になって
寝てしまっている。
…………
これは、どうやって運ぶんだ……?
抱っこ?
俗に言う
お姫様抱っこというやつか?
彼女は確かに
お姫様と呼ぶに相応しいルックスだが……
いやいや、問題なのはそこじゃあない
私が自分から誰かに触れるのか?
…………
義理の父親となったからには、
それぐらいのことは
当然してあげなくてはならない……
きっとそういうものなのだろう……
――人生初のお姫様抱っこ
おそるおそる、頑張って
彼女の首筋裏と膝裏に手を差し込んで
その体を抱きかかえる。
思ったよりも軽いような、重いような
寝ている人間は
体に力が入っていないから
重いというのは本当だったのか
落とさないように必死で運んで、
布団の上にそっと置く。
「ふぅっ……」
さっきから、
変な汗がふき出している。
これは、外着を
脱がせてあげた方がいいのだろうか?
そう思って、
おそるおそる彼女の上着に手を伸ばす。
その手はブルブル震えている。
事情はどうあれ、
まさか自分がこんな幼女の上着に
手を掛ける時が来るとは
思っても見なかった……
そこで突然
上半身をガバッと起こすファニー、
すごく眠たそうではあるが、
やはり怒っているみたいな顔。
何故か私は、
咄嗟に目をそむけた。
いや! 無理!
すいません! ごめんなさい!
ただ外着を
脱がせてさしあげようとしただけなんですっ!
まだ寝ぼけているのか
彼女は眠そうな目をこすりながら、
可愛らしい声で呟いた。
「…………おしっこぉ……」
「!!」
「……お、おしっこ、
おしっこ……ね……」
「ここでしちゃダメだからっ! ……ね」
「こ、こっちだから……ね」
私は慌てふためきながら
彼女をトイレへと連れて行く。
頑張って抱っこして運んだのも
すべては無駄となってしまった。
私の、義理の娘となった
金髪碧眼の美しい幼女
彼女と初めて交わした言葉は
「おしっこ」だった……。
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