初めての心配
「なんということだ……」
ようやく駅まで
辿り着いたと思ったのに
こんな長い階段を登るというのか?
この小さな幼い子が……
階段から落ちでもしたらどうする!?
それで彼女の美しい顔に
傷でもつこうものなら
それが分岐点となって
やさぐれた未来のルートに
つながってしまうかもしれないのだぞ?
もちろん私にも一生消えない
心の傷が残ってしまうではないか……
普段はまったく
気にしていなかったことが、
子供目線になってみると
気になって仕方がない。
バリアフリーみたいなものか。
そんな私にはお構いなく、
彼女は元気に階段を駆け上がって行く。
七歳はか弱い幼女だと思っていたのだが、
そうでもないのか?
いかんせん、
子供と接触したことが無いので
その辺もさっぱり分からない。
−
電車に乗っていると、
隣に座っている幼女が欠伸をし出す。
もう夜だし
今日はいろいろあって疲れたのだろう。
帰りの道すがらずっと、
すれ違う人々は必ず
彼女のことをチラチラ見ていた。
やはりこの子は目立ち過ぎるのだ。
あれではまるで見世物のようではないか。
今はまだ本人も気づいてはいないが、
そのうち物心が付いたら
傷ついてしまうのではないか?
そんなことも心配になってしまう……。
さて、晩ご飯はどうしたものか?
というか、
この子は何を食べるのだろうか?
日本の孤児院に居たぐらいだから
普通に日本食でも平気なのだろうか?
歯が生え変わるのは
いくつぐらいだったか?
堅いものとか、平気かな?
そもそも、この子、
箸とか使えるのか?
そこは叔母さんが
それなりには躾たような気がする
割と年配の女性は
箸の使い方を気にするし
むしろこれに関しては
ジルの方があやしいかもしれない
日本に来て
まだ間もないと言っていたし
当分食卓には
和食が出なさそうな気がして来た
そもそも
料理の腕前を知らない女性を
家政婦に任命するとか
フラグを立てているような気がして
ならないのだが……
−
駅を降りて、
家までは夜道を歩く。
街路灯の下を進む私に
黙ってついて来るファニー。
東京近辺の郊外に一軒家を買って
亡き妻と暮らしていたから、
三人で暮らすとしても
それ程、狭いということもないだろう。
割とのんびりとした田舎風で
いいところではあるのだが、
人通りが少ないし、
そういう意味では
犯罪が起きやすいのかもしれない。
この子が、
この付近を歩いていて
誘拐されたりでもしたら
どうすればいいのか?
何せこの子は目立つから、
よからぬ連中に
目をつけられてしまうかもしれない。
…………
世の、娘を持つ父親というのは
毎日毎日こんな思いをしてるというのか?
娘に何かあったらいかん、けしからんと
こんな心配ばかりしているのか?
こんなのが
二十四時間、三百六十五日、
二十年近く続いたら、
心筋梗塞か脳梗塞で死ぬだろ?
普通に……
私なんかまだ二時間ぐらいだが、
もう疲れ果てたぞっ!!
−
いつもの数倍
時間が掛かったような体感で、
ようやく家に辿り着く。
それなりの移動で
彼女も疲れたことだろう。
「ここが、今日から
……君の家だから……ね」
なかなかいいことを
言ったのではないかと、
良い人である自分に酔っていた私だが、
金髪の幼女はやはり
眉間に皺を寄せて
険しい顔をしていた。
……移動、
大変でした? 長過ぎました?
やっぱり……
なんか怒ってますよね?
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