初めてのお泊り

夜中だというのに、

まったく眠れる気がしない。


電気を消した薄暗い寝室には

窓から月明かりが

微かに差し込んでいる。


今日は、半ば勢いで

一人の女の子の、義理の父、

いわゆるお父さんになってしまった……。


本当にこれでよかったのか

自分に何度も問い掛ける。



隣の布団で寝ている

私の義理の娘となった金髪の幼女。


月明かりに浮かび上がっている

白く透き通るような肌は、


まるで血が通っていないみたいで

妻が死んだ時のことを思い出させた。


死んだ妻が使っていた布団で

現在寝ている彼女。


それがより一層、

妻の死をオーバーラップさせる。



彼女はまったく

微動だにしないので


死んでいるのではないか?


そう心配になって、

時々、顔を近づけては

彼女が発するスースーという寝息を確認する。


もうそれを何度も繰り返していた……。



これ程までに小さくか弱い命……。


もし私がトイレに行く際、躓きでもして、

私の体が彼女の上に落下でもしたならば、

きっと彼女は潰れて死んでしまうだろう。


そう言えば、

昔ニュースで見たことがある。


パンダの赤ちゃんが

お母さんに添い寝していたら、

お母さんパンダが寝返った際に

赤ちゃんを押し潰してしまったのだとか。


さすがに私はパンダ程の体重も無いし、

獣と一緒に考えるのはどうかとは思うが、


それでも、寝相の悪い私が

彼女を潰したりしないか、

心配になって来てしまう……。


-


自分の義理の娘となった

幼子の美しい寝顔を見ながら、

ふと思う……


この子は、

今回の養子縁組によって


無事に分岐点を分岐して

違うルートに入ることが出来たのだろうか?


これだけ環境が変わった訳だから、

分岐したのは間違いないだろう


何かしら違うルートに

分岐しただろうとは思う。


だが、それが、この子の

破滅ルートを回避しているのか?

まだ破滅ルートに居るのか?


それはまだ誰にも分からない……。



この子はあまりにも美し過ぎる……


――これはこの子が

自分の養女になったから、

親バカでそう思うのではなく


それ故に、脆く、壊れやすく、儚い


そんな悲劇的な結末を

人に予感させてしまう……



そうなのだろう……


私はおそれている、


ずっと怯えているのだ……


この小さく可愛らしい命が

壊れてしまうことに……

傷ついてしまうことに……。


-


ようやく、うとうとしかけた頃、


家のチャイムが

物凄い勢いで鳴り響く。


「!!」


真夜中の突然の訪問者に

私はびっくりして飛び起きた。


「旦那様、おはようございますっ!」


それは案の定ジルではあったのだが。


そうか、この子にとって

午前三時半は朝だったか……。


「家に帰って、荷物を取ってまいりましたっ!」


きっと気合が入り過ぎて、

朝早く起きてしまったのだろう。


「今日からはこちらでお世話になりますっ!」


物凄く居て欲しい

肝心なときには居なくて、

来て欲しくないときには来る……


やはりこの子は

ちょっと残念な子なのだろうか……。




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