6.Gliding competitions
1 団体戦の役割 #74
6.Gliding competitions.
「君は本当に飲み込み早いな。想像以上だ」
敷島先生は履いていた手袋を脱ぎながら私を褒める。ただ、あくまでも勉強をした内容を再現しているだけ。特別なことはしていないつもり。
「さて、成長した皆に次のミッションを与えるとしよう」
私たち一年生を集めた先生は、タブレットの画面を指さしながら説明を始める。
「夏に行われる滑空選手権に参加してみよう……とはいっても校長からの指示で、それも夏休み直前に決まってだな。えっと場所は埼玉県
なるほどLogaris搭乗までの全般を急いだわけはこれか。
「埼玉県熊谷市って日本で一暑い場所だっけゆきなちゃん?」
「最近いろんな所に抜かされているから、実質日本中どこも暑いと思う」
「うん、そだね。これで地理の授業はバッチリだ、だからこそ話を聞けお前ら!」
「そうだぞ華雲、毎日ゲーム三昧だとダメだ。もっと勉強をしないと」
「君もだ! 勉強だけがすべてじゃないぞ高碕」
「はい」
先生は話しを続けた。
「団体戦ということで、パイロットはもちろん、整備担当、航路担当と役割分担が必要だ」
「先生……」
「二稲木、聞きたいことは分かる。『どうしてパイロットが一人だけなの』ってところだろ?」
「九割しか合っていませんが……、そういうことです」
「そうだな……、輝くのがいつだってパイロットだけじゃないってことかな。当人の実力もそうだけど、サポートあってこそのチーム戦だって創設者がそう言ってた」
「みんなが表彰台に立てるっていいですね。あたしも頑張っちゃおうかな」
先生の提案によると私が操縦、リキが整備、航路……主に気象の担当は悠喜菜で――。
「先生それだとあたしは何をすれば良いですか?」
「機体のデータ調整担当もあるにはあるが……。今泉にできるかどうか」
「お言葉ですが、先日の修正データでは満足いかなかったってことですか?」
「そうじゃなくてだな……うーん、調整は難しくて操縦特性が顕著に変わるうえにミスったら最悪墜ちる」
「ひえっ」
「いや、正直調整範囲さえ守れば『あれれ、操縦しやすいぞ』程度で済む。つまり諸刃の剣ってことだ」
「なら、あたしは見学ということで……。その分析とかとかを頑張ります。調整はゆきなちゃんに任せ――」
「華雲なら大丈夫だろ。それは私と愛寿羽が一番知っているからな、だろ?」
「そうだね、多分華雲ちゃんが適任だと思う」
「わ、わかった。あたしでよければやってみる」
「よし、良い感じ良い感じ。これが青春って感じだな、ハッハッハ」
「じゃあ華雲と愛寿羽は、頑張って貰って……。私はこの間の定期テストの気象課目満点だったから、出番が来たら教えてくれ」
「バカヤロウ! 何を言っているんだ? 航空機を一人で飛ばせって教えたか? 君たちには今日から最低限のチームワークを叩き込むからその覚悟で。まずこの部活といえば座学からだ」
「また座学かよー」
悠喜菜……それは私のセリフ。
「でもどうせやるなら一番を目指そうよ。ほら、みんな手をだして」
言われるがまま、円陣を組んだ私たちは右手を出し決意を固めた。私も得点元として最善を尽くせるようにしたい。
「……いいんですか敷島先生。大会まであと十日余りしかありませんが……」
「ごめんね、本当なら君たち三年生も出す筈なんだけど、如何せん彼女たちには来る日までに場数を踏んで貰わないと――。それに君ら二人には卒業後も世話になりそうだろうから。そうそう代わりにピュアの大会には出場――」
先生の言葉が一部かき消されて聞き取れなかったが、一体何の話しをしているのだろう。
私たちは大会のルールや各役割のざっくりとした内容を先生から教えられた。普段は二年生の先輩が教えてくれるので、先生直々の座学はこれが初めてだろう。ただ三日目で各担当専用の特訓座学が始まった。私の特訓は先生と一対一で行われ、再び頭に余裕ができない日々が続く。この間ひたすらルールと経路、演技の技を教え込まれた。飛行部と試合をした時と似た技があるものの、SR22と特性が異なるので簡単にはいかない。
座学が終わってもすぐに飛行訓練になるので、寝るとき以外休まる時間がほとんどない。恐らくそれはみんなも一緒なのだろう。それは三人の表情を見ればすぐにわかる。だからこそみんなの期待に応えられるように私も、限界を突破しなければいけない。
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