3.Acting Haughtily that Aviation club to Give Sanctions.

1 調理実習の惨劇 #35

3.Acting Haughtily that Aviation club to Give Sanctions.


 毎朝観ているニュース番組が終日雨だということを伝える。それは同時にグライダーで空を飛ぶことも終日お預けとなってしまう。窓から外を見る限り雲が厚く、眼下に広がる街がどんよりとしている以外特に問題なさそう。下に降りる既にぬか雨が降っていた。高いところに住んでいると下の様子がよく見えないので、雨自体が降っているかが分かりにくくちょっと不便に感じる。念のために郵便受けの中に折りたたみ傘を入れておいて正解だった。


 改札付近を抜け、だいぶ人の流れに慣れるものの、やっぱりできるだけ人が少ない時間帯の中で通過したい。

 ちょうど改札から出て来る華雲に会い、歩きながらバス停へと向かう。

「おはよう、今日はずっと雨だって。もうイヤになっちゃう、髪の毛もしっとりとして潰れちゃうし……」

「確かにそうだね。そういえば傘は持っていないの?」

 私は華雲が傘を持っていないことに気付いた。

「たぶん、電車で落としちゃったかも。今頃は武蔵小金井駅辺りじゃないかな。結局見つかったとしても東京駅まで行かないとダメだし。あずちゃんはここまでずっと雨よけがあるから、うらやましいなー」

 頷くと同時になんだか複雑な感情が込み上げてくる。

「どうしようあたし……」

「いっそ、撥水剤を髪に塗ったらいいかもね」

「ゆきなちゃんみたいな冗談を」

 華雲はムッと頬を膨らませる。

「ほらバスが来たわ。バス停から校舎まで私の傘で良ければ入る?」

「さすがあずちゃんありがとう。助かる!」

 白い歯を見せながら、華雲が笑った。


 雨が降る中この日はちょうど最後の五、六時間目に家庭科の調理実習がある。飛べない気分を紛らわすのにはちょうどいい。料理に関しては独りで暮らしていた時間もあるので、何でもできる気がした。課題レシピはスポンジケーキとナポリタン。私は教科書で作り方をおさらいしている横で、悠喜菜が得意げな顔をしている。

「料理は案外得意だから任せて。こう見えてもいろんな人を感動させてきたから」

 普段から勉強や部活でも人一倍物覚えがいいので料理に関しても特に問題ないだろうと、気にも留めなかった。むしろ『感動させた』というぐらい、おいしい物を食べられると期待している。「能ある鷹は爪を隠す」ということわざがあるように本当に“出来る人”は、自分の能力をいざというときにしか発揮させない。

 工程をチラ見する限りでは、いたって順調に進んでいるよう。やがて悠喜菜は上機嫌に焼き上がったケーキのオーブンを開ける。

「我ながら良くできた。よく焼けているように見えないか?」

 一瞬黒煙がもくもくと立ちこめたように見えた。……が気付かないフリをした。気のせいだったと信じたい。一通り私も作業を終わらせ課題の一つであるナポリタンを皿に盛り付ける。

「なに、その見るからに危険そうなモノは?」

 華雲が能天気に聞いてしまった。恐らくこの子の終わりは近いだろう。

「ちょっと焼きすぎちゃったけど問題ないっしょ。ほら味見してみ」

 悠喜菜は三白眼で、暗黒物質と化したケーキの破片を無理やり華雲に与えた。


「ぐげーー、がーー」


 それは言葉ではなく、機械的な叫びにすら聞こえた。どうしたらこんな声を出せるのか? そんなことを思っていると華雲は勢いよく実習室を飛び出し、そのまま帰ってこなかった。

「華雲は美味しさのあまり飛び出していった、安心しろ」

 右手にスプーンを持ちながら語る悠喜菜に狂気を感じる。今の華雲をみてどうして『安心しろ』といえるのだろう? なによりもレシピ通りに作っているのにどうして暗黒物質が生まれたのか、正直疑問でしかない。ある意味では天才的とも思える。

「エグいって、どうするねん二稲木。あいつホンマに先生をりに行ったで」

 偶々同じ班になった幡ヶ谷君が、いつの間にそれが乗った皿を提出した悠喜菜を止められずただただ口を開いて喋る。

 他の班は形こそいびつなケーキが多数あったが、そんなのはまだ可愛いほうだった。私たちのそれは他とは違う雰囲気を醸し出している。作り直すとしても時間がなかった。

「皆さんよく出来ましたね。ん? この班は上手くできなかったかな? 味は……、ウェッ」

 先生は複雑な表情を浮かべた。どうしてこんな平然としているのだろう。それはそれである意味ラッキーではある。飲み込んだあと、こちらを見ながら微笑み一言、

「二稲木さんの班、五人はこの後の放課後、補習をします」

 その表情に殺意が一瞬ちらついたように映った。刹那、私を含め同じ班数人の背筋が凍り付く。

「おっと今日この後予定があるから、俺は帰るでな」

 沈黙のなか最初に呟いたのは幡ヶ谷君だった。

「はー、私たちで放課後補習を受けましょう。幡ヶ谷君来ないのは残念だけど」

 幡ヶ谷君へため息交じりに分かりやすく、ハッキリと聞こえるよう私は口を開いた。

「いや、よう考えたら、俺も参加できる。今泉の分まで頑張ろうや」


 結局私と同じ班の女子でケーキを作り直すという結果になったが、おかげで先生からの許しが出た。悠喜菜は家庭科の先生と「将来お嫁に行くなら――」と話をしていてしばらく終わりそうになかった。調理器具の片付けを終え教室に戻ると、華雲が机に伏せぐったりとしていた。本当は手伝って欲しかったのだが……仕方ない。私は華雲の席に近づき様子を伺った。

「あの人完全にあたしを殺そうとしているでしょ。あずちゃんはアレ食べなかったの?」

「華雲ちゃんを教訓に食べないことにしたよ」

 私はできる限りの笑顔を添えた。

「えー! あたしだけ? 被害受けたの」

「でも大事には至らなくて良かったね」

「うえーん」と声をあげると、華雲はまた机に伏せてしまった。

「にしてもすげーな二稲木、俺も教科書を見ながらやってもここまで作れへんわ。どないしたらこんなに上手くなるんや?」

「一人で暮らしている時間があるからだと思うわ。料理も回数をこなせば自然と上手くなると思うよ。例外もあるみたいだけれど……」

「なるほどな。とにかくこれで部活に遅れずに済む。ほんまに助かったでー。ほなまたな」

 そう言い残すと足早に幡ヶ谷君は教室から向こうに行ってしまった。入れ違いで悠喜菜が戻ってきた。

「さて次は回鍋肉でも作ろうかな。今回はうまくいかなかったが、次こそは大丈夫な気がする」

 流暢に悠喜菜は淡々と喋る。一体先生から何を勉強したのだか……。

「悠喜菜ちゃんなら、肉の入った鍋ごと回していそう……」

「ん? 何か言ったか?」

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