3 地上58階、女の子同士の会合 #22

 高校生になって授業も始まり、ようやく生活にも慣れた二週目の週末、華雲と悠喜菜が私の部屋に遊びに来ることになった。元々約束していたとはいえ、その日は思ったより早かった。きっかけは情報処理の授業でノートパソコンが必要になり、当初は学校指定品を買う予定だった。華雲からすると「学校指定は確かに破格だけど、一年ちょっとでダメになっちゃう、ダメパソコンだよ」とか、他にも「あの子たちのスペックが……」や「あのマザーボードの仕組みは特殊だから、もし壊れたら買い直さないといけなくなる」とかを口にしていた。

 最も私からしてみれば、理解が追いつかない部分が圧倒的に多かったので、華雲には申し訳ないが、ほとんど流しながら聞いていた。「今時スマホやタブレットで大概の用事は済むのに」などと余計な思考が巡るが、最終的に華雲と相談しながら決めることにした。

 ちょうど悠喜菜も「新しく新調したい」という旨の話をしていたので、一緒に行くことになった。午前中二人はそれぞれの予定があるらしく、私の部屋に集合してから、マンションすぐ近くの家電量販店に買いに行くことになった。


 それはさておき、いざお客さんが来るというのに部屋に何もない状態ではまずいと思ったので、急いで通販にて最低限の家具を買い揃えたため出費がかさむ。別に金欠で困るほどではないけれど、アプリ通帳で減っていく数字を目にするたびに、なんとも鬱然とした気分になる。そんなときは「必要な物だから」と心に言い聞かせ納得させる。

 いざ準備万端の状態で待っているが、約束の時間になってもなかなか来ないものだ。二人へ連絡をしても、ウンともスンとも返事が来ない。特に急ぐこともないので、本を片手に明るく暖かいリビングのソファーに腰を下ろした。ちょうど読み始めたぐらいに、インターホンが鳴った。確認に向かうと制服姿の悠喜菜がいた。タイミング的にはあまりよくないが、人生とはこんな感じだろう。だから面白い。

「部屋は五八階だよ。入ったら手前じゃなくて奥のエレベーターに乗ってね。手前は二〇階までしか行かないから」

 エントランスの鍵を解錠してから玄関に来るまで更に五分程待った。

「本当にタワーマンションに住んでいるんだ、五八階とかすごいな。なんか東京スカイツリー登ったみたいにフワフワするし」

「そのうち慣れてくるから、私も来たばかりの頃は悠喜菜ちゃんと同じような気持ちだったわよ。ただ東京スカイツリーには登ったことないってだけが違いかな」

 他愛のない話をしながら悠喜菜をリビングまで通した。

「なかなか綺麗な部屋だな。私のとは違って……」

「まだ引っ越ししてそんなに日にちが経っていないからね。飲み物とお菓子を出すからそこに座って」

 ソファーに座ってもらい、コップと冷蔵庫から彼女の好きであろうマンゴージュース、適当なお菓子を用意した。

「お、私の好きなマンゴージュース。どうしてわかったの?」

「よくマンゴージュースを飲んでいる姿を見ているから、もしかしたらと思って」

「さすが愛寿羽! そう言う愛寿羽もお茶しか飲まないよな、って華雲もちょうど言っていた気がする」

「そう? 確かに私は基本的にお茶しかのまないからね。あ、あとお菓子もあるから自由に食べて」

 悠喜菜に言われるまで正直考えもしなかった。炭酸はあまり飲めないので避けるようにしているが、知らないうちにお茶=私というイメージが浸透していたらしい。

「そういえば華雲って、他人の気を引き付ける才能でもあるのか?」

 思えば私にも思い当たる節がある。言葉には上手く表せないが警戒を瞬時に解く話し方といい、屈託のない笑顔といい……。

「私も気になっていたけれど、なんだろう。でも他の人にはない個性だよね」

「華雲のあのやわらかい表情には憧れるな。私なんて上手く笑えなくて」

「そうね、いつも不気味な笑顔を浮かべているからね」なんて言ったら、どんなことになるだろうか?

「意外だね。悠喜菜ちゃんがこんなことを口にするなんて、でも無理なく少しずつ試していけばいいんじゃないかな?」

「それもそうだよな、努力してみるとするか」

 迷いが断ち切れたまっすぐな目つきをしながら、コップの中身を一気に飲み干した。私も喉を潤すためにコップを口に近づけた。

「そうだ、勿論私が『不気味な笑みを浮かべてる』なんて思っていないよな?」

 素早く顔を左右に振った。この人本当は心の声全部聞こえているんじゃないかと、背筋が撫でられる感覚がした。多分思ったことを素直に言ったらきっとおぞましいことになるだろう。

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