12 下校中の途中下車 #15
まだ土地勘が分からないので、今泉さんに案内を任せることにした。また入学初日のような方向音痴が起こらなければいが。
「駅まではこのバスが一番速そうだよ」
バス停で今泉さんは電光掲示板を指さしながら言う。
『学園都市直通元八王子経由八王子駅北口行きバスは約三分でバス停に到着——』
都会のバスはどこでも電光表示なのだろうか? 地元は寂しく板に書いてあるのであそこにもあれば多少わかりやすいのに。そんなことを考えながら明日の予定を確認しながら時間を潰していると、程なく目的のバスがやってきた。
一日の疲れ、緊張、少々の罪悪感を吐き出すかのように、ため息をつきながらバスの席に腰を下ろした。
「今日はなんだか疲れちゃった」
「そうだねあずちゃん、あたしも疲れちゃった。いまは甘いものを補給したい気分」
「私も軽く何かを口にしたいかな」
「うーん。それじゃあ美味しいクレープを食べにいこうよ!」
「うん。いいわね」
他の生徒を数人乗せると、ブザーが一つ鳴りバスは発車した。学校の敷地を抜ける頃にはすっかり日が暮れていた。
しばらく私は窓に映る景色を眺めていた。東京はどこへ進んでも明るい場所が多い気がする。北見では複数の交差点を越えると一気に畑地や山が視界に広がる。それに人の行動範囲が決まっているのである意味ではメリハリのある場所。
ふとスマホの光でイヤホンを外した今泉さんが窓に映る。彼女がどんな音楽を聴くのか気になった。
「何の曲を聴いているの?」
「これはえーっと、説明するならEDM《イーディーエム》というジャンルだよ」
「EDM?」
「そうそうエレクトロニクス・ダンシング・ミュージックっといって電子音で奏でる音楽だよ。なかでもあたしが好きなのはフューチャー・ベースかな。よかったらあずちゃんも聞いてみる?」
今泉さんは私にイヤホンの片方を貸してくれた。イヤホンを耳に装着しそのEDMとやらの曲を聴いてみる。最初はガチャガチャと騒々しいイメージを持っていたが違った。電子音が奏でる曲は、近未来的ではあるがどこまでも空のように広がる気がする。
「なんだか作業をしながら聴いたら捗るかも」
「でしょでしょ。あたしもパソコンで作業をしながら聴いているよ」
今泉さんは無邪気な笑顔をみせる。私も思わず頬がゆるむ。その音楽を背景にバスは淡々と走っていく。
◆
気がつくと大通りで渋滞に引っかかったらしく、バスは止まったり、動いたりを繰り返す。
「どうしたのあずちゃん? ちょっと顔色悪いけど……」
「ごめんなさい乗り物酔いしてしまって」
航空機を除く乗り物では、乗り物酔いが起こりやすい。元々お母さんの三半規管が弱いのが遺伝しているようで、旅行先への移動ではよく私含めて二人で撃沈していた。もっとも気温だとか、その日の調子だとかで左右されるが。北海道では電車通学だったため多少は慣れはじめては来たが、自動車系はまだダメ。
『次は
「このバス停から歩いていけるかな?」
口元に指を当てながら、左手で今泉さんは不安そうにバスの停車ボタンを押す。
「ごめんなさい。もう少しで着くのに」
「いいよ気にしないで、あたしも外の空気吸いたいなぁって思っていたところだから」
この場所が一体どんなところなのか、よく分からないままバスを降りた。橙色の街灯が煌々と大通りを照らす。一定間隔に永遠配置されている街灯はビルの間をまっすぐに導く滑走路のように思えた。
多くの車が行き交う国道を歩くと、次第に人通りや店の数が増えていく。しかしやはりどこか他人へは一切干渉しないという雰囲気をお互いに醸し出しているように思える。
冷たくて寂しい感覚。
しばらく道なりに歩くと、開けた広場に出たので一旦足を止めスマホで、現在位置を確認することにした。どうやら駅までは、もうしばらく歩かないといけないみたいだ。
「あたしこのへんの初めてだから土地勘わからなくてー。お腹もすいたし早く着けるように最短距離で調べてみるね」
彼女が調べてくれた案内の通りに道順を進んでいくが、やがて人が通らなそうな路地裏のような場所に入ってしまった。通りには怪しげなネオンがあっちこっちに灯っていて、その下にはタバコをふかす若い女性達が鋭い視線を向けてくる。一部の店からはびっくりするような声音の笑い声が聞こえ、地面には瓶や缶などのゴミもそこら辺に散らかっていて、それらを避けながら歩く。路地を進むごとに落ち着かず呼吸が速くなる。
「これ以上進んで大丈夫なのかな?」
私は思わず口からこみ上げてきた不安を口にした。
「うーん、たぶんこれは一旦大通りに戻った方がいいよね。もう一度ルートを調べてみるよ」
「おい、そこのネエちゃん達! オレらと愉しいことをして遊ばない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます