11 高身長で高圧的なクラスメイト #14
他の部活にも足を運び見学をする。どの部活も特徴的ではあるももの、興味が湧かなかった。運動は出来ないし、文化部でもそんなに秀でた才能なんて無い。特に私みたいに目的があると、余計空に近い活動場所を選びたくなってしまう。もし仮に普通の女子高生だったらまた違った選択をするのだろうか?
時間いっぱいまで一通り見学候補にあった場所を見て回るが、私の中であらかた入りたい部はもう決まっていた。
荷物を取りに一−D教室までの階段を上がる途中、今泉さんがクスクスと笑っていたので理由を尋ねてみた。
「グライダー部の先輩おもしろかったんだもん」
「そうだね、とてもユーモアがある先輩方だったわね」
今泉さんもあの先輩達のどこか天然の漫才じみた雰囲気を感じ取っていたようだ。
「結局部活はどこに入るの? 空以外の部活は興味なさそうだったから、予想は飛行部かグライダー部でしょ?」
「それはもちろん……」
答えようとした刹那『ドスン!』という大きな音とともに突然目の前に誰かが落ちてきた。今まで色々なドッキリ映像や実際に驚かされたことがあるが、人が予想外のところから落ちてきたので思わず“びくっ”と体が反応した。
「痛ってーな、何回目だ落ちたのは?」
尻もちを着いた彼女は腰に手を当てながら言った。
「大丈夫? ちなみに、あたしたちの前では一回目だよ」
律儀に今泉さんが答える。少なくとも彼女は、複数回落ちているということか。上を見上げるとその落下開始地点がわかった。どうやら階段にある窓辺のすき間から落ちたようだ。同時に私は大人数から遠くもなく離れた場所から、傍観できる自分専用の場所があることをちょっとだけうらやましく思った。
私たちもしゃがんで、彼女の背中やスカートについた汚れを軽く払ってあげた。
「……どうも」
夕日が静かに階段と私たちを照らす。汚れを払い終わり立ち上がろうとするのと同時に見えた彼女の目。なんだか世界を軽蔑しているかのような目つきで、正直身構えてしまった。さらに立ち上がり背筋がまっすぐ伸びた彼女に驚いた。私より頭一つ分以上身長が高い。そのせいなのか、それともスカートのサイズが合っていないのだろうか、脚の露出が多い。
「あれ確かあたしたちと同じクラスの……。でも茶髪だっけ? ゴメン、名前聞いてもいい?」
これ以上介入して欲しくないような顔つきをしているが、お構いなしに今泉さんは長身でふわっとしたショートボブの茶髪の彼女に名前を尋ねた。
この学校には空の交通整理を行う管制官を養成する管制学科もある。ストレスのかかる管制官の雰囲気を少しでも緩和するため私服登校日がある他に、派手でなければ髪を染めても構わない。これらのルールが他学科への不平等にならないように学校全体で統一している。だからといって、一年生のこの時期から既に染めるのはどうかと思うところもあるけれど。
「私は
一見すると威圧感を与えるように言い放った彼女だが、私にはどこか寂しそうに聞こえる。
「そういえば碧眼。お前さっき飛行部で先輩を論破していただろ?」
「えっと、特に論破したとかじゃなくて……」
どう答えたら最も適当なのか困惑した。そんなに強く発言したつもりはなかったのに。
「ま、いい。ようが何ならこれで失礼する。……碧眼に赤髪、覚えておく。もし私が落ちた事を他人に言ったら、分かるよな?」
高碕さんは静かで高圧的に言い残すと、階段を素早く降りていった。
「顔が赤くなっていたから、あれ絶対落ちたことを気にしているよ、ね?」
今泉さんがボソッと呟いた。それに対しゆっくりと頷く。なにかと心が試さされているような気分がしてならない。それから私たちは誰もいない閑散とした教室へ戻り荷物をまとめた。
「さっきの質問の続きだけど私は今のところグライダー部で決まりよ、もっとも期限まで考えるつもりだけれど」
「そうなの? あたしもグライダー部がいいかなーって」
飛行部のあの人数といい、雰囲気といい居心地が悪かった。加えて私は最大でも一つのグループ七人までなら大丈夫だけれど、それ以上の人数になるとかえって、訳もなく不安感だけが増える。そう考えると私はあまり人付き合いが得意な方ではないのかも知れない。
「あずちゃん今日このあと時間ある? せっかく八王子にいるんだから、観光がてらちょっと駅の周りでも歩いてみない?」
荷物をまとめ終わっていた彼女は、私の机越しに聞いてくる。
今泉さんの言葉を改めて考え直すと、道に迷って帰れなくなったら困ると思い、引っ越してから必要以上に駅周辺移動したことがなかった。
「この後は、特に予定はないわよ。帰ったらご飯食べて明日の用意するぐらいかな」
「よし決まり!」
ニコッと今泉さんは可愛らしく微笑んだ。
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