9 飛行部部活見学 #12
昼食を済ませ部活動見学の時間になる頃にそれとなく、グループがいくつか出来ているみたいだった。勿論、クラスに馴染めず周りを見渡すだけの人もいるが、幡ヶ谷君が上手に取り繕って溶け込ませようとしている。私はそんな傍ら部活の名前が載っている資料を机から取り出し、改めて教室から近い場所の部活がないかを確認しようとしたところへ今泉さんが机までやって来た。
「飛行部はロクカクだからここから近いよ。まずはここへ行ってみよう」
「ロクカク?」
私は資料をぱっと見直す。確かに『六格』と記載されている場所がある。
「多分第六格納庫を略しているんじゃないかな」
「なるほど、そういう意味ね」
さすが「東京ドーム四個分」とパンフレットに堂々と書かれていた広さは伊達じゃないようだ。そもそも東京ドームなんて行ったことがないので、スケール感が分からないけれど、すごーく広いのは分かった。とにかくパンフレットにある図面の指示通り進んだ。第六格納庫へは迷いながらやっとの思いで着いた。
教室の何倍も縦横に広い格納庫内には、私たちと同じ学年バッジをした同級生を数十人確認した。見学の回数を分けているとはいえ結構な人数。さすが学校で一番を争うほど人気の部活だ。一説によるとこの部活に入りたいがために、入学する人もいるということを聞いたこともある。私の目的は別でお母さんの関係者を探すこと。
私たちは他の見学者と近づきすぎない距離を保ちながら、集団より三歩ほど下がったところで話を聞く。
「諸君よく来た、これから飛行部を紹介する」
声がする方向に目を向けると、体格のいい先輩が一段上がった台のようなところで立っている。横には二機の似た機体が並んでいる。
「俺の名前は
陣場先輩は周りを見渡すとそのまま続ける。
「我々がメインで使用している機体はセスナ式182スカイレーン。航法訓練で遠くまで飛行する際は、遠距離フライト用でセスナ式400を使用している。ここにある両機見ての通り翼が上面にあるのがセスナ式の特徴だ。活動日の朝その日使う機体をエプロンに出し、点検及び試運転を行う。その後天候を確認しながらフライト本数を指定、訓練をする。訓練が終われば給油をし、格納後機体拭きをして活動が終了する。これが一日の主な流れだ」
同期の輪から、ひそひそと話し声が聞こえた。
「飛行部に入部することで、得られる恩恵は大きい。かつての俺も——」
陣場先輩はそのまま、武勇伝のような物語を語り始めた。私は正直話を聞いていても、特にメリットがあるとは思わなかったので半ば聞き流していた。
「以上、後は諸君の入部を期待する」
格納庫を出ようとする私たちに飛行部の陣場先輩の横にいた、取り巻きみたいな先輩が声をかけてきた。
「お二人さん他にも見学へ行く部活は?」
「あたしたちはあと、グライダー部を見学する予定です」
今泉さんが答えるとその先輩は、軽薄に笑い始めた。
「あそこはやめた方がいいぜ。あんなのに乗っても将来何の役にも立たねえ。なあそうだろみんな?」
先輩が呼びかけるようにして他の先輩達を賛同させた。それは半強制的な行為にすら感じられた。あまりのいいように私自身も呆れ、思わずため息が出た。
「グライダー部を批判するな、ますます入部人数が減るだろう」
反論を陣場先輩が口にするのだとばかり思っていたが、思惑は違う。自分の今までやって来たことが否定されるような気分。その悔しさなのか、気がつけばスカートの裾を強く握っていた。
「学年一位の君ならどういう意味か、よくわかるだろ?」
私の肩に陣場先輩が触れようとした。触れられる前に勢いで答える。
「では、先輩はグライダーの何を御存じですか? 私に役に立たないと断言できる根拠を説明していただけるでしょうか?」
陣場先輩は無言になり、私から視線を逸らした。
「それでは、すみませんが失礼します」
去り際に私は『先輩に口答えなんぞ前代未聞だ!』なんてあとで怒られるのではないのかと不安に駆られる。ただ反面すっきりとしたことも事実だ。それに自分の感情にまかせやってしまったものは、しょうがないと割りきることにした。
変な空気をそのまま置き去りにして、今泉さんと第六格納庫を後にする。
「あ、そのーあずちゃんグライダーの見学はどうする?」
戸惑いながら聞いてくる今泉さんの声に、反応が遅れる。一呼吸をおいてから心の奥にわだかまりのようになっている思いを消化するように話した。
「百聞は一見に如かずって、ことわざ知らない? つまり実際に自分の目で見て判断しないと気が済まないの。だから、誰がなんと言おうと私は行くよ」
「あずちゃんの言うとおりかも。あたしも危うく場に流されるところだった。せっかく時間もあることだし、行ってみよう!」
とりあえず私たちは、グライダー部がある第三格納庫へ向かった。第六格納庫からは、する反対側のエプロン(駐機場)なので意外と近くだった。
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