6 気さくに迫りくる少年 #9

 この学校は航空関係の科目以外に、文部科学省が定める基礎教養科目を勉強しなければいけない。そのため一年次は整備学科以外、全員共通のクラスで二年次から各専門分野の学科へ分かれるようだ。一—Dに私と今泉さんが一緒になった。今まで知っている人が同じクラスにいてもいなくても、私にとっては大した問題ではないと思っていたが今回は何かが違う。なんだろう、この気持ちは……。


 一—D教室は四階にあるので、式典前に預けていた荷物を受け取り今泉さんと談笑しながらその教室へと向かった。



 教室に到着しまず自分の座席を確認した。どうやら窓側の一番奥みたい。窓から優しく光が差し込んでいるその席に着きとりあえず一息つく。


 右腕で頬杖をつきながら外を眺めていると、ヘリコプターが一機エプロン上空を低い位置でホバリング(空中で停止)している。誘導を受けたであろうヘリは、誘導路の中央線をなぞる様に滑走路へ入っていく。ヘリは前のめりになるとそのまま加速し、滑走路真ん中あたりで高度を上げながら離陸していった。地元北海道の女満別空港めまんべつくうこうで見た風景とはまた違った趣がある。



「君、二稲木って言うんやろ? 俺は幡ヶ谷はたがやっていうねんけど、よろしくな」



 近くで人一倍大きな声で話していた活気のある男子が声をかけてくる。それはともかく非常に面倒なことになったのかも知れない、よりによってクラスで一番人気者になりそうな人に、知られているなんて。


「よろしく。でもどうして私の名前を?」


 精一杯平常心を保ちながら恐る恐る尋ねる。


「さっき赤髪の子と話とったやろ、それをちょっと聞いとってな」


 それ以上彼の口から言葉がでなかったので意外と拍子抜けした。すでにウイルスのように広がっているよりはマシだが、あまり気分のいいものでもない。今泉さんも知らなかったし、ひょっとすると案外みんな私のことを知らないのでは……。でも一応警戒は続けよう。


「ほんで、あんた何中出身や?」


 あくまで普通に振る舞おう。


「私は北海道の網走あばしり方面の出身だけど……」


 質問に対する答えになっていないのは、私の出身地北見市が何処なのかわかりづらい事と、私も彼の学校を聞いたところで、話し方から関西だと推測できるが場所までは分からない。結局ピンポイントで説明するよりも、有名な都市を言って説明した方が手っ取り早いと思った。


「北海道? ええなー、いつか行ってみたいと思っとった場所やねん。俺は大阪おおさか淀川よどがわ中出身で、リニア中央新幹線での登下校や」


 概ね思った通りの返答内容。第一北海道と括られても端から端まで五〇〇キロぐらいあるし、そもそも淀川中って大阪のどこなの?


 疑問ばかりが頭をよぎるので、首をやや傾けながら唇を結ぶ。


「それよりも、あんた鬼可愛いな、絶対いい人やろ」


 まるで言葉のジェットコースターみたいに私のペースを察しないで言葉を続けた。


「せや、よかったら、連絡先をもらえへんやろうか?」


 しないわ! と言いたいところではあるが、交換すると恐らくしつこいくらいにナンバされるだろうし、交換しないとそれはそれでしつこく交換をせがまれそうだし。そういえば……。私はスマホの連絡先を漁り、あるアカウントを見つけた。


「別にいいけれど、レスは遅いよ」


 ハッキリと聞こえないぐらいの声音で話しながら、仕方なく連絡先を交換した。交換をした直後、彼はさっと離れ仲間のところへ戻っていった。



「よっしゃ、例の子から連絡先をもらったでー。ええやろ!」


 彼は自慢げに三人の男子にスマホの画面を見せつけた。


「ゲット早すぎだろ! 僕も便乗して交換して貰おうかな」


「今がチャンスやで。この初対面同士のうちに交換した方がええで!」


「でも僕は意気地無しだし。恥ずかしいからあとで連絡先送ってくれない?」


「それはアカンやろ、自分でいきなはれや」


 会話が筒抜けであるうえ、彼が歓喜しているがそれがサブアカウントだなんて知る由もないだろう。最初は週一回で返信をして、徐々に返信回数を減らせばいいか。

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