3 赤髪の少女 #6

 入学式を控えた朝、私は制服一式を広げたまま戸惑っていた。式にはどの組み合わせで着ていけばいいのか分からない。紺色を基本としたブレザーが一着に対し、チェック柄の入った水色、赤色、茶色三種類のお洒落なプリーツスカート。今日は一体どれを履くのが正解なのか?

 しばらく迷いながら入学の資料を再確認した。そのとき、紙がファイルからすっと床に落ちた。手に取ってみると入学式当日の持ち物が書かれていた、ふと小さい文字ではあるが『入学式典時のみ服装指定、男子はブレザー制服一式の着用、女子はブレザー制服に赤色のリボンとスカートは水色のチェック柄を着用してください』と細々書かれていた。しっかり入学の書類に目を通していたはずなのに、見落としがあったみたい……。ともかく時間が迫っているので急いで指定の制服を着て部屋をあとにした。


 慣れない高層マンションのエレベーターを降りていくが、通勤時間の影響か三〇階までほぼ各階に止まった。三〇階からは目的の二階まで止まらないものの思いのほか時間がかかった。加えて到着するころまでには満員になっていたので軽く参ってしまい思わずため息が出る。明日からは出発の時間をもう少し早めてみよう。


 駅のガードを北口方面に抜けるが、通勤・通学の時間帯だからか、昨日と比べ物にならない程の人通りの数に圧倒されながらも、何とか人が自然と作る流れを見つけそこに溶け込むようにして進む。途中改札付近からふわっと吹き込む風にかすかにシナモンの香りが乗っている。食べたこともないし、それがどんな形をしているのかもわからないが何故かおいしい食べものだと推測しながら通り過ぎた。頭上の看板案内に従いようやくバスターミナルがある北口の二階デッキへと到達できた。私はカバンの中からバス乗り場の図が載っているリーフレットを取り出し注視する。だがあまりにも雑で簡略化されていて正直場所がわかりづらい。仕方がないのでそのリーフレットを片手に、近くの案内板に向かいバス停の位置を確認する。


 ふと後ろから誰かが慌ただしく走ってくるような足音が聞こえた刹那、背中に「ドン」とぶつかってきた。状況が理解できていないまま、反射的に後ろを見てみると、鮮麗で濃い赤色の髪が視界入った。それは私にとって最も好きな色合いの赤だった。ハーフアップに結ばれたその赤髪は、なんの混じりけなくその子によく似合っていて可愛らしい印象を受けた。

「ごめんなさい、あたし焦っていたのでつい……」

「大丈夫? 私は別に気にしていないですよ」

 華奢な体つきの彼女は深呼吸を二、三回してから息を整え私の制服を見つめた。

「その制服? ひょっとして飛桜高校ひおうこうこうに入学する一年生ですか?」

「そうですけど……」

 彼女は私の入学する学校を言い当てた。その服装に目を向けると、同じブレザーの制服だったのでしどろもどろになりながら聞いてみた。

「もしかして、あなたも飛桜高校に入学するの?」

 赤髪の彼女は安心した様子でにっこりとほほ笑んだ。

「よかったー、同じ学校に入学する子がいて安心した。ちょうどバスの場所も分からなくて、焦っていたから」

 安堵した様子で話していたが、次第にキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

「ヤバイ、もうすぐバスの発車時刻だよね? これを逃したら次は……」

 私はカフスのボタンを外し、すっと袖をまくってから腕時計を見た。するとまもなく発車時刻になるところだった。微妙に長いのでカフスは外したままにしておいた。リーフレットの時刻表と見比べながら彼女の言葉を続けた。

「次は一五分後みたいだね」

「主役のあたしたちが遅刻したらまずいよ! もうこのバスに乗っちゃおう! でも場所がわからないよ」

 彼女はまた辺りを見渡した。私は改めて行き先を示す案内板に目線を向けた。すると目的地の学校名が目に飛び込んだので、指で対応するバス停の番号をなぞって確認する。ちょうど学園都市線が右回り左回りのバスがあることも分かった。

「えっと、一七番乗り場の学園都市左回りに乗れれば、大丈夫みたいだよ」

 私が説明すると彼女は威勢良くバス停を指した。

「よしじゃあ急ごう!」

 元気がいいのは良いことだが、指さししている場所が違う。七番ではなく一七番。私は仕方なく彼女の腕を握って、乗り場への階段を駆け足で降りた。視界に入ったバスは既にエンジンをゴウゴウと唸らせながら今にも発車しそうだった。バスに乗り込むと同時に扉が音を立てて閉まる。なんとか置いて行かれずに済んだ。彼女が腕時計を読み取り機にかざし、私も続けて今日だけ乗車券を手に取る。あとで学校側にて定期の登録をして貰えるようだ。

 呼吸を落ち着けながら二人分開いている席に腰を降ろした。

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