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2021年4月17日 23:45 編集済
お世話になっております、あじさいです。 今更ながら、楽しく読ませていただきました。 実は『愛と呼べない夜を越えたい』を先に読ませていただいたのですが、そちらは本作の続編にあたるとのことなので、とりあえず先に本作の感想から失礼します。 本作は決められたタイトルに沿って物語を書くという自主企画の参加作品のようですが、このお題でここまでイメージを膨らませたのはすごいと思います。筆者が同じお題を前にしても、バカ正直に「月夜にコーヒーを飲む話」しか考えられないでしょうし、それを魅力ある物語に仕上げられる気もしません。 また、第1話における夜の描写が面白いと思いました。主人公の高橋さんがレポートの締切に追われて走ること、その夜道で「安っぽく白い外灯(あるいは街灯)が点滅」していることに加え、月が見えないことで高橋さんが「もう一度李徴との違いを突きつけられた」と感じるということによって、彼女の夜が詩情や文学性とはかけ離れたものであることが描かれている、というのが良いです。しかも月が見えないというこの状況がラストで効いてくるのも話の落とし方として巧みだと思います。 さて、僭越ながら改善点についても言及させていただきます。エッセイで散々「Web小説に対する批判は建設的なものでなければならない」と書いたところなので、なるべく今後の創作活動のお役に立ちうることを書くつもりです。もし前向きでない批判が混ざっていたら、お手数ですが強い心でスルーしてくださると幸いです。 まずは2点、全体的なことについて。 タイトルがあらかじめ決められているという性質上、ミステリー部分の粗さを指摘するのは意地悪になってしまうでしょう。その意味では触れない方が良いというか、久米坂さんご自身も分かっていらっしゃる点かもという気はしますが、一応申し上げると、Aさんが恋人の名前を「は月」と書いたことに違和感が残りました。僕も恋愛経験が豊富ではないので偉そうに語れる立場ではありませんし、自分で言ってて気持ち悪いと思いますが、Aさんは恋人の名前である「葉月」あるいは「はづき」、「ハヅキ」という文字列に特別な思い入れを持っているはずですから(Aさんは誕生日のサプライズの案を2ヶ月前から練っているくらいですし)、それを「は月」と書くことはAさんの恋心というか正義感というか美意識というか、なんかそういうものが許さないんじゃないか、と思いました。 もうひとつは、高橋さんが立石くんに謎解きの助力を頼まれたとき、高橋さんはレシートの文言にそこまで興味を持った訳ではないようですが(第1話の地の文に「問われ、私は曖昧に頷く」とあることからそう読めますが)、にもかかわらずこのとき既にレポートのことが頭から抜け落ちているらしいことが気になりました。第1話で立石くんが「高橋も一緒に考えてくんない?」と言ってきた時点で一旦「私、急いでるんだけど」と返すか、「バイト中に喋ってて、怒られない?」という台詞の裏でそう思っていることを本文中に明記するかした方が、少なくとも読んだとき共感はしやすくなる気がしました。もちろん、高橋さんが目の前に眠気覚ましの缶コーヒーがある状況でレポートの存在を忘れるくらいマイペースな性格という考え方もできなくはないですが、仮にそうだとしても、本文を読む限り彼女は割と常識人に見えるので、前後の場面に彼女のマイペース具合を反映した描写が何かしら欲しい気がします。 以下、細かいところ、主に誤字や文法について失礼します。文字数や読みやすさの都合で、本文から改善点を含む文を引用した後、→「 」で該当箇所の修正案を書き、その下に解説をつける形にしたいと思います。初の試みですが、分かりやすくするために、本文の改善点と修正案を【 】で括ってみようと思います(かえって見づらくなっている場合は知らせていただけると助かります)。修正案の( )は入れても入れなくても良いか、僕の方では判断しきれなかった案です。便宜的に修正案や解説という言葉を使っていますが、「俺様の言うとおりに修正しろ!」と偉そうなことを申し上げるつもりはありませんし、実際のところ我ながら神経質に思えるものや上手く説明できない感覚的なものを含みます。解説は、カクヨムのシステムではコメントのリレーが何度もできないので、誤解や説明不足を避けるために一応付けるだけのものです。当然ながら最終的な判断は久米坂さんにお任せしますので、面倒なようならスルーしてください。エピソードごとのサブタイトルが時刻になっていますが、僕が混同しそうなので、誠に勝手ながら、「第1話」、「第2話」といった呼び方をさせていただきます。 このコメント自体に誤字脱字や分かりにくい箇所があったら、先に謝っておきます、すみません。第1話「17日【期限】の課題が3つもあるが、火曜日まで2日あるし、全然間に合う」→「17日【が(提出)期限の】」あるいは「17日【締切】の」 初っ端から微妙なところです。僕の考えすぎという気もしますが、一応触れておきます。「十月の【夜長】は思いの外寒く、私は【上に羽織ってきた】白いパーカーの襟元を掻き合わせると、小走り【に】コンビニ【への道を行き始めた】」→「十月の【夜】は」。また、「私は【羽織ってきた】白いパーカーの」。また、「小走り【で】コンビニ【へ向かった】」 手元の辞書によると「夜長」は「夜が長いこと。また、その季節」で、ここから考えて「秋の夜長」は秋の夜が長いことを強調した言葉です。となると、夜のごく一時点を切り取っているこの文脈には合わないように思います。 パーカーは普通上半身に着るものなので、「羽織ってきた」と書くなら直前の「上に」は省略できると思います。もちろん、「Tシャツの上に」、「パジャマの上に」などなら「上に」と書いても良いでしょう(ファッションに疎い身で要らんことを言うと、これから走ろうという人は「パーカーの襟元を掻き合わせる」(襟元を抑えたまま走り始める)のではなく、手を自由にするために「パーカーのチャックを襟元まで引き上げる」のではないかという気もします)。「安っぽく白い【外灯】が点滅する道を駆ける最中、ふと夜空を見上げる。ニュースでは、【今日】は満月だと言われていたが、灰色のどんよりとした雲に覆われているせいで、月は見えない」→「【街灯】が点滅する道を」。また、「【今夜】は満月だと」 辞書によると「外灯」は「〔門灯など〕屋外にとりつけた電灯。屋外灯」のこと、「街灯」は「道路を照らすため、道ばたに設けた電灯。街路灯」のことで、「外灯」も「街灯」も類語だそうです。つまり、どちらでも構わないと言えばそうなのですが、久米坂さんがここで書いているのは「街灯」の方のような気がしたので、一応注意喚起しておきます。 「今日は満月」か「今夜は満月」かは、我ながら神経質というか揚げ足取りという気がしますが、今後僕のようなヤツに揚げ足取りされる事態を前もって回避するなら、「今夜」としておいた方が無難だと思います。第2話「メモに残すということは、重要度は問わないにしても、忘れたくない、【及び】忘れては困る事柄が書かれていると考えるべきだ」→「忘れたくない、【かつ】忘れては困る事柄が」 辞書によると接続詞の「及び」は「同じ条件の物事を並べあげるときに使う語。…と…。…も…も」、例文には「生徒及び父兄」とあります。となると、基本的に名詞と名詞をつなぐ語ということになりそうです。また、「忘れたくない事柄、及び忘れては困る事柄が書かれている」と書いてしまうと「忘れたくない事柄も忘れては困る事柄もどちらも書かれている」という意味になるように思います。ということで、修正案では「かつ」でつなげてみました。 ただ、「忘れたくない」と「忘れては困る」との間に違いがあるのか、考えている内によく分からなくなってきました。直前に「重要度は問わないにしても」とも書いてあることですし、単に「忘れたくない事柄が書かれている」で良いような気もします。というか、可能性を考えるなら「忘れたくない、もしくは書いておかないと忘れてしまいそうな事柄が書かれている」という文にする道も残されているかもしれません。まあ、あまり細かい話に拘泥しても作品の空気を損ねるだけかもしれませんが。「しかし、今日のような曇天でなければ、月なんていつでも見られる。一日ぐらい逃したとて何ら問題は【ないのに】、【わざわざメモする必要はあるのだろうか】」→「何ら問題は【ないはずなのに】、【なぜわざわざメモしたのだろうか】」 直前の立石くんの仮説「このメモの書き手は月見しながらコーヒーを飲みたくて、それを忘れないようにメモした、ってこと」に疑問を投げかける文脈なので、「一日ぐらい逃したとて何ら問題はない」ことも確定事項ではなく仮説の域を出ません。ということで、「はず」が必要になると考えます。 原文の文脈で「わざわざメモする必要はあるのだろうか」と書くと反語表現になり、「いや、メモする必要はない」という否定的な結論を強調することになってしまいます。しかし、実際のところメモは既に書かれているので、反語を使ったこの主張は事実に反していることになり、発言と文脈の関係から言って不適切、ということになると思います。「ということで、私達はレシートの表面から、メモの書き手の人物像を【調べる】【こ】にした」→「【推理する】【こと】にした」 レシートの表に直接的に人物像が書かれている訳ではないことを考えると、「調べる」というより「推理する」、「推測する」、「推論する」、「推し量る」といった言葉の方がしっくりくると思います。「ちなみに、この辺りに小中学校はあるものの、登下校の最中に寄り道を許されていないので、小中学生は最初から除外だ」 文法的なことではありませんが、コンビニ店員の立石くんはともかく、高橋さんがこの近所の小中学校の校則を知っている背景がよく分かりませんでした(本文の記述を見落としているだけだったらすみません)。高橋さんが下宿していることから考えて、彼女は大学に通うために実家を出たのだと思いますが、となれば、大学やコンビニの周辺の出身ではない可能性が高いので、近所の小中学校の校則は知らないと考えるのが自然ではないかと思います(高橋さんが駄菓子屋やファストフード店でバイトをしているなら話は別ですが)。立石くんの台詞「それに、どっちにせよ、さっき高橋の言った【 】【『月』が抽象的すぎる】問題は解決されてないよな」→「さっき高橋の言った【、】【何で(単に)『月』としか書かれていないのかって】問題は」 上手く説明できませんが、いくら月の形が指定されていないにしても、月は基本的には具体物なので、「『月』(という言葉)が抽象的すぎる」という表現は言いすぎじゃないかという気がします。ちなみに、辞書によると「抽象的」とは「個々のものから共通の性質をぬき出して一般化するようす」、「頭の中だけで考えて現実性を持たないようす」とあります。第3話立石くんの台詞「まあ、区切る位置が中途半端だよな。でも、それが?」 これも文法的なことではありませんが、特に緊急性がある訳でもない謎解きに付き合ってくれている相手、しかも意中の異性に対する言葉として「でも、それが?」では少々乱暴すぎる気がしました。「でも、まあ、そういうこともあるんじゃないか?」とか、「でも、これは『珈琲は、月の下で』としか読めないし……」といった、もう少しソフトな口調にした方が自然ではないかと思います。「立ち尽くす様子は、さながら石の如く。」→「立ち尽くすこと、石の如し。」、あるいは「立ち尽くしている、さながら石の如く。」 ご存じのように「如く」は連用形なので、用言あるいは文が続くことを期待させますが、文脈的に「石の如く」に対応する語は「立ち尽くす」しかありません。という訳で、両者を対応させつつ、「立」「石」の順番を保持するために、風林火山の構文と倒置法で修正案を考えてみました。「【とは言えど】、私もついさっき、レシートの持ち主は高校生ではないと言い切っている」→【とは言え】「【言うと】、立石が【説を追加する】」→「【私の説に】、立石が【補足を入れる】」、あるいは「【私がそう言うと】、立石が【(私の)説に補足を入れる】」 原文には違和感を覚えますが、それに代わる表現については迷いました。修正案の他、「立石が(私の)説に補足をする」、「立石が(私の)説を補完する」、「私の説に立石が一応加勢してくれる」、「私の説に立石が(自身の)推論を付け加える」といった書き方も考えてはみましたが、比較的しっくりきたと言えるのは修正案に選んだ上の2つくらいです。ひとつの逃げではありますが、仮に僕が書くなら、この1文を丸々削ることも視野に入れるかな、と思います。「こう考えると、【わざわざ『珈琲』を漢字で書いた】【意味の裏付けも厚くなるはずだ】」→「こう考えると、【『珈琲』がわざわざ漢字で書かれている】【ことにも納得がいく】」 1文丸ごと見直すなら、「この考え(あるいは“この仮説”)は、『珈琲』がわざわざ漢字で書かれている事実とも辻褄が合っている(はずだ)」「わざわざ『珈琲』が漢字で書かれていることも、この考えを裏付けている」 などの書き方も可能だと思います。第4話立石くんの台詞「まさか【あの】一文から、【ここにたどり着く】とはな……」→「まさか【この】一文から」。また、「【こんな話が導き出される】とはな……」あるいは「【こんなことが分かってしまう】とはな……」 レシートが「手の中」にあるので「あの一文」ではなく「この一文(あるいは“この走り書き”)」が適切でしょう。久世さんの台詞「立石君には話したでしょ? 彼氏に8月に誕生日祝ってもらったって。その彼氏のやつだと思う。いっつも紅茶と、紅茶味の蒸しパン買ってるから」 これも文法的なことではありませんが、立石くんがレシートを手に取って裏面のメモを見ていた場面で、久世さんが特徴的な裏面より先に表面に注目し、しかも買われている商品から「これ、康介のだ」と結論づけるのは、少し不自然な気がしました。むしろ、裏面のメモを見て、「これ、康介の字に似てる」と呟いてから(あるいはそういう表情を見せてから)表面を見て「やっぱりそうだ」と言う方が自然ではないかと思います。 余談になりますが、本作を読んでいて、「久世さん、良いキャラしてるな」と思いました。高橋さんと立石くんが散々悩んだ後で久世さんが出てくるという展開は、リアルな中にもユーモアが利いていて面白いですし、作品の構造の点から言っても、序盤で紹介されていた話を伏線として回収した上で、推理を推理で終わらせずに答え合わせによるカタルシスにつながっていて良かったと思います。「プリンをじっと見つめていると、微かな呟きが耳朶【に】掠る」→「耳朶【を】掠る」 辞書で「掠る」を調べると例文には「弾丸が的を掠る」、「賃金を掠る」、「なべを掠る」と書かれており、いずれも「~を掠る」の形なので、「~に掠る」という言い方はあまりしないのではないかと判断しました。 以上です。 改善点に関する話はどうしても長くなるのでそればかり話しているような印象になるかもしれませんが、このように長文のコメントを書くのは本作に魅力を感じるからこそです。それに、僕が指摘させていただいたことはどれも、本作全体を支える発想力やキャラクターたちの魅力に比べれば大した問題ではないので、気を落とさないでいただけると幸いです。 長文失礼しました。
作者からの返信
返信が大変遅くなってしまい、申し訳ありません。コメント、ありがとうございます!あじさいさんのエッセイやプロフィールを読み、とても誠実に創作と向き合っていらっしゃる方だと思っていたので、そんなあじさいさんから長文のアドバイスを頂けて、とても嬉しかったです。最後までしっかりと目を通しました。自分では気づけていなかった文章の違和感や誤字・脱字・衍字、誤用などを知ることができました。感謝してもしきれません。現在、拙作を手直しする時間を充分に取ることができないので、すぐにというわけにはいきませんが、あじさいさんのアドバイスを参考に手直しをしていきたいと思います。また、これから他の作品を書く際にも参考にさせていただきます。本当に、ありがとうございました!
2020年10月11日 20:01
日常系ミステリですね。このフレーズからミステリに持っていこうという発想が柔軟で素晴らしいです。
読んでいただき、ありがとうございます。発想を評価してくださって嬉しいです。肝心のミステリ部分は力及ばず、穴だらけだったので……(笑)
編集済
お世話になっております、あじさいです。
今更ながら、楽しく読ませていただきました。
実は『愛と呼べない夜を越えたい』を先に読ませていただいたのですが、そちらは本作の続編にあたるとのことなので、とりあえず先に本作の感想から失礼します。
本作は決められたタイトルに沿って物語を書くという自主企画の参加作品のようですが、このお題でここまでイメージを膨らませたのはすごいと思います。筆者が同じお題を前にしても、バカ正直に「月夜にコーヒーを飲む話」しか考えられないでしょうし、それを魅力ある物語に仕上げられる気もしません。
また、第1話における夜の描写が面白いと思いました。主人公の高橋さんがレポートの締切に追われて走ること、その夜道で「安っぽく白い外灯(あるいは街灯)が点滅」していることに加え、月が見えないことで高橋さんが「もう一度李徴との違いを突きつけられた」と感じるということによって、彼女の夜が詩情や文学性とはかけ離れたものであることが描かれている、というのが良いです。しかも月が見えないというこの状況がラストで効いてくるのも話の落とし方として巧みだと思います。
さて、僭越ながら改善点についても言及させていただきます。エッセイで散々「Web小説に対する批判は建設的なものでなければならない」と書いたところなので、なるべく今後の創作活動のお役に立ちうることを書くつもりです。もし前向きでない批判が混ざっていたら、お手数ですが強い心でスルーしてくださると幸いです。
まずは2点、全体的なことについて。
タイトルがあらかじめ決められているという性質上、ミステリー部分の粗さを指摘するのは意地悪になってしまうでしょう。その意味では触れない方が良いというか、久米坂さんご自身も分かっていらっしゃる点かもという気はしますが、一応申し上げると、Aさんが恋人の名前を「は月」と書いたことに違和感が残りました。僕も恋愛経験が豊富ではないので偉そうに語れる立場ではありませんし、自分で言ってて気持ち悪いと思いますが、Aさんは恋人の名前である「葉月」あるいは「はづき」、「ハヅキ」という文字列に特別な思い入れを持っているはずですから(Aさんは誕生日のサプライズの案を2ヶ月前から練っているくらいですし)、それを「は月」と書くことはAさんの恋心というか正義感というか美意識というか、なんかそういうものが許さないんじゃないか、と思いました。
もうひとつは、高橋さんが立石くんに謎解きの助力を頼まれたとき、高橋さんはレシートの文言にそこまで興味を持った訳ではないようですが(第1話の地の文に「問われ、私は曖昧に頷く」とあることからそう読めますが)、にもかかわらずこのとき既にレポートのことが頭から抜け落ちているらしいことが気になりました。第1話で立石くんが「高橋も一緒に考えてくんない?」と言ってきた時点で一旦「私、急いでるんだけど」と返すか、「バイト中に喋ってて、怒られない?」という台詞の裏でそう思っていることを本文中に明記するかした方が、少なくとも読んだとき共感はしやすくなる気がしました。もちろん、高橋さんが目の前に眠気覚ましの缶コーヒーがある状況でレポートの存在を忘れるくらいマイペースな性格という考え方もできなくはないですが、仮にそうだとしても、本文を読む限り彼女は割と常識人に見えるので、前後の場面に彼女のマイペース具合を反映した描写が何かしら欲しい気がします。
以下、細かいところ、主に誤字や文法について失礼します。文字数や読みやすさの都合で、本文から改善点を含む文を引用した後、→「 」で該当箇所の修正案を書き、その下に解説をつける形にしたいと思います。初の試みですが、分かりやすくするために、本文の改善点と修正案を【 】で括ってみようと思います(かえって見づらくなっている場合は知らせていただけると助かります)。修正案の( )は入れても入れなくても良いか、僕の方では判断しきれなかった案です。便宜的に修正案や解説という言葉を使っていますが、「俺様の言うとおりに修正しろ!」と偉そうなことを申し上げるつもりはありませんし、実際のところ我ながら神経質に思えるものや上手く説明できない感覚的なものを含みます。解説は、カクヨムのシステムではコメントのリレーが何度もできないので、誤解や説明不足を避けるために一応付けるだけのものです。当然ながら最終的な判断は久米坂さんにお任せしますので、面倒なようならスルーしてください。エピソードごとのサブタイトルが時刻になっていますが、僕が混同しそうなので、誠に勝手ながら、「第1話」、「第2話」といった呼び方をさせていただきます。
このコメント自体に誤字脱字や分かりにくい箇所があったら、先に謝っておきます、すみません。
第1話
「17日【期限】の課題が3つもあるが、火曜日まで2日あるし、全然間に合う」
→「17日【が(提出)期限の】」あるいは「17日【締切】の」
初っ端から微妙なところです。僕の考えすぎという気もしますが、一応触れておきます。
「十月の【夜長】は思いの外寒く、私は【上に羽織ってきた】白いパーカーの襟元を掻き合わせると、小走り【に】コンビニ【への道を行き始めた】」
→「十月の【夜】は」。また、「私は【羽織ってきた】白いパーカーの」。また、「小走り【で】コンビニ【へ向かった】」
手元の辞書によると「夜長」は「夜が長いこと。また、その季節」で、ここから考えて「秋の夜長」は秋の夜が長いことを強調した言葉です。となると、夜のごく一時点を切り取っているこの文脈には合わないように思います。
パーカーは普通上半身に着るものなので、「羽織ってきた」と書くなら直前の「上に」は省略できると思います。もちろん、「Tシャツの上に」、「パジャマの上に」などなら「上に」と書いても良いでしょう(ファッションに疎い身で要らんことを言うと、これから走ろうという人は「パーカーの襟元を掻き合わせる」(襟元を抑えたまま走り始める)のではなく、手を自由にするために「パーカーのチャックを襟元まで引き上げる」のではないかという気もします)。
「安っぽく白い【外灯】が点滅する道を駆ける最中、ふと夜空を見上げる。ニュースでは、【今日】は満月だと言われていたが、灰色のどんよりとした雲に覆われているせいで、月は見えない」
→「【街灯】が点滅する道を」。また、「【今夜】は満月だと」
辞書によると「外灯」は「〔門灯など〕屋外にとりつけた電灯。屋外灯」のこと、「街灯」は「道路を照らすため、道ばたに設けた電灯。街路灯」のことで、「外灯」も「街灯」も類語だそうです。つまり、どちらでも構わないと言えばそうなのですが、久米坂さんがここで書いているのは「街灯」の方のような気がしたので、一応注意喚起しておきます。
「今日は満月」か「今夜は満月」かは、我ながら神経質というか揚げ足取りという気がしますが、今後僕のようなヤツに揚げ足取りされる事態を前もって回避するなら、「今夜」としておいた方が無難だと思います。
第2話
「メモに残すということは、重要度は問わないにしても、忘れたくない、【及び】忘れては困る事柄が書かれていると考えるべきだ」
→「忘れたくない、【かつ】忘れては困る事柄が」
辞書によると接続詞の「及び」は「同じ条件の物事を並べあげるときに使う語。…と…。…も…も」、例文には「生徒及び父兄」とあります。となると、基本的に名詞と名詞をつなぐ語ということになりそうです。また、「忘れたくない事柄、及び忘れては困る事柄が書かれている」と書いてしまうと「忘れたくない事柄も忘れては困る事柄もどちらも書かれている」という意味になるように思います。ということで、修正案では「かつ」でつなげてみました。
ただ、「忘れたくない」と「忘れては困る」との間に違いがあるのか、考えている内によく分からなくなってきました。直前に「重要度は問わないにしても」とも書いてあることですし、単に「忘れたくない事柄が書かれている」で良いような気もします。というか、可能性を考えるなら「忘れたくない、もしくは書いておかないと忘れてしまいそうな事柄が書かれている」という文にする道も残されているかもしれません。まあ、あまり細かい話に拘泥しても作品の空気を損ねるだけかもしれませんが。
「しかし、今日のような曇天でなければ、月なんていつでも見られる。一日ぐらい逃したとて何ら問題は【ないのに】、【わざわざメモする必要はあるのだろうか】」
→「何ら問題は【ないはずなのに】、【なぜわざわざメモしたのだろうか】」
直前の立石くんの仮説「このメモの書き手は月見しながらコーヒーを飲みたくて、それを忘れないようにメモした、ってこと」に疑問を投げかける文脈なので、「一日ぐらい逃したとて何ら問題はない」ことも確定事項ではなく仮説の域を出ません。ということで、「はず」が必要になると考えます。
原文の文脈で「わざわざメモする必要はあるのだろうか」と書くと反語表現になり、「いや、メモする必要はない」という否定的な結論を強調することになってしまいます。しかし、実際のところメモは既に書かれているので、反語を使ったこの主張は事実に反していることになり、発言と文脈の関係から言って不適切、ということになると思います。
「ということで、私達はレシートの表面から、メモの書き手の人物像を【調べる】【こ】にした」
→「【推理する】【こと】にした」
レシートの表に直接的に人物像が書かれている訳ではないことを考えると、「調べる」というより「推理する」、「推測する」、「推論する」、「推し量る」といった言葉の方がしっくりくると思います。
「ちなみに、この辺りに小中学校はあるものの、登下校の最中に寄り道を許されていないので、小中学生は最初から除外だ」
文法的なことではありませんが、コンビニ店員の立石くんはともかく、高橋さんがこの近所の小中学校の校則を知っている背景がよく分かりませんでした(本文の記述を見落としているだけだったらすみません)。高橋さんが下宿していることから考えて、彼女は大学に通うために実家を出たのだと思いますが、となれば、大学やコンビニの周辺の出身ではない可能性が高いので、近所の小中学校の校則は知らないと考えるのが自然ではないかと思います(高橋さんが駄菓子屋やファストフード店でバイトをしているなら話は別ですが)。
立石くんの台詞「それに、どっちにせよ、さっき高橋の言った【 】【『月』が抽象的すぎる】問題は解決されてないよな」
→「さっき高橋の言った【、】【何で(単に)『月』としか書かれていないのかって】問題は」
上手く説明できませんが、いくら月の形が指定されていないにしても、月は基本的には具体物なので、「『月』(という言葉)が抽象的すぎる」という表現は言いすぎじゃないかという気がします。ちなみに、辞書によると「抽象的」とは「個々のものから共通の性質をぬき出して一般化するようす」、「頭の中だけで考えて現実性を持たないようす」とあります。
第3話
立石くんの台詞「まあ、区切る位置が中途半端だよな。でも、それが?」
これも文法的なことではありませんが、特に緊急性がある訳でもない謎解きに付き合ってくれている相手、しかも意中の異性に対する言葉として「でも、それが?」では少々乱暴すぎる気がしました。「でも、まあ、そういうこともあるんじゃないか?」とか、「でも、これは『珈琲は、月の下で』としか読めないし……」といった、もう少しソフトな口調にした方が自然ではないかと思います。
「立ち尽くす様子は、さながら石の如く。」
→「立ち尽くすこと、石の如し。」、あるいは「立ち尽くしている、さながら石の如く。」
ご存じのように「如く」は連用形なので、用言あるいは文が続くことを期待させますが、文脈的に「石の如く」に対応する語は「立ち尽くす」しかありません。という訳で、両者を対応させつつ、「立」「石」の順番を保持するために、風林火山の構文と倒置法で修正案を考えてみました。
「【とは言えど】、私もついさっき、レシートの持ち主は高校生ではないと言い切っている」
→【とは言え】
「【言うと】、立石が【説を追加する】」
→「【私の説に】、立石が【補足を入れる】」、あるいは「【私がそう言うと】、立石が【(私の)説に補足を入れる】」
原文には違和感を覚えますが、それに代わる表現については迷いました。修正案の他、「立石が(私の)説に補足をする」、「立石が(私の)説を補完する」、「私の説に立石が一応加勢してくれる」、「私の説に立石が(自身の)推論を付け加える」といった書き方も考えてはみましたが、比較的しっくりきたと言えるのは修正案に選んだ上の2つくらいです。ひとつの逃げではありますが、仮に僕が書くなら、この1文を丸々削ることも視野に入れるかな、と思います。
「こう考えると、【わざわざ『珈琲』を漢字で書いた】【意味の裏付けも厚くなるはずだ】」
→「こう考えると、【『珈琲』がわざわざ漢字で書かれている】【ことにも納得がいく】」
1文丸ごと見直すなら、
「この考え(あるいは“この仮説”)は、『珈琲』がわざわざ漢字で書かれている事実とも辻褄が合っている(はずだ)」
「わざわざ『珈琲』が漢字で書かれていることも、この考えを裏付けている」
などの書き方も可能だと思います。
第4話
立石くんの台詞「まさか【あの】一文から、【ここにたどり着く】とはな……」
→「まさか【この】一文から」。また、「【こんな話が導き出される】とはな……」あるいは「【こんなことが分かってしまう】とはな……」
レシートが「手の中」にあるので「あの一文」ではなく「この一文(あるいは“この走り書き”)」が適切でしょう。
久世さんの台詞「立石君には話したでしょ? 彼氏に8月に誕生日祝ってもらったって。その彼氏のやつだと思う。いっつも紅茶と、紅茶味の蒸しパン買ってるから」
これも文法的なことではありませんが、立石くんがレシートを手に取って裏面のメモを見ていた場面で、久世さんが特徴的な裏面より先に表面に注目し、しかも買われている商品から「これ、康介のだ」と結論づけるのは、少し不自然な気がしました。むしろ、裏面のメモを見て、「これ、康介の字に似てる」と呟いてから(あるいはそういう表情を見せてから)表面を見て「やっぱりそうだ」と言う方が自然ではないかと思います。
余談になりますが、本作を読んでいて、「久世さん、良いキャラしてるな」と思いました。高橋さんと立石くんが散々悩んだ後で久世さんが出てくるという展開は、リアルな中にもユーモアが利いていて面白いですし、作品の構造の点から言っても、序盤で紹介されていた話を伏線として回収した上で、推理を推理で終わらせずに答え合わせによるカタルシスにつながっていて良かったと思います。
「プリンをじっと見つめていると、微かな呟きが耳朶【に】掠る」
→「耳朶【を】掠る」
辞書で「掠る」を調べると例文には「弾丸が的を掠る」、「賃金を掠る」、「なべを掠る」と書かれており、いずれも「~を掠る」の形なので、「~に掠る」という言い方はあまりしないのではないかと判断しました。
以上です。
改善点に関する話はどうしても長くなるのでそればかり話しているような印象になるかもしれませんが、このように長文のコメントを書くのは本作に魅力を感じるからこそです。それに、僕が指摘させていただいたことはどれも、本作全体を支える発想力やキャラクターたちの魅力に比べれば大した問題ではないので、気を落とさないでいただけると幸いです。
長文失礼しました。
作者からの返信
返信が大変遅くなってしまい、申し訳ありません。コメント、ありがとうございます!
あじさいさんのエッセイやプロフィールを読み、とても誠実に創作と向き合っていらっしゃる方だと思っていたので、そんなあじさいさんから長文のアドバイスを頂けて、とても嬉しかったです。
最後までしっかりと目を通しました。自分では気づけていなかった文章の違和感や誤字・脱字・衍字、誤用などを知ることができました。感謝してもしきれません。
現在、拙作を手直しする時間を充分に取ることができないので、すぐにというわけにはいきませんが、あじさいさんのアドバイスを参考に手直しをしていきたいと思います。また、これから他の作品を書く際にも参考にさせていただきます。
本当に、ありがとうございました!