メイドさんのオムライス

「えっと……なにこれ」


 こんにちは、こんばんは。私は今、物知りのひいおばあちゃんでも驚愕して腰を抜かしてしまいそうな、それこそ天変地異が起きても起こらないような現象にあっています。


「えっと……なにこれ……」


 そんなすごいことを、たかがトラック、それも覚えている限りでは、たぶん軽トラックのようなものに引かれることで、引き起こしてしまいました。


「お嬢様、どうされましたか?」

「おじょ……うぇえ!?」

「お嬢様?」


 白と黒の、大人しめのドレスっぽいものを着た女性が、目の前に……。

 あ、えっと、なにこれ?


 待って、状況把握しないと。とりあえず、今の状況の整理を……。

 白黒のドレスを着た女性が、目の前で立っている……。


「お、オムライスおねがいしまう」

「かしこまりました」


 それだけ言うと、女性は優雅なお辞儀? みたいなものをしてどこかに行ってしまう。


「メイド喫茶……?」


 トラックに引かれて、メイド喫茶にいる……? 私が引きこもっている間に、病院とメイド喫茶が合体したのかな、いや、うん。ないかな。自分で言ってて無いわ、って思う。


 となると、メイドさんがいる場所、あとはネ友のみんなが言っていた言葉から導くと……。


「お嬢様、どうぞ。夕食が近いので、少なめにしております」

「ぴっ! ……あ、ありがとう、ごじゃいまひゅ」


うわわわわわ、見ないでぇ! 引きこもってて対面で話すのは数年ぶりなの! メイド(仮)さん、見ないでー!


「お嬢様、どうされました? 先程から――」

「大丈夫ですっ、大丈夫ですから、外に!」

「……かしこまりました」


 メイドざんは、私の必死さに気圧されたみたいになりながら、部屋から出ていく。


 あ、オムライス作ってくれたのに、お礼いい忘れちゃったぁ、今度言わないと……。


 オムライスからは、美味しそうな匂いが暖かな空気とともに流れてくる。


 とりあえず、とりあえず。私がいるのは部屋で、結構広い。大きなベッドに、机と椅子、衣装棚、鏡台、オムライス、窓、綺麗な花、オムライス、床に敷かれた絨毯、オムライス……。


「オムライス、一回オムライスを食べてから考えよう。うん、冷ますのも悪いし、うん。現実逃避じゃない、オムライスなの」


 なんて、意味の分からないことを言いながら、混乱しながら食べたオムライスは、美味しかった。卵がとろとろですごくて、具材もすごくおいしくて、ライスも噛むたびに旨味が広がってすごくて……私の語彙力の限界を感じた。


「はふ、ふう、とりあえず、ここは私がいた世界とは、違う」


 食器が、日本で使っているものじゃなくて、銀で出来たものだった。いつも使ってた食器の素材とか知らないけど。なんとなくさっき使った食器は銀! っていう感じがした。


 あとは、やっぱり。


 ステータス

名前:ルナ・ルーメリア 種族:人族

クラス:無し

レベル1

HP34/34 MP58/58

STR:5

VIT:4

AGI:6

INT:30

DEX:13

LUK:0


パッシブスキル

[MP自動回復Lv1]

アクティブスキル

-

固有スキル

「翻訳Lv-」

称号

[ルーメリア公爵令嬢]



 ステータスなんて、あると思わなかったけど、試してみたらこれですよ。


「それにしてもこのステータス……弱いのか強いのかわからないなぁ」


 ステータスの数字は低い気がする。でもスキルがいっぱいある。


 くぅ、引きこもってる間にこういうゲームしておけば良かったなぁ。

 HPはヒットポイント、MPはマジックポイント、STRからわからない……。エスティーアール、すつる? すてる、すてろ? だめだ、わかんない。VITは、バイタリティのはず、AGIはアギリティ? アギリティだった気がする。あとは、INTとDEX、LUK……LUKは運でしょ、ラッキーって言うもん。INTとDEXはなんだろ? いんと、でっくす……うん、また今度考えよう。


 次はスキル? うわあ、3種類もある。パッシブ、アクティブ、固有? 固有はなんとなくわかるけど、パッシブとアクティブってなんだろ? 

 うぅ、英語もっと勉強しておけばよかった……。


 固有スキルの翻訳? なんの意味があるんだろ? 

 あ、違う世界だから、翻訳のスキルのおかげで話せてたのかな。


 へー、すごい便利。


 コンコン、と扉が叩かれて、「お嬢様、夕食のお時間です」と言われた。


「は、はい」


 びっくりして、普通に声が出せずにうんうん唸りながら、メイドが持ってきてくれた夕食を食べる。


 あれ、夕食だけどお母さんとお父さんと一緒に食べないのかな? あ、このスープ美味しい。


「旦那様、奥様ともにご帰宅が一週間程延びるみたいです」

「ほ、ほふはん……んぐ、ですね」


 白色のパンを口いっぱいに頬張り、飲み込みながら答えると、メイドさんの目の色が変わった気がした。


「申し訳ありません、少しだけ離れさせていただきます」

「あ、ご飯、持ってきてくれて、ありがとうございます」


 お辞儀をして部屋から出ていくメイドさんを見送って、また白ぱんを頬張る私。

 なんだろう、なにか怒らせちゃったのかな……。引きこもりだった私に、人の感情を見抜くのは難しすぎるよ。なにか、人の感情を知る方法とかないのかなぁ。

 結局、パッシブとアクティブのことも分からなかったし、今度メイドさんに聞いてみようかな? いやでも、迷惑だと思われそうだし……。


 まあいっか、なるようになるかな。


 そう考えながら、再びパンを頬張り始めるルナだった。

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