第4話 10月23日(金曜日)19:47

ピンポーン…


(…ん?なんだ…)

悟は目を開いたがあまりの眩しさに目が眩む。

途端に後頭部に鋭い痛みが。

(痛ってぇ…)


ようやく目が慣れ周りを見渡すとそこには、血溜まりに横たわっているミズキが。

悟の脳に先程の映像が流れる。

そして気付く、自分の左手にハンマー。

悟は理解ができなかった、ハンマーを凝視したまま何秒経っただろう。


ガチャ。


リビングのドアが開き、そこにはヨシロウとモエ。

2人は目を見開き

「うわぁぁぁぁぁぁあ!」

「キャァァァァァア!」


悟は自分でも理解のし得ないこの状況に助けを求めようとした。だが、ヨシロウの目線は悟の左手にあった。

思わず離す。

ゴトンッ!

フローリングの床に鈍い音が鳴る。


「ちがう!これはちがうんだ!おれじゃない!」

必死で発する言葉。これしかでない。まるで犯人のような台詞じゃないか。


「モエ、後ろにいろ。とりあえず警察に連絡だ。」

とヨシロウが言った。


「待ってくれ!俺じゃないんだ本当に!俺が来た時はミズ…」

「黙れ!」

ヨシロウの怒号が響き渡る。


悟はこんなヨシロウは見たことがなかった。

ヨシロウは中学からの付き合いで頭も非常に良く、高校に上がるときはもっと進学校に行けたはずなのだが、悟たちがいるからという理由で同じ高校に通っていたくらいだ。

だから悟はヨシロウの初めて見る敵意にひどく悲しく、怖かった。


「なんでだ?なんでなんだ?」

黙りこくる悟に問うヨシロウ。

「知らない!まじで知らないんだ!」

ヨシロウに近寄るが、ヨシロウは後退りをする。

それに気づいた悟は動くのをやめた。


玄関の扉が開く音がした。

「警察だ!動くな!」

若い警察官1人入ってきた。


悟の心臓の脈拍数が一気に上昇し始めた。

(まてよ…このままだと逮捕…!?)

あまりにも早すぎる出来事に頭がぐちゃぐちゃになっている。


「待てよ!俺はなにもやってない!」

これしかでてこない。必死で弁解しようとするも

ヨシロウ、モエ、警官、みんな軽蔑と恐怖からくる目をしている。

(ダメだ…なんで俺が…ふざけんな…)

突如、悟の中にやり場のない怒りが生まれる。

(ふざけんなよ…やってねえんだよ…)


「殺人の容疑で20:04現行犯逮捕する!」

応援を呼び終えた警官が言い放つ。

こちらに来る。

その時、悟の頬にヒューと風が当たる。

(ベランダの窓が開いてる…ここは三階…)

悟の脳に悪魔だか天使だか解らないものが囁いた。

「クソがぁ!」

身体が勝手に動いていた。


「ゴルァ!」

警官の怒鳴り声。

悟はもう人生が終わったと思った、両親や美里の顔が浮かぶ。これが走馬灯か?

このまま頭から飛び込んでやろうか?

否、それよりも怒りが勝っていた。

(ふざけんなよ!どいつもこいつも!俺が自分自身で無実を照明するしかねえ!)


悟はそのまま3階から闇夜へダイブした。

なぜだか高揚感を少し感じていた。アドレナリンで後頭部の痛みも忘れている。

久々だ。こんなスリルは。







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