第3話 10月23日(金曜日)19:23

「お疲れっしたー。お先に失礼します。」

ロッカーから荷物を取り出すと目にもとまらぬ速さで退勤する。きっと早く帰ることに関してだけは才能があるのだろう。無論何も活かせないのだが。


スマホで時間を見ると19:10である。

(少し早くあがっちまったな。ここからミズキんちは近いしなぁ)

悟が1番恐れていることはミズキと2人きりで皆を待つことだった。

10月も後半に差し掛かり少し肌寒い。

だが仕事終わりはこの空気が気持ちいい。

悟は鼻から空気を吸いゆっくりと吐き出す。

反復しながら大通りを歩いていく…。



(ん…ここかな。)

大通りから少し外れた4階建てのアパート。というよりかはマンションに近い。

佐田ミズキはここの302号室である。

(てかあいつこんな良いところで一人暮らししてんのかよ)

いまだ実家暮らしの悟は少し心が重くなる。


エレベーターを使い三階へと上がる。

(ここか…)

佐田と表札のあるドアの前に立つ。

スマホでもう一度時間を確認する。

(19:23…まあヨシロウ、あいつ約束の時間より早く来るし大丈夫だろう。やべ、スマホの充電ないじゃん)

悟はチャイムを押す。

ピンポーン…

(あれ?もしかしてミズキよりも早かった?)

念のためもう一度押す。

ピンポーン…


(まじか…めっちゃ楽しみで早く来た奴みたいに思われるじゃん。ここは一度外で時間をつぶ)


ガチャ。


鍵の音がした。

だがドアは開かない。

(なんだよ。入って良いのか?)

「入るぞー。」

悟は恐る恐るドアを開ける。

だが、室内は真っ暗であった。

(え、まじかよ。こわ)

スマホのライト機能で玄関の照明のスイッチを探す。

だがつかない。

「ミズキー?」

(ブレーカー落ちてんのか?てかあいつなにしてんの?)

ゆっくりと歩きリビングであろう部屋のドアを開ける。


スマホのライトで照らす。

「うわ。」

余りの部屋の散らかりように声が出た。

(きたねえなぁ。男の俺より汚いぞ)

ライトでふと、下を照らした。


そこには紅く染まった何かが。

理解するには10秒は必要だった。ミズキだ。

声が出ない。なぜか声が出ない。スマホを持つ手が震える。

そうだ。警察、警察!


瞬間、後頭部に鈍い衝撃。

悟はその場に倒れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る