(3)異種族篇
終電に乗って帰宅中、突然、変な音と共に電車が止まった。
『異常を確認しましたので、急停車いたしました。申し訳ございませんが、しばらくお待ち下さい。詳しい状況が判り次第、運転再開の見込み時間を連絡いたします』
車内放送が、そう告げた。
明日は休日で助かった。連日、早朝まで残業なのに、仕事の前に寝る時間が更に遅くなったら、洒落にならない。
「申し訳ありません。お客様の中に、夜間に当社から連絡してもよろしい方は居らっしゃいますでしょうか?」
車掌が、この車両にやって来てそう言った。
「事故ですか?」
私は車掌に、そう聞いた。
「ええ……人身のようで……」
「めずらしいですね……えっ? 人身って言いました?」
「ええ、まだ、時々、地上から迷い込んで来るのが居るみたいで……」
人間の上層部と我々の間に協定が結ばれて数百年。
まだ、人間をやめて、我々の一員に成ろうとする馬鹿が地上には居るらしい。
実は、人間社会こそが、我々グール族の社会を模倣して作られているとも知らずに……。
人間社会を地獄だと思っている人間にとっては、このグール族の地下世界こそが……「死」と云う解放さえ無い更なる地獄なのだ。
五百年前に人間をやめてグール族に生れ変った私が言うのだから間違いない。
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