第51話 たっぷりバッティング練習を
そして、たっぷりバッティング練習をさせてもらった後、裕木は、俺を借りると部員たちに言い、俺とサラを近所のカラオケボックスに誘った。こんなものが、学校に近くにあるなんてさすが女子校だけはある。
「裕木、今日はありがとう。密度の高い練習ができて感謝している」
「あのくらいなんでもない。明日も明後日も甲子園にも付いて行くから気にするな。さすがに甲子園練習は入れてもらえないけどな」
「さすがにそれはまずいだろう。確かにうちは一一人しかいないから、練習を手伝ってもらえるのは助かるんだが」
「それは、心配するな。サラが八月一日に天翔学園に転校する。俺は、サラには世話になったからサラを手伝いたいだけだ」
「手伝うだけにしてよ。恋愛感情はナッシングでお願いしますよ。裕木さん?」
サラが裕木に釘を刺した。
「……うん 」
「ところで、転校の話は本当なのか? サラ」
「そうだよ。修学ピザなんて、最初の学校だけ、あとは何とでもなるのよ」
「まあ、確かに。修学ピザでやってきて、学校やめて就労している留学生の話も時々聞くが……」
「だって、この三人が転生者だって知っているのはこのメンバーだけ、元々、私はあなたに憧れて野球に係わっていたしね。あの、庇われたことで決まりかな」
整った顔で、大きく瞳を見開き、グリーンの瞳が上目遣いで覗きこんできてドキッとする。俺は、どぎまぎしてそれでも裕木を気遣い言葉をつなげる。
「いや、裕木の事はどうするんだ? お前らそれでもバッテリーを組んでいたんだろう? 」
「でも、裕木さん、いえ、君(くん)ね。私実年齢は、古場君といっしょ。お子様には興味がわかないのよ。容姿は美少女高校生でもね」
「自分で、美少女っていうな! まあ、俺は今年卒業でプロに行くからな」
裕木が必死に明るい話題に持っていこうとする。
「サラ、俺から見ても、今だにサラはメアリーだ。今のサラよりメアリーのことの方が良く知っている」
「わかっているわよ。だから、今のサラを知ってもらうために古場君の傍にいることにしたの」
「俺も、その話を聞いて、サラを応援する決心をなんとかしたんだ。古場、サラの気持ちを受け入れてやれよ」
「まあまあ、どのみち、サラがうちの学園に来るのは決定事項だろう。なら、これからじっくり付き合えるさ。野球を通してな」
「うん」再び、サラが、俺の瞳を覗き込む。
転生前の俺に、メアリーに対して恋愛感情があったか? まあ、ゆっくり思い出せばいい。違うのなら、背中の傷が疼くだけだ。
俺は、納得し右手をサラの前に差し出す。
「ようこそ、天翔学園女子野球部へ、俺はあなたの入部を歓迎します」
「ありがとう。きっと、このチームのためになって見せるわ」
サラが俺の手を両手で握り返した。
「さて、やっとその気になったか。それじゃあまた明日な。支払はお願いします」
裕木が席を立ち、カラオケボックスから出ていく。
「さて、古場君、本題に入るんだけど、私もこの世界来て驚いたわ。まさか、生理になると筋力が一.五倍になるなんてね」
「ああ、俺も驚いた」
「でも、甲子園の日程から言えば、天翔学園女子野球部はその恩恵を受けることができないよね。今日もすでに終わった何人かは、裕木の球について来れなかった」
「ああ、明日のない真剣勝負になれば、男性ホルモンの分泌が少なくなる生理後の女の子じゃ、勝利に対する執念て意味じゃ分が悪いよな」
「じゃあ、どうするのよ? 負けてもいいの?」
「大丈夫だ。俺は、そのホルモンのカラクリをすでに見抜いているんだ」
「へえー、 どうゆうこと?」
「いいか、生理中は女性ホルモンの分泌量が増える。それに伴って、男性ホルモンが増えるんだが、この世界では、もともと女性ホルモンの分泌量が多い。だから、美人が多いんだけどな。
それで、ホルモンバランスを取るために、男性ホルモンの内、俺たちの世界にないテストステロンZというステロイド系ホルモンが分泌されるんだ」
「なるほどね。それは、筋肉増強剤みたいなものね」
「そうだ、それで、女性ホルモンが大量に分泌されるとテストステロンZが分泌されることを利用すれば解決することができるんだ」
「それって、どうすれば?」
「お前が、天翔学園に転入して来ればわかるよ」
「今、教えてくれてもいいじゃない」
「だめだ。まだ俺たちは仲間になっていない」
「うーん。わかったわよ」
そうして、俺たちはその後、歌を一曲ずつ歌い、そして、城西高校の寮までサラを送っていく。
「さて、どううちの部員たちに言うかな? 」
重くなった足取りで天翔学園の宿舎に帰るのだった。
そして、夕食前のミーティングの時、美咲がいきなり発言をする。
「サラがこの学園に転校してくるって本当ですか?」
「ああ……、知ってるのか」
「今日、宣言されちゃった。古場監督のハートを射止めるのはわたしだって」
光希が顔をしかめて発言する。
「それで、お前らはどう思っているんだ? 」
「監督とサラとの関係は少し気になんねんけど、まだ、付き合ってないちゅうのはサラの宣言でわかったねん。ちゅうことは、監督は絶対に生徒には手を出さへんから、今までと何も変わらんのとちゃう」
桃が笑っていう。
「なんで、そう思うんだ? 」
「だって、今までだって、これだけ監督に好意を寄せている美少女が選り取りみどりなのに、監督、誰にも手を出さないじゃない」
雪乃がしたり顔で返答した。そうか、マッサージの時のあのどんどん挑発的になっていく服装は俺を誘っていたのか?
「それに、監督って研究者でしょ。私たちはサンプル、いいえモルモットね。モルモットに欲情する人なんていないわ」
汐里がひどいことを言う。しかし、さすがの洞察力だ。
「よし、汐里、モルモットに命令する。必ず、甲子園大会で選手宣誓をしろ。これも俺の実験だ」
「監督、望む所です! 」
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