第46話 二回の天翔学園の攻撃の前に
二回の天翔学園の攻撃の前に、俺は円陣を組む。
「いいか、裕木とサラのバッテリー相手では、狙い球を絞るだけ相手を楽にさせる。桜の空手と同じだ。どんな球にも対応できるように、肩の力を抜きリラックスして、来た球に反応して打ち返せ!」
「いい、相手をよく見て、即座に反応して、カウンターを叩きこむのよ。そのためには自然体でボールを待つのよ!」
桜が俺の指示をフォーローする。
「そうだ、今までと何も変わらないぞ。視野を広く保ち、リラックスからイメージできた動作をコンマゼロ1秒でいいから早く初動を開始する。このコンマゼロ1秒が、予測してから動く動きと無からの反射して動く動きの差を埋める時間になる。
「わかりました」
話を聞いていなかった六番桃、七番葉月は、ストレート狙いを外され、凡打を打たされた。
八番汐里は、サラに狙いが分からず2ボールの後、探りで入れてきた外角の高速スライダーに、完璧なタイミングで合わせたが、ショートの守備に阻まれ、ショートゴロに終わった。
二回、光希は、先頭打者のサラにきわどく低めに外れる変化球を見逃され、苦し紛れにストライクを取りに行ったストレートを完璧に捉えられ、ライトスタンドに運ばれた。
汐里のやつ、例の変化球は温存したか? いや、ここぞという時にどぎもを抜くためにもこれが正解だ。
一対一で同点にされたがまだ序盤、この一点はくれてやる。
それに、光希はそこから崩れず踏ん張り、五番六番をシンカーと宜野座カーブで三振に抑えた。
汐里、ナイスだ。ここは決め球の連投でいいぞ。流れが向こうに行く前に、全力を持って流れを止める。さすが修羅場をくぐってきているだけはある。今までの教訓から、こういう時は、躱してはいけないことが身に染みてわかっている。
二回裏、早くも試合は振り出しに戻った。
三回表、九番光希は、最近ますます、バッティング練習ができていないため、裕木の球についていけない。あっさり、三振して帰って来た。
一番陽菜は、低めのフォークボールの三連投で三球三振だ。
サラの奴、陽菜を相当警戒している。陽菜の好きな低めを餌に、視界から消えるほどの落差のあるボールだ。メリハリをつけたリードはさすがだが、次の美咲のツキまでは予測してないだろう。
俺の予想通り、美咲には、高めの釣り球を打たせてアウトを取りに来たが、ポンと出したバットに当たったボールはふらふらとファーストの後方に上がり、ライン際に落ちファールグランドを転々と転がっていく。
飛んだところがラッキーだった。ポテンヒットが二塁打になる。
そして、京は2ストライクからのフォークボールに対し必死にバットを止め、2ボール2ストライクにした後、外から入ってくるスライダーを三遊間にゴロを打つ。しかし、ショートの守備範囲か。
2アウト、セカンドにいた美咲は当然スタートを切っている。ちょうど京の打ったボールと交差するように、ショートの視界を一瞬さえぎる。ショートが何とかボールに追いついたが、目が美咲を追ったまま一塁に送球してしまった。それで、この送球はファーストの頭を超える大暴投になってしまった。
いいスタートを切っていた美咲は、そのまま、ホームを蹴け抜ける。京も二塁に達している。
二対一で、天翔学園は再び先手を取った。
しかし、四番の麗奈は一回同様ブレーキになり、凡打に倒れた。
三回裏は、城西高校は八番九番一番の打順だったが、三者凡退に終わり、四回表、天翔学園も五番梨沙、六番桃が凡退、七番葉月が単打を放つが、八番汐里が凡打で0点に終わる。
そして、四回裏、二番、三番は上手く狙い球を外し、打ち取ったがここで四番のサラに打順が回ってくる。
大きな落差の宜野座カーブと大きく落ちるシンカーでサラを攻める光希と汐里だが、サラは極端にバットの出を遅らせ、巧みにファールを打ってくる。限界まで球を引きつけ、ファールで逃げる。
こんな芸当ができるとは。光希が消耗し、コースが甘くなったところを一発行かれるぞ。
汐里の出すサインに光希が大きく肯く。バッテリーの雰囲気が変わったみたいだ。サラは当然、雰囲気を感じ取っていて、警戒を強めている。
(しかし、光希のボールはサラの予想の遥か上を行く!)俺は、確信を持って成り行きを見守る。
大きく光希が振りかぶり、腰を折り大きく沈むと、流れるような動作でアンダースローからボールが解き放たれる。
サラに向かう投球は、宜野座カーブよりさらに遅く、サラは体を必死に残しながらボールが来るのを待っている。若干泳ぎながらもボールを捉えようとするが、
「ええっ、ボールが揺れている。いや、私のフォームが崩れているの? 」
きっと、サラの目には、ボールが2つにも3つにも見えていることだろう。そして、さらに揺れながら手元で落ちる!
サラのバットが空を切った。
光希の勝ちだ!!
光希、それから雪乃は幼いころからピアノの英才教育を受け、指先を鍛えるために最初は、洗濯バサミ、その後、バネを仕込んだハンドトレーナーで、指先の強化に励んできているのだ。
実際、ピアニストがこんな訓練をしているなんて、二人に聞くまで俺も知らなかった。
その鍛えられた指先からはじき出されたナックルボールは、まったくの無回転でリリースされる。そしてその変化は俺の予想さえ超え、左右に大きく揺らぎ、バッターボックスの手前でさらに失速し、揺れながら大きく落ちる。
汐里がしっかり体を張って止め、茫然とバッターボックスで立ち尽くしているサラにタッチする。
大会に入ってから投げる練習を始めたが、ストライクが入るようになるのと、汐里が何とか止められるようになるのに今までかかっていたのだった。
リードされた上、サラが打てないボールを持っている。相手の心を折るのに十分だと思うが、ここでも、ステータスは警告音を発しない。
四回を終わって二対一だ。
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