第45話 県大会決勝、県営球場に着き
県大会決勝、県営球場に着き、試合前のオーダー交換で、キャプテンの汐里が持ってきたオーダーを見て驚いた。
「監督、今日も先攻を取ってきました。それで、向こうのキャッチャー、サラじゃなくて、佐藤だって」
「なに、サラどっか怪我したのか? 決勝を前にこのオーダー変更、解せないな? 」
しかし、サラがキャッチャーじゃないとすると、作戦の読み合いはこちらが有利になる。ある程度、お互いがどう出るかが分かっている状態で作戦を決行するのだから、運、不運、試合の流れなど考慮しながら作戦を考えなければいけないと考えていたのだ。
それが、サラがキャチャーをしないとなると、こちらの作戦が読まれることがない?
「みんな、試合中、サラの動きに注意しておいてくれ。何かのサインが出ている可能性が高い」
俺は、裕木とサラの今日の言い争いから発展した確執など知らない。
サラの動きを警戒するのは当然の采配だった。
試合開始、一〇分前、ステータスを開く。結局、サラがなぜ一塁を守っているのか解らなかった。体調を崩している訳でもなく、体力、運とも平常運転だ。ツイテいるのが六番で、ツイテないのが八番に入った佐藤か。なるほど、もう一人のツイテないのが、ファーストを守っていた八番打者だ。ツイテないのを引込めて、ツイテないのを出す。益々わからない。
こちらは、ツイいるのが七番葉月で、ツイテないのが麗奈か、決勝戦という大事な試合で四番がブレーキになることはよくあることだ。序盤試合の流れは五分、予想通りだ。
試合開始のサイレンが鳴り、一回表、陽菜が打席に立つ。初球、大暴投だ!! バックネットに一直線に突き刺さり、跳ね返ることなくボールはネットを駆け上がる。
どこかで見た光景だ。なるほど、ボールの突き刺さったネットの先には、どこかで見た女性が座って、こちらに向かって手を振っている。
野球の女神様か。来るとは思っていた。
裕木もビンビンに意識している。すると次は変化球か? 思った通り、高速スライダーが来た。俺は、陽菜に待てのサインを出す。そして、次に来た球はストレート、さらに待てだ。
今度は、低めに外れるフォークボールで、次は、高めの釣り球、三ボールから二ストライクから投げられたボールは、アウトコース低め、当然、陽菜には伝達済みだ。
一五〇キロのアウトコース低めのストレートを踏込み三遊間に鋭い打球が飛ぶ。
打球は、レフトに達し、陽菜は一塁を回ったところで止まった。
スタンドが大きく湧いている。裕木は此処まで五試合、コールドの参考記録も含め、四試合でノーヒットノーランを達成している。これほどのクリーンヒットを打たれたことがこの大会中あっただろうか。
ところで、このキャッチャー配球が読みやすい。ストレートと変化球が交互に来て、追い込めば、フォークボール、見切られれば釣り球、困った時は、アウトロー。
これが、サラならこうはいかなかった。狙い球を巧みにかわし、時には打たせ、時には厳しく来るだろう。そして裕木はそれができる投手なのだ。
ストレートを狙い、二番美咲は外角をライト前に放ち、一塁三塁とし、さらに京がセンター前に運んで、一点を先制して、一塁二塁と責め立てる。
城西高校のベンチから伝令が走り、マウンドに内野陣が集まる。
なにか、裕木が指示を拒否しているように、伝令と言い争っている。
マウンドに集まった内野陣
「キャッチャーをサラに変える。裕木、納得しろよ」
「ふざけるな、サラは相手に勝たせようとリードするのに決まってるんだぞ」
「ばかなことを言うな。そんなはずないだろう。サラからも言ってやってくれ」
「裕木先輩、私、もう我慢できない。あんなリード、裕木先輩を壊すリードだわ。私が先輩の負担を軽くしてあげる。私を信じて!!」
「わかったよ。好きにしろよ!」
どうやら裕木が渋々納得して、伝令が主審に向かって選手交代を告げた。
サラがキャッチャーに入り、ファーストにいつもの選手が入り、向こうもいつものベストメンバーになる。
そして、四番麗奈に投じられた一球は、ストレートの軌道から小さく沈むカットボール。ストレート狙いの麗奈は、芯を外されショートゴロ、きれいなゲッツーが決まり、ランナー2アウト三塁になった。梨沙も、ストレート狙いを見透かされ、ツーシームをバットの根っこで打って、サードゴロ、一回の攻撃は一点で終わった。
ベンチに帰り際、サラがこちらのベンチを見て、感心するように両肩をすくめる。
(どうだ、サラ。普通なら、当てる事さえ難しい裕木の変化球。差し込まれながらも、前に打ち返しているぞ)
「監督、いまのサラのジェッチャー何なの? 」
「ああ、あれはな、サラの予想以上にボールに当ててくるからびっくりしているのさ。奴の打席ではさらに目をまるくするぞ」
1回の裏、天翔学園の先発は、準決勝でリリーフに回った光希が先発だ。
いくら、サラが鍛えたとは言え、それまでは特に突出することもない一般的な高校球児だ。確かに、リラックスしている状態から始動が始まり、タイミングの取り方が良くなり、バットのヘッドスピードが上がっている。
しかし、それだけではボールは打てない。空間認知能力は幼いころの生活が影響するところが大きいし、周辺視野は男性は女性に比べて、相当訓練しないとすぐボールに集中してしまう。
思った通り、光希の変則モーション、球の出どこが見にくく、思っているより球が早く手元に来ている。そのため、どうしてもボールに視線は集中してしまい。光希と汐里のバッテリーに翻弄される。狙い球をボール一つ外して投げ、狙い球とは逆のボールを思わず手が出る好きなコースになげるなど、一番、二番、三番に凡打を打たせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます