第44話 いよいよ、決勝戦を迎える前日
いよいよ、決勝戦を迎える前日のミーティング、俺はみんなに向かって檄を飛ばしていた。
「明日の決勝、絶対に勝てる。ここに世界の常識を覆した木庭さんがいる。そして、明日は君たちが常識を覆す番だ。野球の勝敗なんてやってみないと解らない。
だが、明日の一勝だけは約束されている。なぜなら、君たちの勝利を、観客が、審判が、そして野球の女神が願ってくれているからだ!!
いままで、君たちを支えてくれたこの人たちの目の前で、勝利するんだ! 」
「「「「「はい!」」」」」」
うーん、やっぱり俺が転生者であることは言えなかった。でも、彼女たちは、城西の転生者、裕木やサラのように、野球の女神の加護を受けたわけでない。自分たちの才能と努力が、開花して決勝の舞台に立っているのだ。
自分たちの力のみで決勝の舞台に立つ、このことが一番尊い。
俺は自分が転生者であり、ステータスというスキルを与えられているからこそ、その尊さが一番よくわかる。
「みんな、もし明日負けたら、罰ゲームは監督の背中を流すでいいわよね?」
木庭さんが、みんなを見回し宣言する。
どこかで聞いたことがある罰ゲームだ。
美咲がこの宣言に言葉を返す。
「絶対に明日は勝つよ! 監督には悪いけど、この事実だけは変えられない」
「おおっ、絶対に勝て! お前たちに流してもらわなくても、俺の背中は何時もきれいだ」
俺の背中には、背後から無慈悲に打たれた銃痕の跡がアザになって残っている。オリオン座の三ツ星の形にアザが残っているのだ。
古来から日本ではオリオン座の三ツ星は勝ち星と呼ばれていて、毛利氏の家紋などになっている縁起のいい傷跡だ。
あの過激強盗集団は、その場で警察官に打ち殺されたらしいが、俺が唯一奴らに感謝するなら、背負わされた運命を切り開く勝ち星を俺の背中に刻んでくれたことだな。
俺は、明日に今日の疲れを残さないよう指示し、体に疲れや違和感のあるものについては、マッサージを受けるように言い、ミーティングを終えた。
結局、全員のマッサージをすることになり、俺は、遅い風呂に入り、布団の中に潜り込む。
城西高校試合は全部ビデオで見ている。それでも、まったく明日のゲームプランが浮かばない。何度、シュミレーションしても、あの裕木とサラが俺の前に立ちふさがるのだ。
俺は布団の中で何度も寝返りを打ち、寝付けない時間を過ごす。
それでも、昼間の疲れからか、いつの間にか寝入っていたようだった。
◇◇◇
けたたましいノックの音で叩き起こされた。
「監督、早く食事をして下さい。みんなは、もう、グラウンドで準備体操を終え、練習が始まるのを待っていますよ」
部長の木庭さんから今日のスケジュールについて聞いていたのに、俺が遅れていくとは。
俺が食事を終え、グラウンドに出ていくと、みんなはピッチングマシンを相手に、いい打撃音を残しながら、右に左にするどいライナーを飛ばしている。お互いにバッティングフォームをチェックしながら、アドバイスをし合っている。
(もはや、俺の出る幕はないな)と思いながら、グラウンドに出ていくと、みんなが俺に気づき挨拶をしてくる。俺は、それに返事を返しながら、体をほぐし準備体操をする。
「よし、全員、守備につけ! 」
俺はノックを始める。そして、仕上げに高く高くボールを打ち上げていく。
ベース付近、マウンド、そして、芝生の切れ目めがけて、打球は、落下速度を上げ、裾野を広げながら落ちてくる。
みんなは、そういった障害物に足を囚われることなく、打球を難なく処理していく。
取った者から挨拶をし、一塁側のファールグラウンドに並んでいく。
「お世話になっているグラウンドに対して礼! 」
「ありがとうございました! 」
キャプテンの汐里の号令に、みんなの挨拶が続く。
みんな、決勝と気負うことなく、普段のとおり落ち着いている。始めのころ、この高く上がるノックで、ポロポロしていたのがウソのようだ。空間認知能力が研ぎ澄まされて、障害物さえギクシャクすることなく、自然と避けて捕球している。
よし、決戦の場に向けて出発だ。
一方、城西高校では、裕木とサラが言い争っていた。
「裕木先輩、この大会に入って、ここまで五試合、炎天下の中五〇〇球以上投げているんですよ。クレージですよ。アメリカではありえないです。今日はリリーフでお願いします」
「ばか! サラ、何言ってんだ。俺が投げなくて誰が投げんだよ。ふざけたこと言ってんじゃないぞ!!」
「控えの田中でいいじゃない。私たちが打って必ずリードするから、裕木先輩は最後、かっこよく三者三振で締めるでいいじゃない」
「いや違う。お前、あの古場ってやつに本当は勝ってほしいんだろう?」
「なに言ってるのよ! あなたは、将来プロ野球界を背負って立つ逸材なのよ。ここで無理して将来投げられなくなったらどうするのよ」
「あーっ、お前、アメリカ人だから、甲子園に行く意味が良くわかってないだろう。今、このメンバーで行くことが大事なんだよ」
「あーあっ、甲子園、甲子園ってそんなに大事かしら? 」
「お前、そんな考えかよ。もう、お前を信用できない。キャッチャーは、お前が入部する前の佐藤でいくぞ、お前、一塁でも守っていろ!!」
二人は、険悪なムードのまま、決勝に臨む。
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