第43話 翌日、城西高校が目の前で

 ◇◇◇


 翌日、城西高校が目の前で、決勝進出を決めた。五対〇、相変わらず付け入る隙のない完璧な勝ち方だ。サラとはベンチ交代の時、ベンチ裏で二言、三言交わして別れを告げる。

「勝って決勝まで上がってきてよ。楽しみにしているから」だって。当然だ。俺も「楽しみにしている」と返し、心の中で、(俺と同じ時代に転生してきたことを後悔させてやる)と呟き、口角を上げる。

「監督、なにか悪いことを考えてるみたい? 」

 その場にはみんなが居たが、美咲が代表者として言ったようだ。

「そう見えるか、明日、あいつらをどうやって、ギャフンと言わそうか考えていた」

「監督、本当に「ギャフン」って言う人はいないって」

 まわりのみんなが笑い、一瞬あった険悪ムードが消し飛ぶ。美咲のおかげで落ち着いて、みんなが試合に入ることができるぞ。


 そして、試合が開始される。ステータスには、今日ツイテいるのが、桜と出ている。これは俺のファインプレーか?

 今日もいつもの通り先攻をとり、初回の攻撃を迎える。

 一番陽菜は、三球目をサードとショート、ピッチャーの真ん中に当たり損ねの緩いゴロを打った。まだ、開始早々で内野陣の動きは固い。「しょっぱな飛んでくるのが、この当たりはないわ!」

 サードの嘆きが聞こえるようだ。

 陽菜は悠々一塁セーフで内野安打で出塁した。そして、二番桜に対して、相手バッテリーは相当陽菜の足を警戒しているのか、初球ウエスト、二球目ストレートでストライク、三球目真ん中高めというか、顔付近の高さに、ウエスト気味にボールが来る。

 そのコースは、桜にとっては絶好球だ。

 桜のクロスカウンターが炸裂する。

 左中間を深々と破る3塁打で、一点先取した。二番に入れた俺の大ファインプレー確定だ。

 そして、京は相手バッテリーが警戒するあまり、きわどいコースが外れ四球で歩いた。その後、麗奈が外野フライを打ち上げ、二点を先取できた。

 思惑通り試合が進む。

 相手は、じっくり見てくる作戦のようだ。しかし、雪乃と汐里のバッテリーは、打つ気の無い打者に対してポンポンとストライクを取り、焦ったところでボールを打たせることで、アウトを重ねていく。汐里の観察眼が的中している。

 それにボールの出どこが見にくい分、ストライクとボールの見極めが甘くなっている。

 こちらも消耗を押さえ、チャンスらしいチャンスもなく淡々と試合が進み、六回を終わって二対〇のままである。

 そろそろ相手も焦りが出だす頃か?


 七回裏、雪乃が先頭打者を桜のエラーで出してしまう。

 やはり、桜は守備に不安がある。回も押し迫っている。そろそろ変え時か? 致命的なエラーが出る前に、などと俺が思案していると、次のツイテいる打者の初球に警告音が鳴った。

 なに? 初球攻撃。しかもヒットエンドラン。そろそろ疲れが見える雪乃から光希にスイッチすることを警戒して、焦りから強引に初球から仕掛けてきたらしい。

 ある程度、呼んでいたバッテリーだが、ここは思いっきり打ってきたバッターの勝ちだ。

 高めボール球を強引に叩きつけゴロを打つ、強烈な打球は地を這うような当たりで、セカンドの桜を襲う。

 そして、やはりこの打者はツイテいる。桜の前で打球は大きく跳ねあがり、顔面に向かって強烈な打球が飛ぶ。危ない!!

 桜が紙一重でその打球を避ける。まさに、フェイントを躱す神技的ディフェンスだ。

 すでに、ライトの陽菜がダッシュしてきていて、ボールを捕球し、中継の桜に返す。桜は振り向きざま、三塁の位置も確認せずにサードに送球、きわどいタイミングだが、ランナーをアウトに仕留めた。

 空間認知能力を鍛えてきたことがここで生きた。

 これは、桜を桃に変えなくて正解だった。桜だからこそ躱すことができた。野球の経験が染みついている桃なら逃げる選択肢がなく、打球を喰らうなり、弾くなりして、どこにボールが弾かれるかだが、三塁はセーフになった可能性が高い。

 どうやら、このプレーは相手チームの心を折ったらしい。俺は、ピッチャーを光希、セカンドを桃に替え、次の打者をショートゴロゲッツーに打ち取った。やはり、守備は桃の方が安心して見ていられる。

 光希は、八回、九回も城東工業を三者凡退に抑え、二対〇で俺たちは勝った。

 結局、初回に先制しそのまま主導権を握り、一見こう着状態に見えるように試合をあえて動かさず、唯一あった六回の相手のチャンスで、一旦喜ばし、地獄の底に叩き落とす会心の心の折り方で、まさにゲームプランの通りの勝ち方だった。


 それにしても、「ピンチの後にチャンスあり」、逆にこちらがチャンスを作らなければピンチを迎えることもない。こういった試合展開も間々(まま)あるものだ。

 これで、大きな消耗もなく明日の決勝戦に望める。

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