第35話 いよいよ、予選大会の組み合わせも決まり

 いよいよ、予選大会の組み合わせも決まり、大会モードに突入だ。

こちらの異世界では、県大会の予選の組み合わせ抽選会は、だれが引いてもいいらしい。そこでテータスを使ってみると使えた。もう、すでに戦いは始まっているということらしい。

もっとも運のいい選手ということで、美咲に抽選くじを引かせた。

 その結果、転生者、裕木博人のいるブロックは反対側で、天翔女子学園の同じやぐらの中には強豪校もなく、シード校とあたるのも三回戦から。気を緩めるわけではないが、ベストエイトまでは、お花畑が広がる道を景色を楽しみながらのんびり行くことができそうだ。

 しかも、一回戦の最終試合、決勝までの日程は最短で、初戦を乗り切ることができれば、みんな例の日になり、戦力が整い、決勝まで続く予定だ。


 開会式が始まり、県下の高校の吹奏学部による「栄冠は君に輝く」が演奏される中、入場行進が始まる。

 天翔学園女子野球部の選手たちは、初出場にふさわしく、胸を張り堂々と行進している。女の子の声と足並みがそろい、スタンドに陣取った高校野球ファンから声援と拍手がわき上がる。すでに人々を魅了する演技が始まっている。俺は彼女たちの成長に満足して目を細める。

 横で、部長の木庭さんが、俺に声を掛けてきた。

「すばらしい行進ですね」

「ええ、落ち着いています。きっとやってくれると思います」

俺もそれに答えて思う。

 その後、大会役員の長い挨拶中に、プラカードを持つマネージャーがパタパタ倒れるいつもの光景のあと、ヘリコブターから始球式のボールが投げ落とされ、開会式が終わる。


 一回戦、この県営球場での初戦は、転生者率いる城西高校だ。

 俺たちはバックネット裏に陣取り、城西高校の試合をチームで見ることにした。

 初めて、裕木を見て衝撃を受けたあと、練習試合でピッチングを見て、これで三度目だがその後の彼は成長をしているのか? あれだけ招待試合をこなせば、大会突入と同時に肉体的にはヘロヘロに違いない。相手のことながらそんな心配をしていたんだが……。

 しかし、試合が始まれば速球、変化球はさらに磨きがかかり、言葉は悪いが、省エネピッチングを身に着け、力押しのピッチングが影を潜め、打者と駆け引きをする中で危なげなく各打者を打ち取っている。

 打線も好調で、打力がないと思われていた打線は、理想的な体の使い方でバットのヘッドスピードが上がり、しっかりボールを捉えミートしている。守備もエースに対する気後れがなくなり、緊張が解けリラックスして球に反応できている感じだ。

 どういうことだ? これは俺の野球理論と通じる理論を持って鍛え上げられている。

 試合が進むにつれその理由が分かってきた。

 キッチャーが変わっている。しかも金髪の女の子だ。この子が守備の要として、投手を完全にコントロールしている。守備もキャッチャーに全幅の信頼を置き、彼女が守備全体のリズムを造っている。

 打撃も城西高校の左打者で四番に座り、すさまじい打棒を披露している。ボールを捕えた瞬間、右手でグリップを引き戻すことで、フォロースイングをコンパクトにして、ヘッドスピードを増す高等テクニックで、ライナーでライトスタンドに二本本塁打を打ち込んでいる。

 それにしても、一五〇キロ以上のボールをやすやすとキャッチングし、打者の動きから狙い球を読み完璧な配球をする女の子がいることが、この異世界においても異常だ。

 試合はあっという間に、一三対〇で城西高校の五回コールドで終わってしまった。

 裕木投手は、五回をパーフェクトに抑え、守備も無失策、打線も一七安打と付け入る隙を見せなかった。

 あのチームがここまで変わるとは……。俺たちは勝つことができるのか?

 しかし、この女の子、試合中やたら俺の方を見るな? なんか俺にアピールしているようにすら見えるのだが?


 試合が終わって、さて学校に戻ろうとチームのみんなに指示を出し、ごみ等を片付けていると、後ろからいきなり抱きつかれた。何が起こった? 俺はチームの女の子にここまで慕われてはいないと思っていたんだが?

 あわてて振り返ると、そこには、夏の太陽をキラキラと反射させながらなびく金髪に、きりっとした二重に大きなグリーンの瞳、少し日に焼けた肌に、白く輝く歯をのぞかせて、微笑んでいるフランス人形顔負けの美少女が懐かしそうな顔をして俺の手を取って話しかけてくる。

「古場君、元気にしていた? 私、この世界に転生していたのよ。あなたをテレビで見てすべてを思い出したの。あの時、せっかくあなたが私を庇ってくれたのに、私も犯人の凶弾に撃たれて死んじゃったみたい。 そして、一六年前にこの世界に生まれ変わったみたいなの」

 すべて、英語でしゃべっている。俺は留学していたからなんとなく理解できるが、周りの女の子たちはポカーンをした表情をしている。

 俺が死んだ時、一緒にいた女の子、あの時、確か野球部のマネージャーの子が一緒に居たような気がする。その子のために俺は犯人の凶弾の前に立ちふさがったぞ。

 思い出した。マネージャーだから俺の野球理論もよく知っていたはずだ。

「君は、あの時のメアリーか?あの時は、赤茶色の髪にブラウンの瞳でそばかすがあったはずだ」

 俺も、彼女に英語で話かけた。

「わかってくれた。私、少女に生まれ変わったみたい。私の今の名前は、サラ・ミラー。サラって読んでね。でもすっごい偶然、アメリカに生まれた私が日本に留学していて、あなたと再び接点を持つなんて、これも運命の神様、いいえ、野球の女神様のおかげね」

「お前、野球の女神を知っているのか? 」

「知っているも何も、私に攻走守に抜きんでた選手になりたいという願いをかなえて転生させてくれた女神様よ。もっと色々話をしたいけど、私、ミーティングがあるから、また今度ね」

 サラは俺の右ほほにキスをして、手を振りながら去っていった。サラの後ろでは、転生者の裕木が、怖い目をして俺を睨んでいる。これは確実に敵認定されたな。

 さらに周りを見ると、チームの女の子たちも、興味深々で俺とサラを交互に見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る